第3章02 悪戯
キリが良いとこだったとはいえ、いきなり通話を切ったのは失敗だったな。別に説明すればいいだけなのになんか慌ててしまった。すぐ説明しようと思ったけどちょっとトイレにも行きたかったので先に用を足すことにした。
「はぁ、すぐ戻るから大人しくしててくれ」
「は~い」
元気よく返事する美羽を残して急いでトイレへ。すぐに済ませて戻ってくると、美羽が俺のゲーミングチェアに向かって何やらキーボードを叩いてる。
嫌な予感をひしひしと感じながら背後に立つと、チャットに文字を打ち込んでいるようだった。
「美羽! お前何やってんだ」
「ちょっとイタズラ」
画面を見ると久遠とひよりからさっきの声の主は誰かと連絡が何件か入っている。そして美羽が俺のフリをして返した文言を見ると…
『彼女です』
「何やっとんじゃあぁあ!!」
通話がちょうどかかってきた。俺は何度ついたか分からないため息をついてイヤホンを耳にあてる。
「もしもし」
「ちょっとH4Y4T0、どういうことよ!」
「待ってくれ、誤解だ。ちゃんと説明するから」
「誤解って何よ! か、彼女いないって言ってたじゃん」
「…嘘つき」
ひよりは慌ててて久遠は静かにキレてる…。なんとか誤解を解かないと。
「妹なんだよ。急に来たからびっくりして通話切って、ちょっとトイレ行ってる隙に俺のフリして勝手にチャット打ってたんだよ」
「妹? 嘘つくにしてももうちょっとマシな嘘つきなさいよ!」
「ホントだよ。この大事な時期にいい御身分だね。死ねばいいのに」
ダメだ。全然信じてもらえない。でも確かに嘘っぽいか。あのとき慌てて通話を切ったのが悔やまれる。2人には美羽のこととかまだ話してなかったし…。
「んぁ? さっきの声やっぱ美羽ちゃんか?」
そうだあぁあ! Setoは美羽と何回かノンレやったことあるんだった。
「えっ、Seto知ってるの?」
「H4Y4T0の妹ってのはガチだぞ?」
「やっほ~、Setoさん。お久しぶりで~す」
「お~久しぶり~相変わらずだなぁ」
「たはは~」
慣れた感じの2人のやり取りを聞いて、さっきまで全く信じてなかったひよりと久遠もちょっと様子が変わる。
「じゃ、じゃあ彼女ってのは嘘?」
「そうなんだよ。俺も慌てて通話切っちゃったから悪いんだけど。ちゃんと説明してから抜ければよかった」
「はぁ~ホントだよ。僕すごいびっくりしたんだから」
「あたしも…」
「本当にごめん」
「あはは、どっきり大成功~」
ぐったりと脱力した感じの2人の声を聞いてケラケラと笑う美羽。いつも俺にイタズラをしかけてきたときはやれやれって感じで許してしまうけど、今回はそうはいかない。
俺は捨てようとまとめといたメモ用の紙を20枚くらい重ねてくるくるとまとめた。
「美羽」
「ん?」
スパアァン!
俺から話しかけられて笑顔で振り向いた美羽の頭に振り抜いた。
「いったぁ~い」
はたかれた頭のてっぺんを押さえて蹲る美羽。紙の筒だしぎちぎちに丸めてもないから大して痛くならないようにはした。
「美羽」
「…はい」
俺の声のトーンがガチだということに気づいてようやくしおらしい様子になった。めったに怒らない俺が怖いのか俯いて俺の正面に立つ。
「俺に多少の悪戯をしかけてくるのは別にいい。でも、今のはライン越えだ。分かるよな?」
「…はい」
「俺たちは大事な時期だ。それにひよりと久遠はチームメイトであり仕事仲間でもある。全員本気でやってるんだ。リーダーの俺が浮ついてるような誤解与えていいわけないだろ?」
「うん…」
「それに、お前はひよりと久遠のことを知ってるかもしれないけど2人は知らない。そんな2人に不快な思いさせてどうすんだ」
「…ごめんなさい」
「俺に謝ってもしょうがない。ちゃんと2人に謝れ」
俺は通話のカメラをonにして美羽をゲーミングチェアに座らせる。
「ひより、久遠、俺の妹がバカやったせいで不快にして本当にごめん。ほら、お前も」
ひよりと久遠もカメラをonにしてくれた。美羽はカメラを覗き込みながらペコリと頭を下げる。
「初めまして。お兄ちゃんの妹の橘 美羽です。さっきはイタズラしてすみませんでした」
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