#9 part2

「というわけでやっていこうと思うんですがね。今回はあんまりお便りが来てないみたいです」




「それは俺に人気がないっちゅう事やんな!?」




「いや、そういうのじゃなくて。急に決まったでしょ? だからリスナーの方も何を聞いたらいいか分かんなかったじゃないですかね」




「何だ~。そげな事なら早く言ってくれなきゃ困りますって~」




 無遠慮に武留が黒鵜座の背中を叩く。海原といいこの球団の後輩たちは敬語というものをどこかに忘れ去ってしまったらしい。自分相手だから? ……いやいや、そんな事はないだろう。多分。




「あんまり肩を叩くな。不敬であるぞ」




「何やねんそれ、宮内先輩の真似でっか?」




「まぁとにかく何が言いたいのかというと、今回はお便りがないのでコメント欄での質問をメインに進めていくことになると思います。……え? お便りあるの? 誰から? まぁとりあえず読むとしましょうか、というわけで武留頼んだ!」




「よっしゃ! 任せとき! あれ、でもこれペンネームないんやけど。まぁええか! えーっと『目立つための方法を教えてください。……名古屋ブルーバーズ所属 鳥野和《とりのなごみ》』」




「和じゃねーか! あのアホは……直接聞けやそんなもん! こんな回りくどい事してるから地味なんだよ!」




 鳥野和、彼らしくひっそりと参戦―――。ほとんどのブルーバーズファンなら名前くらいは知っていると思うが一応説明しておこう。鳥野和は右投げ右打ちの外野手。東京の有名大学出身、ブルーバーズが誇るヒットメーカーにして黒鵜座の同級生である。とはいえ鳥野は大卒・黒鵜座は高卒であるため同期ではない。投手と野手。一見交わらない立場の二人だが、お互い下の名前で呼ぶくらいにはいい交友関係を築いている。




 そんな彼の持ち味は鋭いバッティングと安定した守備。本職は外野手ながらサード、ショートも守れるいわゆるユーティリティープレイヤーで正確な送球に定評がある。加えて打撃も年々確実性を増し、昨シーズンは惜しくも3割にこそ到達しなかったものの李や志村に続く打率.298を記録した。特に右打ちの技術は群を抜いて上手く、チャンスに強い。ここぞという場面できっちりと最低限以上の仕事をしてくれる縁の下の力持ちとも言うべき選手だ。




 実力は十二分に兼ね備えている鳥野だが、弱点というか欠点もある。それは実力に人気が釣り合っていないという事だ。鳥野はパワーはいささか不足気味だが、堅実に1点を取りに行くチーム方針と相性が良く昨シーズンから主に3番打者として打順の核を担っている。3番打者と言えば、何でも器用にこなせるオールラウンダーが多く人気が出やすい。はずなのだが何故か人気がでない。




「出場機会が比較的少ない俺はまだしも、レギュラーなのに人気がそこそこな鳥野先輩は何て言うか……不憫やなぁ」




「おいやめろ、それ以上言うんじゃない。それ以上のディスりは和にとって致命傷だぞ」




「傷が思ったより深いやん! うーん、いいバッターやと思うんやけどなぁ」




「この前のサイン会で和と一緒になった時は、ほとんど最初僕の方に並んでましたね。僕のサインを受け取ってから和のところに並ぶ人が結構多くて、和の方にはあんまり行ってなかった記憶があります。その時の和の嫉妬と悲しみの混じった表情が妙に印象に残ってるんですよ。人間あんな顔できるんだな~って」




「それ黒鵜座先輩のついでとして見られてへんか?」




「……」




「何とか言ったらどうなんや黒鵜座先輩!」




「いやだってこの質問どう答えても和が傷つくじゃん。人をいじるのは好きだけど傷つけるのはポリシーに反するというか……答えなくても傷つけるかもなんだけど」




「まぁとりあえず質問に答えるとしましょうや。俺はそこまで人気ないしそこら辺黒鵜座先輩に教えて欲しいなー、なんて。こんな可愛い可愛い後輩のお願いを聞いてあげると思って? な? な?」




 キラキラと目を輝かせながら武留が黒鵜座へと熱い視線を向ける。こういう視線は女子以外お断りなんだが。




「そんな事言われても大した事言えないぞ僕は。だって人気が出たのは自然の事というか、自分から何か特別な事はしてないからな」




「人気選手はいつだってそういう事言うんや! 何かあるでしょ何か!」




「僕も最初はファンなんてほとんどいなかったからね。縁故採用なんて言われてたし、大して期待もされてなかったし。そこからここまで人気になれたのは運が良かったというか……逆に和はさぁ、最初から首脳陣からの評価も高かったし1年目からそこそこいい成績を残してきたわけでしょ? 何でそこまでお膳立てされてるのに人気が出ないのか不思議なんだけど」




「やめたげてよぉ!」




「もっと評価されてもいいと思うんですよね。あれだけきっちり仕事してくれる選手は和くらいしかいないし。志村さんも打率はいいけどチャンスに弱いし、ブルーバーズの日本人野手であそこまで無難に色々とこなしてくれる選手もいないはずなんですけど。なのでこれを聞いたファンの皆さん、ぜひとも鳥野和という選手を認知してください。そしてあわよくば応援してください!」




「ひょっとして鳥野先輩はあれなんか? 『いなくなってから価値が分かるタイプの選手』っていう……」




「間違ってないかもな。バランスが整っている選手よりも一芸に特化した選手の方が評価されやすいっていうのは時代の常だし、今は長打力のある選手の方が人気が出やすいからな。和は器用貧乏っていうか……出来る事は多いんだけどそこまで突出した成績を残せていないのが可哀想だよな」




「はぁ……これじゃあ人気が出る前に戦力外になってまう。やだな~もう」




「何言ってんだ。これからだろお前は。お前は外野守備が上手いし何より肩が強い。もうちょっと試合でそれを発揮できれば人気も出てくると思うけどな」




「あれっ、今褒めました!? 褒めましたよね今!」




「まぁコアなファンしか集まらないかもしれないけど」




「そーやってすぐけなす! たまには素直に褒めたってええやろがい!」




「お前は褒められて伸びるタイプじゃなくて叩かれて伸びるタイプだからな。多少厳しい環境で育てられたくらいが丁度いいんだよ」




「時代錯誤やー! 昭和脳やー! とりあえず厳しく育てとけばいいなんて傲慢で横暴やー!」




「やかましいわ。ぐだぐだ言ってないでお前はちゃんと練習すればいいの! ただでさえ安泰な立場じゃないんだからもっと色々と磨かないといけないだろ!」




「え、じゃあ何で俺をここに呼んだんですか?」




「……」




「ちょい? ちょいちょーい? 無視はあかんで黒鵜座先輩!」




「……ここにお呼ばれされないくらいに活躍しろって事だ」




「上手い事言ってはぐらかそうったってそうはいかへんですからね! 大体黒鵜座先輩はなぁ……」




「長くなりそうなんでCMのお時間です。それではCM後ごきげんよう!」




「逃げんなコラ!」

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