#2 part3

「今日も今日とてお水がおいしい! ってなわけで続き、やっていきましょう! えいえい?」


 


 


 


「……」


 


 


 


「えいえい?」


 


 


 


「……」


 


 


 


「言うまでこの下り続けますからね?」


 


 


 


「……やー」


 


 


 


 いや違うでしょ。ちーがーうーでーしょー? 恥ずかしがっているのか、芝崎は微妙に言葉をずらしてきた。もう一回やってやろうかと黒鵜座は思ったが、流石にそれでは視聴者も飽きてしまう。よって話を続けることにした。


 


 


 


「はい、では元気にやっていきましょうかね。引き続きはがきを読んで行きましょう。えーでは……ペンネーム『100股男』さんから。ペンネーム大丈夫? どこかで天誅とか食らいそうな名前じゃない? ……まぁ大丈夫か、どうなろうと僕には関係ない事だし。とりあえず内容の方読んで行きましょう。『黒鵜座さん、芝崎さんこんにちは』、はいどうもこんにちはー」


 


 


 


「……やー」


 


 


 


「芝崎さん? そのくだりはもう終わったんですけど? 大丈夫ですかね本当に。えー、なになに? 『僕はサラリーマンとして働くかたわら、家に帰るとビールを飲みながらブルーバーズの応援をしています』ってことはヘビーユーザーですね。こういう人は球場でもよくビール飲んでお金を落とすんで貴重ですよ大事にしてきましょうね芝崎さん」


 


 


 


「俺はビールよりも焼酎派だ」


 


 


 


 ―――話が全くかみ合わない二人。ひょっとすると芝崎さんは天然というかただの馬鹿なのかもしれない。というか球場に焼酎なんて売ってないよ。よくてビールかサワーくらいだよ。


 


 


 


「よーしこういうのはスルーするのが一番ですねそうですね! はい、脱線したのは僕です。すいませんでした! 『そこでお二人に質問です。ぶっちゃけてお二人の苦手な打者を教えてください!』……なるほど、シンプルで答えづらいものが来ましたね。こういうので具体的な名前出しちゃうと打たれそうなんであんま言いたくないんですよね。というわけでちょっと申し訳なくはあるんですけど、具体的な名前は出さずに『こんなタイプの打者は苦手だ』という方向で答えていきましょうか、はいではまず芝崎さんから!」


 


 


 


「俺か。俺は……そうだな。やはり長打力のあるバッターが苦手だな。例を出すとすれば東京ヤンキースの鳩ヶ浜はとがはま選手とか、別リーグだと大阪オリオールズのマッケンジー選手とかか。ああいういかにもスラッガー、という選手に一発が出ると相手チームに活気がつく。それに俺たちリリーフにとって一点というのはあまりに重いものだ。どれだけ投手有利のカウントに持ち込んでも本塁打一本で勝負が決まってしまうと、何かこう、がっくりと来るものがある」


 


 


 


「なるほど、確かに一理ありますね。まぁ僕もホームランバッターは嫌いですよ。迷いなくバットをぶん回してくるところとか正に蛮族ですよね。もっと品のあるバッティングをしてもらいたいもんですよ。じゃあ品のあるバッティングなら打たれてもいいかって言われるとそうじゃないんですけどねー」


 


 


 


「で、お前はどうなんだ」


 


 


 


「あーそうですね。芝崎さんが名前出しちゃったんでこっちも名前出さざるを得なくなったんですよね。本当、どうしてくれる」


 


 


 


 さっき名前出すと打たれそうだからやめようって言いましたよねー、と黒鵜座が視線を向けるも芝崎はどこ吹く風だ。気にするこっちが馬鹿なのか? そんな事はないとは思うけども。


 


 


 


「じゃあこういうタイプ苦手だなーっていうのから発表していきましょうか。僕が苦手なのはやっぱり選球眼のあるバッターですね。いや別に僕のコントロールが悪いわけじゃないんですよ? ただよく打者に対して釣り玉を投げる事が多いんですよね。この球は振ってくれー、って感じの。分かります? 多分中継で見ている人なら分かると思うんですけど。そういうボール球を振ってくれないと配球が成り立たなくなると言いますか、まぁ自分の思い通りに行かなくなるんで嫌いですね」


 


 


 


「あ、そこのスタッフ。水とってくれるか」


 


 


 


「……って大丈夫ですか」


 


 


 


 芝崎はコップに入った水をグイッと飲み干し、サムズアップして見せる。違うんだよ喉が潤ったか聞いてるんじゃなくてね? そこは別に誰も心配しないからね? 昭和脳っぽい事を言うけど人が話してるときに水を飲もうっていうのが問題なんだよ。むしろ芝崎さんの方がそういうの分かるんじゃないの?


 


 


 


「それで苦手な打者は誰なんだ」


 


 


 


「もう気の赴くままに暴れまくりじゃないですか。何かこれで言うと芝崎さんの指示に従ったみたいで嫌なんですけど! ……まぁいいですよ苦手な打者ですね。これ毎回意外って言われるんですけど、広島レッズのキャッチャー・小西こにし選手ですね」


 


 


 


「小西って確か通算打率2割前半じゃなかったか? 球界屈指のクローザー様の苦手な打者がそんな相手とは意外だな」


 


 


 


「え、何て? 球界屈指の? ん? そこ良く聞こえなかったんでもう一回言ってもらえます? まぁ冗談はその辺にしておいて、実はこれ事実なんですよ。通算対戦打率何割だと思います?」


 


 


 


「相性が悪いと言うのなら……3割位じゃないのか」


 


 


 


「だと思いますよね? ところがどっこい、何と打率は丁度5割! 5割ですよ奥さん!」


 


 


 


「ほう、それは中々に重症だな」


 


 


 


「いや本当何て言うでしょう。僕が手を抜いているわけでもないし、かといって小西選手の読みがすごいとかそんなんじゃないんですよ。ただ……あの人良くボールの上を掠めての空振りが多い選手みたいで。僕の浮き上がるストレートと多分相性がもんのすごく悪いんですよね。こう言うのは失礼なんですけど、あのこんにゃくみたいなスイング(※誉め言葉です)がボールに合うんですよ。それはそれはもう嫌になりますよ!」


 


 


 


「随分恨みがこもってるな」


 


 


 


「だってあの人ただでさえ打つのに得点圏になるとバカみたいに打つんだもん! メジャーリーガーよりよっぽど怖いよ! と、お互い弱点をさらし合ったところでぼちぼちCMの時間でえす。……これで今度の対戦打たれたら本当に芝崎さんのせいにしようと思いまーす!」


 


 


 


「俺は知らんぞ」

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