第2話 求めたもの

(別れよう)


私なりに考えた

彼と話すようになったのは高校からで、付き合い始めたのは大学に合格してから

たった数年間の時間しか共にしていないんだし、これからのたくさんの時間を無駄にさせちゃいけない


(時間は有限なんだから)


大学3年の秋頃、私はメールで別れを告げた

それから学校にも通っていないし、親友との連絡も絶った


(やり過ぎなくらいがちょうどいいよね)


自覚はあった

少しやり過ぎたのはわかってた

メールにも返信しなかったから、家まで来させてしまった

それでも顔は合わせない

決めたんだから


人と関わる時間が減り、少し寂しいまま年を越した

そしてまだ寒い時に、毎朝最初に目に映る天井が変わってしまった


(部屋が変わっただけなのに、違う人の人生みたい)


これからどうしていくのか、それはお母さんにも伝えてるし納得もしてくれた

これまで仲が良かった友だちも、将来を考えてた彼も、これから得るはずだったたくさんの関係性も私は諦めると決めたんだ


「今日も友だち来てくれたわよ」


言わなくても良いって言っても、お母さんはいろいろと報告してくれる

知らない方が良いこともあるけど、この優しさに私は支えられているんだ


「そのうち来なくなるよ。

私からは連絡しないようにしてるし、もう関わらない方がいいんだから。」


今まで何度もこの気持ちを口にしてきた

その度にお母さんは悲しい顔をする

悲しいと感じてくれている

そんなお母さんの子どもで良かったと、私は幸せを感じる


「そうだ、なんでもいいから雑誌が欲しいな。

明日でも良いから買ってきてくれる?」


「ファッション雑誌とか?」


「なんでもいい」


そう、なんでもいい

情報を求めてるわけじゃないから

ただ、何かしていると思えたらいいだけ


1秒ずつ、1分ずつ、1時間ずつ

1日ずつ時が過ぎていく

その全てが無駄じゃないと思いたかっただけなんだ


――――


昼過ぎにお母さんが雑誌を買ってくると、何故か隣に親友だった人がいた

私の思考は止まってしまい、言葉も出ずに固まってしまう


「ごめんね、来てる途中に会っちゃったから」


「この雑誌、アンタが好きだった雑誌だからね。

お母さんがこの雑誌持って出かけるんて、何かあると思ってついてきた」


エコも問題だ

買ったそのまま持ってきたせいで、お母さんが私のところに行ってると分かったそうだ


「お母さんを見たのは偶然だったけど、やっと会えた。

そりゃ家に行っても会えないよね。

…病院にいるんだから」


そう

私には病気がある

幸せな時間の中で病気になった

私たちの人生はこれからなんだ

だから大切な人たちには進んでほしかった

だから私は1人で良いと決めたんだ



今では真っ白な病室が私の全てだ

これからも毎朝目にする天井は変わらない

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