アウェーでも投げますよ

開幕三連戦を終えた後、一日の移動日を挟んでブルーバーズはアウェーでの六連戦が控えている。その期間放送もないので、ダイジェストで試合をお送りしよう。まずは開幕初のアウェー、大学野球の聖地である神之宮球場での東京ヤンキース戦から。


 


 


 


 東京ヤンキースは投手力で守り勝つブルーバーズとは正反対のチームだ。四番打者にして昨シーズン36本塁打を放った鳩ヶ浜幸宏はとがはまゆきひろを中心として、去年打撃が開眼して3割25本を達成した大型ショート・嵐山信あらしやましん、メジャーリーグ通算50発の助っ人大砲候補・ウィルソン等打撃陣のタレントが勢ぞろいである。


 


 


 


 その上で投手陣はどうかというと、その成績は12球団ワーストである。最も球場が地方のものを除いて一番狭いから仕方ないだろ! という声もあるが、それは相手も同じ条件であるので却下である。長年にわたる絶対的エースの不在が尾を引いているのか、ここ数年は優勝から遠ざかっている。球団側もその弱点を重々理解しており、市場に上がった投手の獲得には積極的に動いている。しかしフラれたり、はたまた獲得に成功してもその選手が活躍しなかったりとその結果は凄惨なものだ。


 


 


 


 話がそれた。ともかく神之宮球場で行われた三試合の内容をお送りしよう。第一試合、この試合ではいきなりヤンキース打線が大爆発。鳩ヶ浜のシーズン3号となる2ランホームランでブルーバーズ先発の出鼻をくじくと、その後も7番・朝野あさのがソロホームランを浴びせるなど4回の裏が終了した時点で6得点。先発投手をノックアウトした。ヤンキースの先発も7回1失点ときっちり試合を作り、試合は終始ペースを握る展開に。結局8-2でヤンキースが試合を制した。


 


 


 


 そして第二試合。今度はブルーバーズが反撃する番を迎えた。初回、先頭打者の李が初球を引っ張り先頭打者ホームランを放つと、その後も地味ながらもブルーバーズ打線が繋がりを見せて結局7得点。一方ヤンキースの打線は今日は不発に終わり、完封リレーでブルーバーズが試合に勝利した。


 


 


 


 両チーム一勝ずつで迎えた第三試合。この日は神之宮球場名物・少し早い花火大会が開催された。嵐山・鳩ヶ浜の二者連続ホームランでヤンキースが先制したかと思うと、ブルーバーズの四番打者にしてチーム随一の飛ばし屋・ドゥリトルの2ランホームランで一転、同点に。試合はヒットを積み重ねたブルーバーズがリードしたまま終盤を迎えるも、この試合でのヤンキースの得点は全て本塁打という驚異的な追い上げを見せる。ブルーバーズのセットアッパー・KKもその餌食となり、本塁打を浴びる。そして5-6で迎えた9回の裏、この緊張した空気の中登板したのが我らがストッパー・黒鵜座である。


 


 


 


(いきなり相手は四番の鳩ヶ浜さんかよ……)


 


 


 


 そう、黒鵜座にとっては最初にして最大の関門である鳩ヶ浜が右打席に入る。ここのところ鳩ヶ浜は非常に調子がいい。を使おうとも思ったが、生憎あの球の制球は荒れるしここで使うのは得策ではない。そして何よりまだシーズン序盤だと言うのに手の内を見せるのが勿体ない。よって黒鵜座が慎重に入るのも頷ける話であった。ストライク、ボール、ボール。カウントはバッター有利。捕手の扇谷がサインの交換をする。


 


 


 


(ここは自信のあるストレートにしよう)


 


 


 


(OKです)


 


 


 


 鳩ヶ浜が大きく上体を反らす。鳩ヶ浜のフォームはオープンスタンス。足を少し大きめに開き、バットをホームベース側に軽くバットを下げている。その構えには外角にも対応でき、隙が無いように思える。


 


 


 


(大丈夫、大丈夫……)


 


 


 


 グラブの中に入ったボールを見つめながら、黒鵜座は大きく息を吐く。最初から自分が出来ることなど決まっている。キャッチャーを信じて投げ込むだけだ。そして4球目、真っすぐを鳩ヶ浜が捉えた。打球はセンターまで飛んでいくも失速。ほとんど定位置でセンターの李がボールをつかんだ。


 


 


 


(やはり……打ちづらいな、あいつのストレートは)


 


 


 


(ヒヤッとしたわ~、ちょっとバットの上だった分伸びなかったな)


 


 


 


 その勝負でリズムに乗った黒鵜座は続く打者を連続三振に打ち取り、ゲームセット。乱打戦を制したのはブルーバーズだった。これで勝ち越しが決まった。とはいえ、あんまりここでは投げたくない。やっぱホームの広―い球場が一番っすわ。そう投手コーチにぼやきながら黒鵜座は神之宮球場をあとにした。


 


 


 


 次に向かうは横浜球場。ここもフェンスこそ高いもののここも結構本塁打の多いチームだ。ここを本拠地とするダイヤモンドバックスは、毎年歯車が嚙み合えば一位争いに食い込めるチームと言われている。個々の実力も高く、5年連続で三割を記録した綿引京志郎わたひききょうしろうやエース格の財前大我ざいぜんたいがなどの主力選手がそろっている。が、何故か上手くいかない。主力の怪我だとか不調などで中々浮上しないのだ。まぁ毎年計算通りに動くことなどないのは当たり前なのだが。


 


 


 


 その第一戦、試合は両エースの好投からはじまった。ブルーバーズの先発・那須も財前もお互い開幕投手を務めていただけあって試合を作る能力には長けている。均衡を破ったのはブルーバーズだった。6回、二死二三塁から美濃の走者一掃タイムリーでついに2点を先制。那須が前回のパッとしない内容を打ち破るかのように8回無失点の快投。9回には黒鵜座が登板し、安定の三者凡退。きっちり試合を締めくくった。


 


 


 


 第二戦は宮内が力投。2回の犠牲フライで1点を先制したが、中押し点が遠い。しかしこの日のブルーバーズの先発、宮内にとってはそれだけで十分だった。初回にピンチを招くもこれを凌ぐ。そこから先は回を追うごとにギアを上げていき4回からは2塁をも踏ませない圧巻のピッチング。そのまま9回まで続投を志願し120球の快投で完封を記録した。


 


 


 


 第三戦。ブルーバーズの先発は八家。毎回のようにピンチを招きながらのらりくらりとかわすピッチングで、5回3失点に抑える。そしてブルーバーズ打線は8回に活性化。ダイヤモンドバックスの誇るセットアッパーを打ち崩し、この回5得点のビッグイニングを作った。リードを奪ったとなればブルーバーズも勝利の方程式の出番だ。その回の裏、北が五者凡退で抑えていよいよ試合は最終盤へ。9回のマウンドを任されたのはやはりこの男・黒鵜座だ。先頭打者に今シーズン初ヒットを許し、進塁打でランナーを二塁に進められたがここから黒鵜座が粘る。次の打者を高めの釣り玉で三振に仕留め、最後は二球目を打たせてサードへのポップフライ。相も変わらぬ安定感で試合を終わらせた。


 


 


 


 まだ春とはいえ、汗はかくものだ。汗をタオルで拭き一息つく黒鵜座の元へカメラマンが駆け寄ってくる。最初はヒーローインタビューかと思ったが、すぐに違うと分かった。


 


 


 


「ああ、ブルペン放送局の方ですか」


 


 


 


「黒鵜座選手、来週の放送に向けて一言お願いします!」


 


 


 


「突然ですね。じゃあえーっと、勘違いされるかもしれないですけど僕もちゃんとアウェーでも投げてますからね? そこんところお願いします」


 


 


 


 先週のあらすじは以上である。そして今から、第4回の放送が始まろうとしていた。

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