#10 part2

「『黒鵜座一のブルペン放送局』~! いやー言ってみたかったんだよねこういうタイトルコール! えーというわけでね、次行きましょう次」


 


 


 


「また恋愛相談とかだったらずっこけるぞ」


 


 


 


「なんだそのしょーもない脅迫。勝手にずっこけてろって話ですよねぇ皆さん! まぁ大丈夫ですよ、ここのリスナーは皆『分かってる』人たちですから。……特にこれといった根拠はないけどね」


 


 


 


 そんな事を平然と口に出す黒鵜座だが、実際根拠は無い。思い付きをそのままべらべらと口走っているだけだ。


 


 


 


「目ぇそらすな」


 


 


 


「というわけで続いてのお便り! えーペンネーム『玉子王子たまごおうじ』さんからですね。『おうじおうじ』って読むところでしたよ。プロ野球選手に滑舌求めてどうするんですか。そんな話はとりあえず一旦置いといて、ハガキの中身ですね。『プロ野球選手が髪を染めていたり伸ばしたり、チャラチャラした金色のネックレスを付けている事について黒鵜座選手、また熱田選手はどうお考えなのでしょうか。ご意見聞かせていただけると幸いです。よろしくお願いします』だそうです。……なんか今日の僕らに対する風当たり強くない?」


 


 


 


「一件目が恋愛相談で、二件目が説教か」


 


 


 


「説教って言うなよ! いや否定はしないけどな! うーん……これどう答えるのが正解なんだ? っていうか僕ら髪長い?」


 


 


 


 黒鵜座がいじいじと前髪を指で撫で始める。熱田も熱田で前髪を掻き上げていることから、矛先が自分に向かっていないか不安なのだ。


 


 


 


「普通じゃね?」


 


 


 


「だよね安心した! ちなみに熱田の髪は赤いですけど地毛です。でも食べたら唐辛子みたいに辛そうですよね」


 


 


 


「何で味覚の話になるんだよ」


 


 


 


「さて、どう説明したものか……。一言で表すのなら『反動』ってところなんでしょうね」


 


 


 


「反動?」


 


 


 


「ほら、僕ら高卒だから大学とかの決まりはよく分からないけど高校の野球部って結構厳しいじゃないですか。スポーツ刈りとか坊主頭にしろってところが未だに多いからそういう経験を分かってくれる人そこそこいるんじゃないかと思うんですけど。するとどうなるか、はい答えろ熱田!」


 


 


 


「……まぁ伸ばせる時に伸ばしたいと思うわな」


 


 


 


「そういうことなんですよね。大学やプロに入ってある程度自由に伸ばしたり染めたりする人が多い、これがからくりってわけです」


 


 


 


「アクセサリーの話はどうなんだよ」


 


 


 


「ん―――、まぁ皆光るものが好きなんじゃない? 知らんけど」


 


 


 


「それでいいのか」


 


 


 


「あ、これだと納得しないか。えーっとじゃあ自分なりに解釈するなら、の話ですけど。ナメられないようにって言うのもあるんじゃないですかね」


 


 


 


「プロ野球選手の事ヤンキーだと思ってんのかお前は」


 


 


 


「いやほんとほんと。体感7割くらいはそんな人なんじゃないですかね。いやだって考えてみろよ、社会人ってただでさえ身なりをすごい見られるでしょ? で、プロ野球選手ってただでさえ人の注目を浴びるだろ? プライベートでもファンに見つかったら『サインください!』とか言われるでしょ? そんな時にダサいファッションしてみ? 死ぬぞ?」


 


 


 


「んな事ごときで人が死ぬかよ」


 


 


 


「社会的な話だよ! なら別にいいけどさ、違うだろ? いや違わねぇか」


 


 


 


「否定しろよ!」


 


 


 


「だから大事なんですよ見た目は。で、プラスアルファで後輩にナメられない。これも大事な要素なんですねまた。どんだけいい成績を残していてもやっすいブランドものを身につけてたら。『うわぁ……この先輩みたいにはなりたくねぇな』って思われんのよ。それに引きかえ価値のあるものを身につけるとどうなるか。返ってくるのはリスペクトだよ。『あの先輩かっけぇな』ってなるわけでしょ? そしたら若手のモチベも上がってチームにとって得になるのよ」


 


 


 


「……まぁ言いてぇ事は分かったがよ。それってお前の経験談なのか?」


 


 


 


「え? 違うけど?」


 


 


 


「は?」


 


 


 


「これ全部勝手な妄想。一年先の未来も危うかった若手時代の僕がそんな事気にしてる暇なかったし」


 


 


 


「クソが!! じゃあ説得力全くねぇじゃねぇか! え、さっきの話は何? お前ちょっとそれは……キモいぞ」


 


 


 


「キモかねぇよ!! 色々とアンテナ張って勘ぐるのは当たり前の話だろうが! まぁ少なくとも? 僕はお前よりもファッションのセンスあるけどな?」


 


 


 


「は?」


 


 


 


「あ゛?? 服に『焼肉定食』なんて書いてある奴に負けるわけがないんだけど?」


 


 


 


「じゃあコメントで聞いてみりゃいい話だよなぁ! ファンの生の声ってやつを!」


 


 


 


「え、いやないない。やる前からもうこっちの勝ちですから。マイナスとプラスくらい差があるから」


 


 


 


「なんだよビビってんのか黒鵜座さんよぉ!」


 


 


 


「……ビビるわけねだろ! ああ聞いてやろうじゃねぇかこの野郎! というわけで皆さんどっちのファッションの方がセンスがあるかコメントお願いします!」


 


 


 


 黒鵜座の発言を皮切りにコメントが少しずつ活発になり始めていく。


 


 


 


『黒鵜座かなぁ』

 


 


 


『にわかは黒鵜座。玄人が選ぶのは熱田だから』

 


 


 


「お、良い感じに拮抗してるんじゃないの? まぁ僕の方が優勢ですけどね! ……ん??」


 


 


 


『黒鵜座はちょっと自信とセンスが釣り合ってないからなぁ。中途半端な奴ってコメントしづれぇ。その点熱田はネタに振り切ってるからいじりやすいよね」


 


 


『それな』

 


 


『何でちょっと違和感感じてたか分かったわ、サンクス』

 


 


 そのコメントに共感する声が流れていく。残酷な事に天才と馬鹿は紙一重であるように、馬鹿と芸術もまた紙一重なのである。ならば振り切れた方が有利というのもまた世の常なのである(知らんけど)。


 


 


 


「…………え、待って焼肉定食に負けるの僕?」


 


 


 


「んだはははは!! 見たか俺のポテンシャル!!」


 


 


 


「お前ポテンシャル意外強みねぇだろ……。ダメだこれ以上言い返せねぇ。うわー、なんかショック」


 


 


 


「そこまでショック受けてんじゃねぇよ!」


 


 


 


「ちょっと立ち直れそうにないからここでCMのお時間です……」


 


 


 


「おい!」

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