#8 part2

「では一つ目のお便り、ヒアウィゴッ!」


 


 


 


「何でお前が仕切ってんの、司会僕なんだけど。はい、じゃあお便りを読んでいきましょうかね。ペンネーム『サンボ師匠』から。『黒鵜座選手、海原選手こんばんは。』、はいどうもこんばんは。毎度のごとくドームでの試合なので外の景色は見れないですけど、今日は月が綺麗な日らしいですね。『お二人に質問です。野球選手と言えば高収入で有名ですが、その使い道はどうするのでしょうか。庶民の私にとっては非常に気になります!』らしいです。じゃあまずは海原から言ってください! その内に僕も答えを考えておくので!」


 


 


 


 海原が天を仰いだかと思えば、今度は何やら指折りで数え始めた。ひー、ふー、みーとぶつぶつ呟いた後、決心したかのように顔を黒鵜座の方へと向けた。


 


 


 


「え、何? ひょっとして不満だった?」


 


 


 


「いやー考えてみれば色々と散財しちゃったっすねぇ!」


 


 


 


「あー、キャバクラとかか。お前の場合」


 


 


 


 その返答に海原は眉をひそめながらその指を黒鵜座へと向ける。どうやら思ったよりもピュアであるらしい。決めつけるような発言をしてしまったか。


 


 


 


「とりま人を見た目で決めつけるのはご法度っしょ! 大体今時はキャバクラとかよりもクラブだから!」


 


 


 


「昔も今もパリピが行くところは変わんねぇな。大体イメージ通りだわ」


 


 


 


 うん、反省して損した。大して行くところがイメージと変わらないようである。本当に昔、自分がまだ赤子だったころは普通の人も夜には踊り狂っていたらしいが現代人にとってはほぼほぼ無縁の話である。


 


 


 


「あーもう黒鵜座パイセンが変な事言ってるから話それちゃったじゃん! 今頭の中で考えてた事が全部おじゃんになってマジぴえん超えてぱおんなんですけど!」


 


 


 


「何て?」


 


 


 


「……あ、思い出した。そうっすよ収入の使い道っつー話ですよね! 契約金が大体1億くらいだったけど結構引かれちゃったから草生える! えーっと、まずはお世話になった所への寄付でしょ? まずは大学、高校、そんでもって中学の頃所属してたシニアへの寄付でかなりマイナスになっちゃってさげぽよですわ」


 


 


 


「もうちょっと分かるように言ってくれねーかな」


 


 


 


 ところどころ何を言っているか分からない。決して耳が悪くなったとかそういうわけじゃなくて。言語そのものは伝わるけれど何を言っているのかが全く分からないのである。同じ日本語で話している分、動物と会話を試みて失敗するよりもずっともどかしい気分になる。


 


 


 


「でも契約金は結構たんまり貰ったわけだけど、年棒はそこまで多くないんだよね。えーっと言っていいの?」


 


 


 


「いいよ? かく言う僕もサク先輩にカミングアウトされたクチだし」


 


 


 


「じゃあ問題ないチンゲールっすね! 言っちゃおう、俺っちの年棒が最初1000万円でー。んで新人王取ったっしょ? その影響もあってプラス査定だったんだよね。その額2000万! まぁもうちょっと欲しかったけどほどほどってところかな~」


 


 


 


「そりゃまだ二年目だからな。継続して成績残せば一気に貰えるようになるよ。っていうかその面で言えばお前今シーズン初登板で大炎上してたけどそこらへん大丈夫なの? ほら、二年目のジンクスって意外とあるもんだからさ」


 


 


 


 去年の活躍で裏ローテの頭という大事なポジションを勝ち取った海原。しかし彼の今シーズン初登板で待っていたのはほろ苦い現実だった。東京ヤンキースの主軸・鳩ヶ浜に2ランホームランを浴びるなどでノックアウトされいきなり出鼻をくじかれた。


 


 


 


「いやいや、もう過ぎた事を悔やむなんて古い古い! 俺っち達は今を生きる人間なんだから過去のデータ何かに囚われてくよくよしてる方が損っしょ!」


 


 


 


「あれだけフルボッコにされてそう言えるメンタルが羨ましいわ。投手としては見習うべきなんだろうけど。ま、1億の高みで待ってるよ」


 


 


 


「黒鵜座パイセン1億行ってないっすよね?」


 


 


 


 ※黒鵜座の年棒は9500万です(第六回放送参照)。


 


 


 


「四捨五入すれば1億だろいい加減にしろ!」


 


 


 


「で、その使い道っすよね? まー女の子と遊ぶのに結構ねだられるし。バッグとかネックレスとかに使う事も多かったっすね」


 


 


 


「はー、遊び人! 女の敵! このチャラ男!」


 


 


 


「いやいや俺っちはいつだって真剣ですよ? というか黒鵜座パイセンはそういう事無いんすか? てっきりプロ野球選手ってそういうものだと……」


 


 


 


「お前プロ野球の事なんだと思ってんだよ」


 


 


 


 おいやめろ。その曇りなき眼でこっちを見るんじゃない。こっちが惨めになってくるじゃないか。このままだとこちらがメンタルをやられそうなので話を転換することにした。


 


 


 


「はい、じゃあ僕の使い道について話していきましょうか」


 


 


 


「あ、逃げた!」


 


 


 


「默らっしゃい! 司会の権限はこっちにあるんだからガタガタ言うんじゃないですよ全く。それで、僕もまぁ契約金とかは確かに寄付したけどそれでもちょっとぐらいだからね? だってドラフト4位なんて大して貰えないんだから。最近で言う大きな出費と言えば……あぁそうそう、うちの実家の水回りがあんまり良くないらしくて。そこら辺の一新に使った感じですね。いやーこの年になるまで野球をやらせてもらったわけだから、少しくらい恩返ししないとね」


 


 


 


「さらっとファンからの好感度ブチ上げようとしてない? 一人だけ抜け駆けしようったってそうはいかスミパスタよ?」


 


 


 


「……ちぇっ、ばれたか。あ、でもそれにお金を使ったのは本当の話ですよ? ってかイカスミパスタってなんだよ。後は、そうですね。家に安らぎが欲しいなーって思ったんで、そっち方面でそこそこ使いましたね。安眠まくら、アロマ、後は高音質の音楽プレーヤーとか」


 


 


 


 寮から離れて暮らすようになってから4年目。そろそろ一人暮らしにも余裕が出来たころなので色々と試してみていたのだ。家というものは心休まるところだし、そうあるべきだと思う。だからそのために準備するのは思いの外楽しかった。


 


 


 


「へー、黒鵜座パイセン音楽とか聞くんすね。何聞くんすか? EDMとか?」


 


 


 


「EDMって何?」


 


 


 


「あぁ、そういうレベルね。なるほど」


 


 


 


「おい、その哀れむような眼をやめろ」


 


 


 


 ※EDMはエレクトニック・ダンス・ミュージックの略です。主にクラブで使われる事が多いのだとか。


 


 


 


「まぁ音楽の好みなんて人それぞれだよね」


 


 


 


「そういうこった。ではそろそろコマーシャルのお時間です!」

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