#7 part3

「続けていきましょう、ブルペン放送局! 元気出していこー!」


 


 


 


「おー!」


 


 


 


「というわけでお便りを読んでいきましょう。というわけで真心、カモン」


 


 


 


「こほん。ヒャーッハッハ! ここは勢いに任せていくぜェ!!」


 


 


 


 恒例のゲストによるお便り選別の時間である。勢いよく左腕を突っ込んで紙を取り出そうとして左手をお便りボックスにぶつけた。


 


 


 


「あいったー!?」


 


 


 


 痛みにうめく左津陸を白々しい目で黒鵜座が見つめていた。おい、商売道具なんだから大事にしろよ。


 


 


 


「アホめ」


 


 


 


「いてて……ぶつけちゃった。あ、二枚引いちゃったみたいですけどいいっすか?」


 


 


 


「うーん、まぁ前例はあるしいいか。じゃあまず一通目、読んでもらっていい?」


 


 


 


「はい。それでは一通目いきます。ペンネーム『大魔神』さんから。『黒鵜座選手、左津陸選手こんばんは。お二人は現在投手として活躍されていますが、野手としてプレイしてみたいと思った事はあるのでしょうか? もしくは高校時代には打者としても活躍していたのでしょうか』という質問っす。打者としてっすか……どっちかと言うと自分は投手の方が好きっすね。そっちの方が狩るイメージが湧いてくるんで」


 


 


 


「うわ、ドSじゃん怖」


 


 


 


「酷くないっすか!?」


 


 


 


 少し大げさにリアクションする左津陸。たまーに素でこういう所が顔を出してくるんだからちょっと怖いというか何というか。


 


 


 


「で、打者としてはどうだったわけ? そこんところ聞いたこと無いんだけどそう言えば」


 


 


 


「打者としては……うーんあまり面白くはないっすよ。地方大会決勝でサヨナラホームランを打ったくらいで」


 


 


 


「待て待て待て!」


 


 


 


「え、何すか」


 


 


 


「アホか! 一番! 面白い! ところでしょうが! え、何でそんな一番盛り上がる部分をさりげなく流そうとしてんだよ!?」


 


 


 


 がくがくと肩を揺さぶる黒鵜座に対して、左津陸は平然とした様子で話を続ける。


 


 


 


「えー、だってそんなに面白くないっすよ? たかだかホームラン1本くらい、プロ野球選手なら誰だって打った事くらいあるでしょうに」


 


 


 


「いや打った事ないような奴もいるだろうし……ってそうじゃない! そこじゃない! そのシチュエーションが大事なんだよ! ……まぁ、詳しく聞いてあげようじゃないですか」


 


 


 


「本当に大した話じゃないっすけど」


 


 


 


「いいから!」


 


 


 


 じゃあ仕方ないっすね、と頭をぽりぽりと搔きながら左津陸が話し始める。僕だったら一生擦って自慢し続けるぞそのエピソード。いったいどういう神経してるんだ。


 


 


 


「んまぁ盛り上がるような話じゃないっすよ。あれは確か高校二年の時の夏大会の話っすね。俺その時何番打者だったっけ……記憶が正しければ6番ピッチャーだったんですけど。その試合の10回の裏、1点ビハインドの二死一二塁で打席が回ってきたんですよ」


 


 


 


「何だ、結構鮮明に覚えてるじゃん。やっぱ印象に残ってたんじゃないの~?」


 


 


 


 軽く茶化そうと黒鵜座がからかったものの、それに慌てる事も無くけろりとした顔で左津陸は話し続ける。


 


 


 


「まぁあの日暑かったんで。応援歌もうるさいしじりじりと太陽が気持ち悪かったんで結構覚えてるっすね」


 


 


 


「どんな理由? っていうか僕らリリーフだから打席に立つことなんて滅多にないけど真心は左打者なんだっけ?」


 


 


 


「右でも打てないわけじゃないっすけど、わざわざそっちで打つ理由も無いっすからね。あの時は左の打席に入ったっす。それで、相手も先発からずっと投げていたから疲れてたんでしょうね。ほとんど球もヘロヘロでばててたんすよ。まぁ相手も良く頑張っていたとは思うんすけど、なにぶん勝負っすからね。何よりここで打たないと怖い先輩から恨まれる事間違いなしでしたから」


 


 


 


 そこで自分がどう、というわけでなく仲間がこうだから、というあたりが真心らしい気もしてくる。これといった志がない僕が言えた話ではないが、甲子園出場に特別強い思い入れがある高校球児としては珍しいと言えるだろう。


 


 


 


「それでサヨナラホームランを打ったと」


 


 


 


「ど真ん中に力の無いストレートが来たんで後は打ち返すだけでした。高校野球なので打った瞬間走りましたけどあれは多分今までの野球人生の中でも会心の一撃でしたね」


 


 


 


「その割にテンション低いというか、もっと印象に残るんじゃないの? なんか『ヒャハハハ! 弱った相手を仕留めるのはたまらねーよなぁ!』とか言い出すのかと思ったけど」


 


 


 


「あ、その手があったか」


 


 


 


 納得したように手を叩く左津陸。もうキャラを出す努力も諦めているようである。そこは一貫性を持てよ。まぁそんなハイテンションでも司会のこっちが困るけど。


 


 


 


「おい。おい。それでいいのか真心よ」


 


 


 


「冗談っすよ。どっちかと言うととどめを刺すよりも元気な相手を屈服させる方が好きです。その点投手は良いですよね。よほど相手の集中力が切れてない限り元気で打つ気のある打者と対戦できますから。その分打ち取った時のやりがいがあっていいですよね」


 


 


 


「もっとヤバい理由が出てきた」


 


 


 


「え、みんなそういう理由で投手やってたんじゃないんですか?」


 


 


 


 わぁ、ふたを開けたらびっくり箱どころか敵キャラだった時並みの衝撃。もうお前そのままでいいよ。そのままで十分やべーやつだから。


 


 


 


「お前と一緒にすんな。あ、でもいや、うーん?」


 


 


 


 どうしよう、黒鵜座は自分で自分が分からなくなってきた。いやまぁ支配的なピッチングは好きだし楽しいけどそれだけのために野球をやっているかと言われたら……どうなんだろう。


 


 


 


「で、黒鵜座さんはどんな感じだったんですか、野手として」


 


 


 


「僕? 僕と言えばまあ少し前のサヨナラタイムリーを打った試合が思い起こされますよね! そうですよね視聴者の皆さん! んっんん。とはいえ僕は打撃の方はそこまでなんですよね……。あっでも当てるのだけは上手いって高校時代の監督からは褒められてましたね」


 


 


 


「ホームランを打った事は?」


 


 


 


「……ないです」


 


 


 


「あ、だからさっきあんな歯切れの悪い返事をしていたんすね」


 


 


 


「やかましいわ! 大体ホームランを打つことが打撃の全てじゃねぇから! どんだけパワーあっても当たらないと意味ないからな! あっ、そうだ。当てる事といえばバントも得意でしたね。投手やってたからどこにバットを合わせればいいのか分かるって言えばいいんでしょうか。上手く勢いを殺せるので打席ではよくバントのサインを出されてました」


 


 


 


「俺バントされるの嫌いなんすよね……。だってあれ合わせられたらキツいじゃないですか。もっと正々堂々と来いやって思いません?」


 


 


 


「まぁ一点が命取りな僕らにとっては避けられない宿命みたいなもんだしそれは仕方ないような気もするけど」


 


 


 


「そして正々堂々と打ち取られてほしい」


 


 


 


「最後本音出てんぞ。じゃあもう一個の質問は僕が大事に保管しておくとして……そろそろコマーシャルのお時間です」

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