第3章03 凛音
美羽がカメラの前で詫びて、俺も隣から移り込む。
「俺からも、改めて申し訳ない。俺がいきなり通話を切ったのも悪かった。2人にいらぬ誤解を与えちゃったし」
「い、いいよそんなに謝らなくても。誤解だって分かったから」
「う、うん。美羽さん? もすごく反省してるみたいだし」
「ありがとう。ほら、許してもらえてよかったな。ったく、高2にもなっていまだにガキみたいなことすんなよ」
「うん…お兄ちゃんごめんなさい」
俺に怒られたのがよほど堪えたのか若干涙目になってる美羽の頭をポンポンと撫でる。ひとまず美羽も謝ったし誤解も解けて落着だ。
「それにしてもなんでいきなり来ようと思ったんだ?」
「だって…お兄ちゃん全然帰ってこないしあたしからしないと連絡くれないし…」
「あ~…悪い」
そういや返事も遅れがちだったなぁ。TBに全振りの日々だったから寂しい思いをさせてしまったようだ。
「美羽ちゃんお兄さんのこと好きなんだね」
「べ、別に重度のブラコンってわけじゃないです!」
「軽度の自覚はあるんだね」
「そりゃあ、お兄ちゃん優しいし。TBやってるときすごくカッコいいし。だからその…毎日お兄ちゃんと一緒の2人が羨ましくて…ちょっと意地悪しようって」
顔を真っ赤にしながら犯行の動機を自白する美羽。というか兄離れさせれてないみたいでこっちまでいたたまれないんだが…。
「か…可愛い~! 何この子! すっごい可愛いんだけど」
「うん。なんかこうむずむずするいじらしさがあるね」
「う、うるさいです! からかわないでください」
「お兄ちゃんにはデレデレで他の人にはツンツンって…こんなテンプレ属性押さえてるなんて」
「うんうん、なんかチワワが必死で威嚇してるような愛くるしさだね」
「お兄ちゃぁん…」
「はぁ、2人ともそれくらいにしてやってくれ。十分反省してるだろうし、ちゃんとお灸も据えたから」
「そういえばさっきスパァンって音してたけど」
「あぁ、これで頭ひっぱたいた」
俺はさっき使った紙の束を見せる。せいぜい20枚くらいの紙を丸めた束だったから真ん中でべこっと凹んでる。
「だ、ダメだよH4Y4T0、いくらなんでもかわいそうだよ」
「いやちゃんと手加減してるし。紙だぞ?」
「そういう問題じゃないでしょ! そもそもH4Y4T0がちゃんと美羽ちゃん構ってあげてたらよかったのに。ほったらかしたのが悪いじゃない」
「うっ…」
「そもそもの原因はH4Y4T0なんだし、美羽ちゃんも謝ったんだからH4Y4T0も謝りなよ」
「…分かったよ。美羽、ごめんな。これからは俺からも連絡するようにするよ」
「うん…頭、痛かった」
「わ、悪かったよ。ほら、機嫌直してくれ」
さっきひっぱたいた頭を撫でるとようやく笑顔が戻ってきた。嬉しそうに眼を閉じてされるがままの美羽。しばらく会ってなかったしこういうのも久々だな。
「これはこれでてぇてぇわね」
「仲よし兄妹っていいねぇ」
ひよりも久遠も何やらほっこりした表情を浮かべてる。シスコンと思われるのも嫌なので、俺はもういいかと手を頭から離した。
一瞬残念そうな表情が見えたけど、美羽も気恥ずかしさはあるのか特段何も言うことはなかった。
「さて、誤解も解けたし改めて休憩ってことで」
「は~い。ねぇねぇ美羽ちゃん、ごはん一緒に食べない? オンラインだけど」
「え、いいんですか? ぜひぜひ! 有名人と一緒にご飯なんて嬉しい!」
「僕もいいかな?」
「もちろんです。えっと、久遠さん? 凛音さん?」
「久遠でいいよ。TBやってるときはこっちの名前でやってるし」
さっき美羽が口にした名前、それは久遠がVtuberとしての名前だ。
ぶいあどの事務所で茜さんからオファーをもらい、2週間程度という爆速の準備期間で3日前に久遠はデビュー配信を行っていた。
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