#9 part3

「あれこれくどくど……」




「……あのなぁ。話長いのよ。言いたい事ってのは本来一行にまとまっていればそれでいいの。話を無駄に引き延ばすのは自分が端的に説明できないって証拠だからね? あーあ、そんな事言ってるからCM明けちゃったよ。え、さっきのセリフも入ってた? ……えーっとまぁ、説明の仕方なんて人それぞれですよね」




「急に媚売るやないですか」




「ファンからの評価は大事だから。何か失言しちゃいけないって政治家みたいだな、いやでもあっち方面の人は割と……失礼。何でもありません。口が過ぎました。とにかくブルペン放送局、続けていきましょー! じゃあコメントを読んで行きますよ。えー、『お二人の子供時代に好きだった球団を教えてください』と。これは面白い質問が来ましたね。じゃあ武留一言」




「中々波紋を呼びそうな話題やんなぁ。あかんくないですかこれ」




「子供の頃の話だから大丈夫でしょ。……FAしたら話に尾ひれつくかもしれないけど、そこに移籍しなければいいだけの話だし」




「ねぇさらっと退路塞ぐのやめてもらえます!? 俺はそうやな……まぁ生まれが関西の方やから子供のころからぎょうさん野球は見てましたけど。そういう意味で言えばやっぱ大阪オリオールズとか兵庫パンサーズですかね。うーんでもなぁ……」




 結論を一応出したというのに武留はまだ何かを悩んでいる様子だった。悩んでいるというよりは、口に出すべきか迷っている。




「何かあるわけ?」




「いやこれ言ってもええんか迷ってるんですよ。聞く相手にとっては批判に聞こえるかもしれないし」




「まぁ所詮地方のラジオだしいいんじゃないの。あんまり過激じゃなければの話だけど」




「んーじゃあ、言いましょか。いやね、『隣の芝生は青く見える』って言葉あるじゃないですか。それと同じような感覚でして。現地にちょくちょく足を運んでいたから分かるんやけど、やっぱ野次が多いんすよね。怖い兄ちゃんがビール片手に叫び散らかす様を見たらちょっと引くでしょ?」




「それは確かに……子供からしたら嫌かな」




「でしょ? トラウマってほどじゃないけど、そういうの見てたら怖くなっちゃって。どっちかと言えば他のチームの応援歌が好きだったし。ほら、埼玉ホワイトソックスとか千葉マリナーズとか応援歌凄いこってるでしょ? 一体になって応援している感じがするし。そこら辺に惹かれる事が多かったっちゅうことですね」




「はぁ~ん……なるほどね、入り口は一つじゃないってところか」




「で、黒鵜座先輩はどうなんですか」




「僕? 僕はもうそりゃあブルーバーズ一筋ですよ。何たって地元ですからね!」




 胸を張って堂々と答える黒鵜座。話の信憑性は話す人物によって引っ張られる事が多いが、果たして黒鵜座の場合はどうなのか。




「うわ何か胡散臭っ! ……アレっ、先輩の子供の頃っていうと大体15年前くらいよな。あの頃のブルーバーズって確か絶賛暗黒時代だったような気が……」




「うぐっ」




「あれ何か今言いました?」




「イヤナニモイッテナイデスヨ」




「何で片言? まぁええっすわ。それにあの時期って主力が次々とチームを離れていった時期やん? あの頃からのファンって相当な忍耐強さが求められると思うんやけど」




「……」




 確かにあの頃はあまり野球を見ていて面白くなかった。テレビを見ても負けているし、勝っている状態で中継が途切れても翌日のニュースでは何故か逆転されて負けている。そりゃあ心もすり減るというものだ。




「黒鵜座先輩? おーい黒鵜座先輩?」




「まぁでも、違うチームのファンになる気持ちも分からなくないよ? だってほら、負けてばっかのチームのファンやってるのって結構鬱憤がたまるし。好きな選手も出ていくんだからもう悪循環だよね。まぁだからこそこのチームに入りたいと思った人間がここにいるわけですけども」




「今の文脈のどこに入団したいって要素があったんや!?」




「漫画とかでよくあるじゃん、弱小チームに一人のスターが現れて優勝へと導く展開」




「弱小って言った! 今弱小って言ったでこの人!」




「昔はそうだったんだから仕方ないでしょ。いや本当にね、当時のチームの成績を見れば分かってくれると思います。僕は意外とロマンチストだからね。そういうヒーローになりたかったんだよ」




「はぇ~」




「興味なさげ! まぁいいや、次の質問行きましょう。『武留選手はどうして選手名を変えたんですか?』という質問です。あ、これ僕も気になってたんですよ。元は名字の『湯川』だったよね。何でわざわざ変えたわけ? デリケートな問題だったら答えなくてもいいけど」




「あ、ええですよ。別にそこまで深い意味はないというか大したもんじゃないんで。ファンの方ならご存知の通り、最初は『湯川』って本名でプレーさせていただいていたんですけども中々結果が出なくてですね」




「ぶっちゃけ今も出てないでしょ」




「默らっしゃいこのバカチンがぁ! ごほん、えーまぁそんなわけで不本意なシーズンを過ごしていたんですけど。このままじゃもう後がない、まともに爪痕も残せないままで終わってしまうと思いまして。オフシーズンに占いに行ってみたんです」




「練習しろよ練習」




「いやほら、名前って結構大事やないですか。『名は体を表す』っていうことわざがあるみたいに。そんで相談してみたら『名前を変える事から始めたらいいんじゃないか』という風に提案されまして。あの、音声だと分かりづらいと思うんですけど前の本名が武士の『武』。この一文字だったわけやね。それがまぁ、いつまでも強く居続けるという意味をこめて『武』に留学の『留』。これで今の名前になったっちゅうわけです。OKですか?」




「……まぁ僕としては正直どうでもいいんだけど」




 心底興味なさげに返事をする黒鵜座。事もあろうにこの男、鼻をほじっている。それだけに飽き足らずあくびをする始末である。




「本音と建前ってもんがあるでしょ! せめて一瞬くらいは興味を示すそぶりくらい見せんかい!」




「だって読み方変わんないし……ねぇ? 名前の呼び方とか順番が変わるんならまだしも、そうでもないから多分ファン目線でも『何が変わったん?』とか『変える意味あったん?』って思うでしょ」




「身も蓋もねぇ! この鬼! 悪魔!」




「はいはい。で、結果は出たわけ? 名前変えたんだからそれなりの結果は出さないとねぇ」




「あ、乗ってくれるんや。えーっと名前変えたのが3年目の始めでしょ? そこから二軍でも安定していい成績を残せるようになっていって~……昨シーズンは最初に言った通り一軍での出場数はキャリア最多だったし、初本塁打も記録した。まぁ75点ってところやな」




「やっぱ自己評価高いぞお前。そんなんでやっていけるか僕は心配だな~」




「オカンか!」




「はい、じゃあCMでーす。CM明けは恒例のコーナーです」

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