#6 part1

「こんばんは皆さん! 司会の黒鵜座です。いやー昨日は好プレーも見られる熱戦でしたね! 特に武留のバックホームはすごかったですね。今年のスーパープレー集に載るんじゃないでしょうか。まぁそれよりも僕と小西選手の勝負の方がすごかったですけどね! あっちの方が名勝負です、僕にとっては。いや対戦打率5割の人相手に三振を取れたのは良い自信になると思いますね、自画自賛ですけど。え? 5割なんだから次は打たれるでしょって? ははっ、そういう事言う奴は決まってモテないんですよ。まぁ144試合の中の一勝負で一喜一憂している方がおかしいのかもしれないですけど、それでも褒められる時に自分を褒めておいた方がいいに決まってます。それが自信になるし、いい結果にも繋がると思いますから。社会に、学校に、家事に疲れた皆さん。時々でいいんで自分のことを褒めてあげてくださいね。さぁ、辛気臭い事を言ったところで第六回のゲストの紹介に移りましょう。不死鳥の左腕、スペランカー兄貴こと滑川削なめかわさく選手です! はい皆さん拍手お願いします!」




 やってきたのは茶色い短髪をした、もみあげが特徴的なすらっとした細身の男だ。少ししわの入ったその表情には哀愁が感じられる。しかしいつも以上にしわが深いのは機嫌の悪い証拠なのだろう。




「おい、待ちやがれ。前半はまだ良いとしよう、だが後半の部分には納得いかねぇ。俺のどこがスペランカーだってんだ」




「これ毎回誰が考えてると思います? スタッフの方ですよ。つまりは一般的な評価がそうだって事です。というか僕からしても妥当ですよ。サク先輩そもそもシーズン通して完走した事ありましたっけ?」




「あるに決まってんだろ。……ルーキーイヤーだけ」




「え、何て? 声が小さくてよく聞こえないんですけど?」




「分かってて言ってんだろお前! ほんっとに昔っから性格悪いな!」




「何言ってるんですかねぇ、これも視聴者ひいてはファンのために決まってるじゃないですか。それに、最初の二つ名とか恰好よくありません? いいじゃないですか不死鳥(笑)」




「その微妙な笑みをやめやがれ! というか確実に馬鹿にしてんだろうが!」




「いやぁだってもう、サク先輩野球人生の中で何回骨折しました?」




 滑川が髪を掻きながら考える。滑川削、36歳、大卒からドラフト1位で入団した男。その能力の高さからシーズンのキーマンとしてよく挙げられるこの人物は、なにぶん怪我が非常に多い。それも結構しょうもない原因で。そういう状況から生き返ったり再び死んだりを繰り返している事から付けられたあだ名が「不死鳥」。多分半分は馬鹿にされていると思う。




「やべぇ、覚えてないかも……」




「どんだけですか。記憶力の問題なのか、それとも悪い意味でサク先輩がやばすぎるのか。多分後者なんでしょうね。ちゃんと牛乳飲んでます?」




「子供じゃねーんだから。……いや、その手があったか」




「他にどの手が残ってたっていうんですかね。まぁでも、何度怪我をしても必ず復帰してくるサク先輩の事、僕はちゃんと尊敬してますよ」




 何の気なしに黒鵜座は褒め言葉を投げかけてみる。この言葉は、割と本当だ。嘘じゃない。選手として、先輩として尊敬しているのは確かに事実だ。




「本当かぁ……?」




「そんな! この綺麗な眼差しを信じられないって言うんですか!?」




「何も変わってないどころかちょっと淀んでるからな。っていうかお前毎回そう言うよな。大体そう言い出す時はふざけてる可能性が7割だから」




「3割、バッターとしちゃ上等じゃないですか。えーさて、オープニングトークもここまでにしておいて、そろそろハガキを呼んで行きましょう。ペンネーム『青鳥軍団』さんから。……あっこいつ初回からいきなり暴言飛ばしてきた奴じゃん! スルーしたろ!」




「んな事してるから嫌われんだよお前」




「うるさいですね……読みますよちゃんと。『去年のブルーバーズの首位となった原因はずばり何でしょうか、選手視点から教えてください』……思ったより普通の質問が来ましたね、僕ちょっと身構えてたのに。どう思いますかサク先輩」




「また無理矢理回してきたな。んー、まぁそりゃ色々なところが噛み合ってこそっていうのが建前。本音はやっぱりホーム球場に合った戦いが出来たからじゃないか、っていう所だな」




 中々興味をそそられる内容である。サク先輩はこういうところが上手だ。相手が続きを聞きたくなるような話し方をする。こういう所を聞くと解説者とか指導者向きに思えてくるんだよな。




「続き、聞いても良いですか」




「おう。プロ野球ってのは試合の半分、要するに72試合はホームグラウンドで戦うだろ? 流石に全部取りこぼさずにってのは無理だろうけど、ホームではなるべく勝っておきたい。だからその球場にあった戦い方が必要になってくるわけだ」




「はい」




「ウチの球場は広いだろ? だから投手有利なんだ。投手力に力を注いだこのチームはこの球場では強い意味がある。それに加えてブルーバーズの守備は固い。2年連続ゴールデングラブ賞の美濃や、強肩好守がウリの武留、センターには俊足の李がいる。球場の強みを最大限活かせたからこそ得点が多く取れなくとも勝つことができる。まぁその分俺らリリーフ陣にも負担がかかってくるけどな。で、お前はどう思ってんだよ」




「僕ですか。それはもはや愚問ですね。ずばり、このチームの強さの秘訣は……」




「秘訣は?」




「僕の存在ですね」




「溜めてた時間返せや。はった押すぞお前」




 わざわざ時間をとって出た結論がそれかよ、とため息を吐く滑川。それに対して黒鵜座はチッチッチ、と舌を鳴らしながらとジェスチャーで示した。




「まぁ話は最後まで聞いておくものですよ。このチームの一番の武器が投手力だっていうのはサク先輩の言う通りだと思いますよ。でもウチが一番強いのは先発じゃないですよね」




「……ああ、そういう事か」




「そう、サク先輩はもう分かったみたいですけどブルーバーズは救援投手の防御率が12球団イチなんですよ。その要因として勝ちパターンが機能していたのが強いと思うんですよね。僕は序盤に8回を任されてましたけど、シーズン途中でクローザーに配置転換されまして。それで安定したのが昨シーズンの良い結果に結びついたんだと思っています。先発が5回くらいまで投げてくれれば、後はリリーフに任せればいいわけですからね。仲次コーチの手腕もあってそこまで負担が少なく済みましたし、そうでなくても僕はほら、鉄腕ですし」




「そんな事言ってたら足元掬われんぞ。でもま、お前の言う事にも一理あるよ。確かにお前みたいな万能リリーフがいてくれたおかげで、チームの歯車が上手く回り始めたからな」




「人を潤滑油みたいに呼ぶのやめてくれませんかね。あの言い回し僕嫌いなんですよ。何だよ『私は潤滑油のような存在です』って。人は人です。油なんかと間違えないでもらえます? ってのが僕の感想です。はい、一段落ついたところでCM入りまーす」

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