第9話 子宮を貫く修道女

「おーほっほっほ。わたくしお目覚めしちゃって、とても清々しい気分ですわ。ああ、生きているって何て素晴らしいことなのでしょう。ああ、これも全ては神の御心のお蔭です。さあ、あなた方も、わたくしと共に神に祈りましょう。アーメン……」


 鉄の人形が姿を消したかと思うと、そこには手で十字を切っている一人の少女が立っていた。


 ウィンプルと呼ばれる白い頭巾の上に黒いベールを被り、黒いローブを身に纏った修道女の姿をした少女だ。


 その胸には十字架のペンダントを下げている。


 見た目に十代後半くらいだろうか。


 赤みがかかった金髪の長い髪をそのベールの中から覗かせて、黒い修道女服とのコントラストが少し派手目な印象を与えた。


 少女はその柔和な切れ長の瞳で、霧斗とギロチーヌを見つめながら、やや落ち着いた声のトーンで続けた。


「わたくしは神の御子、アイゼルネ・ユングフラウと申します。どうぞお見知りおきを……」


 そう言って、修道女服に身を包んだ少女が深々と頭を下げる。


「ア、アイアン・メイデンが、シスターの女の子に変身しちゃったぞ……?」


「なんだかとても優しそうな感じの良い女の子ねえっ……ぜひ、お友達になりたいタイプだわぁっ……」


 鉄の人形が礼儀正しき純潔の少女へと変貌したことに、霧斗とギロチーヌが驚く。


「ふふふ。気に入られたようで良かったですね、アイゼルネ・ユングフラウ! この二人と仲良くしてあげなさい! にゃん!」


 キャットが興奮気味にその尻尾でバシンとアイゼルネ・ユングフラウの背中を叩く。


「あひいいぃーん! か、感じちゃいますわん……」


 尻尾の結び目のトゲ玉が修道女の背中の肉を剥ぐ。


 黒いローブの背中の生地が破け、ブシュッと鮮血が飛び散る。


「あぁんっ! もっと! もっと! 鞭で叩いてぇん! 神の裁きをわたくしの肉体にもっと与えてぇんっ!」


 ユングフラウがその身を悶えさせながら、キャットに哀願する。


「ふん。まだ叩き足りないかっ! このメスブタめっ! にゃん」


 ビシッ、ビシッ、とキャットの尻尾の猫鞭が続けざまに修道女の背中や尻を叩いていく。


「なんだこれっ……どういうマゾプレイ……?」


「シスターさん、虐められるのが好きなのかしらっ……?」


 霧斗とギロチーヌは、目の前で繰り広げられる変態プレイを、驚愕の面持ちで見つめるのだった。



「おーほっほっほ! エ・ク・ス・タ・シィィィーッッッ! わたくし最高潮に感じちゃいましたの!」


 赤髪の修道女はその背中や尻を血塗れに汚しながら、ヨダレを垂らした恍惚の表情で叫んだ。


「イエーイッ! ノッてきたきたノリまくりでございますわっ! わたくしの子宮がウェルカム状態でカモーンしちゃいますの!」


 赤髪の修道女がそう言うと、身に纏う黒いローブがハラリと脱げ落ち、豊満な釣鐘型の形の良い乳房が露わになった。


 さらけ出された裸体の腹の部分がまるで扉のように左右にパカッと開く。


 中には暗黒の空洞が広がり、その空洞の奥には、悍ましいほどに濃いピンク色をした子宮のような形の物が見える。


 そして、左右に開かれた腹部の扉の部分の裏には、無数の鋭い釘が突き出していた。


「神なんてクソ喰らえだオーマイゴォォォードッ! こんな十字架なんて捨てちまえッ!」


 赤髪の修道女が、胸の十字架のペンダントをその鎖ごとブチッと千切り、自らの腹の空洞へ十字架を逆さまに突っ込んだ。


「あァーんッ! エ・ク・ス・タ・シィィィーッッッ! わたくしの子宮ごと貫かれてイクゥゥゥーッ!」


 その裏側から無数の釘が突き出した腹部の扉部分が、左右に閉じたり開いたりと、何度も開閉を繰り返す。


 その度ごとに腹の内部から鮮血が飛び散り、バキバキッと十字架のペンダントが砕け散る音が聞こえるとともに、ぐっちゃぐっちゃと臓器の貫かれる音が聞こえてくる。


「うわあぁぁっ……自分で自分のお腹の中を突き刺してらあっ……」


「これは絶対、お友達になんてなりたくないタイプだわぁっ……」


 赤髪の修道女ことアイゼルネ・ユングフラウの奇行に、霧斗とギロチーヌが戦慄する。


「ふふふ。私もどちらかと言えば、ユングフラウの変態的行為にはついて行かれないかもですね……にゃん……」


 キャットもその頬を引き攣らせながら、アイゼルネ・ユングフラウの自虐的行為を見つめていた。


「き、気を取り直して、もう一度。さあ、ユングフラウ! この子たちと仲良くしてあげなさい! にゃん!」


 キャットの尻尾の猫鞭がバシンと床を叩きつける。


「おーほっほっほ! わたくしの子宮は、迷える子羊を一人ずつしかウェルカムできませんの。先にウェルカムされて、子宮と一緒に串刺しにされちまいたい迷える子羊は、どっちだいっ……?」


 腹部の扉を左右に開き、無数に突き出した鋭い釘と、腹の中の血塗れの子宮とを剥き出しにした、裸の修道女が笑う。


「ひぃえええっ……こんな変態シスターなんかにウェルカムなんてされたくないよっ!」


 悍ましい流血シスターに霧斗が思わず後ずさりしていく。


「シスターさんには悪いけど、その首、刎ねさせてもらうわねっ!」


 ギロチーヌが重ねた両腕のギロチンの刃を、アイゼルネ・ユングフラウへと向ける。


斬首執行デカピタスィョン! 変態さん、来世でまた会いましょうっ!」


「させますかっ! にゃん!」


 その瞬間、キャットの尻尾の猫鞭がギロチーヌの尻を強く打ちつけた。


「きゃああぁぁっ!」


 ギロチーヌは尻の皮を剥がれ、その体勢を大きく仰け反らせた。


 スライドしかけたギロチンの刃が、その衝撃で引っ込んでしまう。


「ギロチーヌちゃんっ!」


 霧斗が倒れ込もうとする亜麻色の髪の少女へ手を伸ばす。


「させないにゃん!」


 キャットの尻尾の猫鞭が、霧斗の伸ばした腕に炸裂する。


「くそおっ! どうして邪魔ばかりっ!」


 皮剥ぎの猫のトゲ玉が、霧斗の腕の皮膚を剥ぎ取っていく。


 霧斗は亜麻色の髪の少女を救わんとする腕を引っ込めざるを得なかった。


「あぁんっ……」


 ギロチーヌは霧斗の腕をすり抜けて、仰け反らせた反動から、今度は身体を前へと大きくうねらせた。


「ヘイヘイっ! カモーン! そんな物騒な代物を振り回す、ギロチンのお嬢さんこそ、まず神の救いが必要ですわね! ああ、貴女に神の恩寵があらんことを!」


 自らの血で塗れた両腕を伸ばし、赤髪の修道女がギロチーヌの身体を抱き止める。


「さあさあ! 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 世紀の一大殺人ショーの始まりだよーっ!」


 赤髪の修道女が、その頭からギロチーヌの胴体を自身の腹の空洞へと突っ込んでいく。


「きゃ……あ……アタシ……食べられ……ちゃ……う……」


 ギロチーヌがズルリズルリとゴスロリのドレスごとその肢体を修道女の腹内へと引きずりこまれていく様は、まるで蛙に呑み込まれるコオロギのようだった。


 ズルリズルリと足の爪先まで亜麻色の髪の少女が呑み込まれると、コトンと赤いパンプスが脱げ落ちた。


「ギロチーヌちゃんが食べられてたまるかってんだ! この変態シスターめっ!」


 霧斗がその傷だらけの腕を修道女の腹の中に突っ込もうとするも、


「レディのお腹に手を差し込もうとは猥褻です! 今すぐその手を放しなさい! にゃん!」


 今度は背後からキャットに羽交い絞めにされ、ギロチーヌの救出を阻止されてしまうのだった。


「お前放せ! 放せよ! スキニング・キャットおおぉーっ! この野郎ぉぉぉーっ!」


「ふっ。レディに向かって、『野郎』呼ばわりするなど、デリカシーの欠片もありませんね。にゃん!」


 藻掻く霧斗に、キャットが冷ややかに笑う。


「来た来た来たアァァーッ! カモーンカモカモ! オーマイゴォォォードッ! わたくしの子宮を串刺しに貫くとともに、このギロチン娘をブッ刺してブッ殺してご覧にいれます! ああ、迷える子羊が天然のミートテンダーで天に召される時が来たアァァーッ! エ・ク・ス・タ・シィィィーッッッ!」


 今やギロチーヌを完全に呑み込んだ修道女の腹は、まるで妊婦のように大きく膨らんでいた。


 左右に開かれていた腹の扉が、今まさに静かに閉じられようとする。


「やめろおぉぉーッ! 閉じるなあぁぁーッ!」


「ふっ。貴方も紳士らしく、愛しのレディがミンチになる様を、ここでおとなしく見届けなさい! にゃん!」


 キャットに羽交い絞めにされたまま、霧斗が泣き叫ぶ。


 ゴゴゴゴッ……と静かに音をたて、扉の裏に無数に突き出した釘が、暗黒の空洞を満たすギロチンの少女へと襲いかかっていく。


「うわあぁぁぁーッ! ギロチーヌちゃあぁぁーんッ!」


 霧斗の絶叫が響き渡る。


斬首執行デカピタスィョン! ミンチになるのはシスターの方よっ!』


 閉じられゆく扉の隙間から、ギロチン少女の斬首執行を宣言する声が漏れ聞こえる。


「ウギャアァァァーッ! わたくしの子宮ガァァァーッ! 超絶快感エ・ク・ス・タ・死・死・死・死ィィィーッ!」


 ジョキジョキジョキッ! と肉を切り裂く刃の響きが修道女の断末魔の咆哮とハーモニーの旋律を奏でる。


 部屋中にバラバラと肉片が弾け飛び、血の噴水が雨のように降り注ぐなか、鮮血に染まるゴスドレスを着た少女が姿を現わした。


「次はアナタね……」


 両腕の交差を解き、二本のギロチンの刃をそれぞれの腕の先端に有した少女は、碧眼の瞳に鋭い憎悪の色を宿らせ猫鞭使いの少女を睨み付けた。


「ひっ」


 その言葉の語尾に猫の鳴き声を付けるのも忘れ、空気の漏れるような悲鳴をただ一言だけ発した猫耳の少女は、恐怖に竦み上がる目でギロチーヌを見つめるのみであった。


「いい加減放せよっ!」


 隙を見せた猫耳少女の足を霧斗がドンと踏みつける。


「にぃやあぁぁーんッ!」


 キャットが自らの足を抱えて跳び上がる。


斬猫執行クーペ レグゼキュスィョン デュ シャ! 仔猫女の処刑を執行しちゃうわよぉーっ!」


 その刹那、ギロチンの少女の右腕の刃がキャットの胸を斬りつけ、左腕の刃がキャットのスラックスを斬りつけた。


「にゃあああぁぁぁーっ? にゃんてことをするんですっ? 全部丸見えにゃーんっ!」


 ぱらり、とキャットの胸元がはだけ、そのお皿のような平べったい乳房が露わにされた。


 また、その下半身も下着までもが切り裂かれ、キャットが慌ててその股間を両手で覆い隠すのだった。


 着用していた燕尾服のジャケットもシャツもスラックスも、そのすべてがハラリと脱げ落ち、仔猫の少女がその裸体を完全にさらけ出してしまう。


「わっ、私のパンティまでをも切り刻むにゃんて! ギロチン女、恐るべしですね……にゃん」


 猫耳をピクピクと動かしながら、その頬を赤らめて、キャットが股間を押さえたまま後ずさりする。


「こ、こんなえっちな死刑執行ならボクは何度だって見ていたいや……」


 霧斗も仔猫女と同様にその頬を赤く染めてしまっていた。


「いっ、いいでしょう。きっ、今日のところはここまでにしておいてあげます……にゃん」


 くるり、とその身を翻し、キャットが部屋の窓に顔を向ける。


「にゃにゃにゃにゃーん!」


 キャットはそう叫びながら窓の外へと跳躍、夜の闇へとその姿を消していった。

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