幼馴染


 木曜の夜、今日はご飯会の日だ。僕と入間さんは夕方までバイトがあるため、バイト終わりに二人でそのまま向かうことになった。場所はカフェの最寄り駅周辺にあるお好み焼き屋になった。

 

 「今日の歓迎会、すごく楽しみだったの。」


 洗い物をしていた入間さんがボソッとつぶやいた。


 「そんなに?」

 

 僕はコーヒーマシンを手入れしながら答えた。


 「うん。だって、吉先輩も薫先輩も優しくて。芳沢くんのことも全然知らないから、もっと話したかったし」


 入間さんは僕のことをさん付けではなく、君付けで呼ぶようになっていた。「同い年だから敬語じゃなくて良いよ」と言ったら、呼び方も変わった。それくらいは打ち解けることができたのだろう。


 「まあ確かに二人はすごく優しいよ」

 「芳沢君もね。ご飯会、芳沢くんも楽しみだったでしょ?」

 「まあ、楽しみは楽しみだったけど、どうして?」

 「だって、今すごく楽しそうな顔してるよ」


 心が顔に出ていたらしい。僕はそれがすこし恥ずかしく、上手く返すことができなかった。それでも、入間さんはとても楽しそうに見えた。


 今日のバイトはいつも以上に忙しかった。バイトが終わり、お店まで二人で向かう。歩いて15分ほどの道のりだ。道中は気まずいということは無く、むしろ話は盛り上がった。

 数メートル無言のまま歩いていた。視線を感じ、ふと僕の左を歩く入間さんの方をみた。入間さんが不安そうな顔でこちらを向いていた。目が合ったからなのか、入間さんはそのまま下を向き、また無言のまま数メートル歩いた。そして入間さんはまたこちら向いた。

 

 「今日、お酒は飲まないよね?」


 少し重たい空気に感じていたため、失礼ながら、そんなことかと思ってしまった。


 「うん、飲まないよ。お酒飲めない年齢だし、先輩も飲ませるような人じゃないからね」

 「そうだよね、良かった。私お酒飲んだことないから。まあ当たり前か」


 えへへと笑う入間さんを横目に歩いていたら、あっという間にお店の前に着いた。お店の前には、先に着いていた吉先輩と薫先輩がいた。


 「お待たせしてすみません」

 「俺らも今来たばっかり。バイトお疲れ」

 「お疲れ様」


 先輩二人に労いの言葉をもらい、お店に入った。 

 最初の注文でドリンクともんじゃ焼き、お好み焼きを適当に注文した。先輩は既にお酒の飲める年齢だが、僕たちに合わせてか、ソフトドリンクのドリンクバーを注文した。もんじゃ焼きは、すぐに来た。そして飲み物もそろい、吉先輩の音頭で4人の食事会が始まった。


 「それじゃ、入間さんの入社に乾杯」

 「「「乾杯」」」


 しばらくはもんじゃ焼きとお好み焼きを作ることに集中していた。そして、4人で協力しながら、何とか完成した。


 「んー美味し~」


 早速お好み焼きを食べ、とても幸せそうな入間さんの顔を見て、僕と先輩二人はくすっと微笑んだ。


 「入間さん、すごく美味しそうに食べるねー」

 「ほんと、お手本の様な食べ方!」


 吉先輩、薫先輩に褒められ、更に嬉しそうになる。とても表情豊かな人だ。そんな彼女の表情につられ、自然とこちらまで幸せな表情になる。


 「吉さんと薫さんは幼馴染なんですよね?」


 入間さんが尋ねる。

 

 「そうだね」


 吉先輩が答える。


 「いつからの幼馴染なんですか?」

 「そういえば僕もあんまり昔の事聞いたことなかったから、昔のお二人について知りたいですねー」

 「う~ん」と、二人は目合わせた。


入間さんの歓迎会で、まさかまず二人のことを聞かれるとは思っていなかったのだろう。

 

 「いつからの幼馴染かっていうのは、幼稚園からだね」


 吉先輩に続いて、薫先輩が付け足す。


 「そう、それで小中高まで同じだったの」

 「えー! じゃあすごい長いんですね!」

 「本物の幼馴染じゃないですか」

 「本物ってなによ!」

 「逆に偽物の幼馴染ってなんだよ!」

 「まあ、偽物もなにもないですよね」 


 正面に座る先輩二人は、すごく楽しそうに見えた。窓際にあるメニューを取るついでに、隣の入間さんの表情もチラッと見た。彼女もとても楽しそうだった。


 「お好み焼きともんじゃ焼き追加しましょ」

 「そうだな、俺はなんでも良いぞ」

 

 薫先輩も「私もなんでも食べれるから」と、後輩二人の好きなものを選ばせてくれた。


 「俺は豚キムチが良かったりするな~」

 「私も豚キムチ!」

 「じゃあ決まりだな」

 

 二人の意見がすぐに一致したのを見て、吉先輩が店員さんを呼んで注文してくれた。


 「それで、小中高でも二人で良く遊んだりしてたんですか?」


 入間さんのまだまだ二人のことが知りたいですという勢いを感じた。そんな勢いに負けないくらいの勢いを、先輩二人に感じた。


 「よく家来たり、出かけたりしたよな~」

 「そうね、よく悠君の家でゲームやってそのまま夕飯とかも食べさせてもらってたね。懐かしいなー」


 悠君というのは、吉先輩の名前である。悠来ゆうきの悠だ。

 大学3年生の薫先輩が懐かしいというのなら、最近は家に行くことは無いということなのだろうか。


 「最近はお家には行ってないんですか?」


 入間さんは同じことを思ったようだ。


 「うん、最近は行ってないね~。悠君が最後に私の家に来たのもだいぶ昔だね」

 「歳も歳だからな~。お母さんに勘違いされも困るしね」

 「そうね。でもお出かけは昔から良くしてるよね。今も時々買い物行ったり」

 「仲良しで良いですね~。私幼馴染っていないので羨ましいです」


 僕にも幼馴染はいないので、入間さんのその気持ちは良く分かった。


 「まあ、誰といるより楽だよな」

 「そうね」


 顔を見合わせて幸せそうにしている二人は、まるでカップル、いや、夫婦のように見えた。おそらく入間さんもそう感じていたかもしれない。でも、そのことは僕も入間さんも言うことは無かった。


 「そういえばお二人はいつからカフェでバイトされてるんですか? 芳沢君は高校1年の時からやってるって聞きましたけど」

 「俺は高校3年の4月からだね。俊樹としきは俺が入った2か月後に入ってきたから、カフェではそんなに先輩じゃないんだ」

 「それで実は私、バイトでは芳沢君の後輩なの。大学1年の4月からだから」

 「えーそうなんですね。芳沢君、結構ベテラン...?」

 「そうだね。まあ、俺の仕事ぶりからは想像できないだろうけど...」


 そう、僕は3年前の6月からザカフェで働いている。高校1年生の時だ。吉先輩は24月から。薫先輩は翌年の4月から働いている。もちろん、カフェのバイト歴が少し長いだけで、薫先輩も年上なので先輩と呼ばせてもらっている。


 

 「いやいや、ベテランかな~って想像できるくらい仕事できてるよ!」

 「そんなに必死に弁解するからより際立ってるね。でも俊樹はほんと仕事出来る人だよな」

 「そうね、いつも見習ってる」


 入間さんのへたくそなフォローを、先輩二人が華麗にフォローしてくれた。僕の横で入間さんがうんうんと首を縦に振っていた。そんなに振ってたら首もげるぞ。。。



 


 

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