#7 part4
「ではこのコーナー! 『黒鵜座一先生の~? お悩み相談室』~! はい、毎度恒例のこのコーナーですがこの放送を聞くのが初めてという人もいることでしょうし説明しましょう! 簡単に言えばゲストの悩みを僕、黒鵜座が解決しよう! というコーナーでございます! というわけで? 君の悩みを聞かせてよベイビー!」
「ヒャハ……ってここは高笑いするところじゃないか。う~ん、難しい所を突きますね。悩みとは無縁とかそういうわけでは決してないんですけど、特にこれ! って感じのものがないので。強いて言うなら自分があんまり目立たない事ですかね」
「あ~、それはまぁリリーフ投手の宿命というか。特に真心は左のワンポイントだから、シンプルに登板している時間が少ないって言うのもあるよね。だけど安心するがいい真心!」
「え?」
親指を突き立てる黒鵜座。大丈夫だ、悔やむ必要などない。むしろ世の中には目立たないからこそいいことだってある。
「目立たないってのはそこまで対策がされないってこと! マークが厳しければ打者も色々と考えてくるだろうし、それで活躍できなくなるよりマシでしょ? それに……投手が目立つのって基本的によほど圧倒的なピッチングをした時か炎上した時かの二択じゃん? 特にウチなんかはファンの目も肥えちゃって抑えて当たり前みたいな風潮があるから、ダメだった時にボロクソ言われるんですよね」
「あー、確かに。いやこれ確かにって言っちゃっていいんですかね? というかファンの目が肥えてしまったのって5割くらい黒鵜座さんのせいじゃないですか?」
「え~そう? そう見える? いやーだとしたら申し訳ないな~」
「食べ物の名前で謝ってください」
「ごメンチカツ☆」
黒鵜座は人差し指と中指でピースを作って笑顔を見せる。これが漫画ならキラリという効果音が入っていたのかもしれない。これは放送前にあらかじめそういうフリでやると決めていたのだが、明らかに謝る気のないそれに視聴者の一部がイラっと来たかもしれない。
「まぁ言ってる事も事実ですね。ともすれば、目立たない方が投手としては一流……? あれ、じゃあ俺の努力してきたことって、無駄……だったりします?」
恐る恐る確かめるような左津陸の視線が黒鵜座に突き刺さる。無駄と言えば無駄なんだけど、見てて面白いからそのままでもいい気がしてきた。気づかせてやるのも優しさだが、触れてやらないのもまた優しさだ。うん、これは優しさからくるものだから仕方ないね。
「いやまぁそうとは言い切れないけどね。いいボールを持ってたらそれだけで存在感を発揮できますから。お前もスライダーを磨けば動画か何かで取り上げてもらえるかもよ?」
「なるほど、動画で……そういう目立ち方もありっすね」
「そもそもこの番組自体、普段スポットライトが当たらないリリーフ投手のために企画したものだから。この番組なら余程放送コードに引っかからない限りは好きにやっていいよ」
「あ、じゃあ好きなようにやらせてもらうっす。ごほん、ヒャーハッゲホッカホッ!」
「……お前もうその笑い方諦めた方がいいんじゃないの。ほら、水」
「ありがとうございます。大丈夫っすよ、ちょっと喉に負担がかかるだけで」
「それが一番問題なんだけど」
「どーせヒーローインタビューとか永遠に呼ばれないだろうし、別にいいっすよ」
その言葉には、どこか諦めというか不貞腐れた様子を孕んでいた。考えてみれば真心がヒーローインタビューに立ったのを見たのは一度だけだ。プロ初勝利、それを記録した試合だけ。ずっとリリーフとして投げ続けている事を考えると目立てないとは言えるけれども、そんな一言で納得できるほど人間というのは出来た生き物じゃない。
「あ、時間ちょっと余りましたね。他に何か悩みとかないわけ?」
「他ですか……あ、そう言えばもう一つだけあるっすね。ピッチングの時なんですけど、どう振る舞ったらいいのか良く分からないんですよね」
「振る舞い? そんなもの考えた事無かったなぁ……」
世の中には二種類のピッチャーがいる。闘志を前面に出していくタイプと、静かに淡々とスカした顔で投げていくタイプの人間だ。細かく分ければ色々いるだろうが、大ざっぱに言えばまぁこんな所だろう。黒鵜座は当然後者であるし、左津陸もどちらかと言えば後者だ。だから黒鵜座にとっては左津陸は自分と似たタイプだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
「堂々としていようとは思うんですけど、なにぶんどんな感じでいればいいのかが良く分からないんすよね」
「どんな感じって言われても……どう思います視聴者の皆さん? ……うん、うん。『今のままでいいと思う』とか『時には熱くなっても良い気がするけどな』っていう意見が多数ですね。あ、良い事思いついた」
「良い事? なんか黒鵜座さんがそう言う時って大抵良くない事が起こる気がするんですけど」
「黙らっしゃい。ちゃんと僕は真心の為を思って言っているんだ」
「へ……へぇ~」
ちょっと引き気味の顔をしている左津陸。これは信用されてないな、多分。黒鵜座は静かにそれを察した。まぁここからが腕の見せ所というわけだ。
「大事なのは笑顔だよ笑顔! 困ったときには笑っておけばいいじゃん! そしたらファンからの好感度も上がるし!」
「でもそういうのってヘラヘラしてると思われません?」
「あ~、それは点を取られた時はそう思われても仕方ないかもな。でも抑えた時くらい笑顔でもいいんじゃないの」
「俺昔っから作り笑顔苦手なんすよ。カメラに映る時もあんまりいい顔出来てないし」
「まぁまぁ物は試し! とりあえず指で口角を上げてみよう! はい、じゃあこっち見て。いー」
「いー」
黒鵜座が左津陸の首を動かしたことで、丁度テレビカメラさえも二人の顔が映らない状態になる。その時二人がどんな表情をしていたのかは、当人にしか分からない。ただ、黒鵜座の肩が大きく動いたのが見えるだけだ。
「うっっっそでしょ……ごめん、僕が間違ってたわ。あー、これは無理だわ。放送コードに引っかかる顔してる。子供泣くわこんなもん」
「そんなにっすか」
「うん、般若みたいな顔してたし」
「マジっすか」
「試しに仲次コーチの前でその顔してみ」
噂をすれば何とやら、とはよく言ったものだ。丁度仲次コーチがこちらまで歩いてきたのが見えた。振り向いた格好となったため、またもやカメラから左津陸の顔が映らなくなった。
「真心、準備ー。って何その顔。え、悪いものでも乗り移ったか?」
「これ作り笑顔らしいっす」
「下手くそすぎんだろ。まぁいいや、行くぞ」
「分かったっす」
「……行ってしまいましたね。あの顔は今日夢に見るかも。はい、ではCM入りまーす」
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