第3章01 来訪者

 時刻は昼過ぎ。


 いつも通り3人でレートを回し、久遠を交えて気になったところに意見を交わしている。


「この場面、俺は後ろを切りたかったんだよな。前がかなり混んでたし、ひよりのゴクウのODは切ってたから」

「でもよ、右にいた部隊もいるから左に回った方がよくなかったか?」

「1人欠けてたから詰めてこれないと思ったんだよね」

「僕がVC聞いてた感じ、欠けの情報はH4Y4T0しか把握してなかったと思う」

「あぁ、俺言ってなかったか」

「俺は聞いてねぇな。ひよりは?」

「うん、あたしも聞いてないと思う」

「悪い、気を付ける」


 どうしても言葉足らずになったり共有が漏れるシーンは出てくる。2人とも俺の指示には迷わずついてきてくれるけど、出来る限り情報は共有しておきたい。


 こういうときに久遠が3人の視点を画面共有で見つつ、俯瞰的にVCを聞いてくれていると試合後の振り返りのときに気づかなかった意見をくれることが多い。


 白樺さん達をコーチングしているときは、3人の立ち回りの修正点をズバズバ挙げていってたけど、俺たちの時はある程度の土台はあるからこうすればもっとよくなるとか、今見たいにコミュニケーションの部分で細かいところに意見をくれるからすごい助かる。


 今までは俺が試合を見返しながら振り返ってたけど、どうしてもバイアスがかかってしまうことがある。でも今はだいたい気になったところは久遠も共通してるから効率がいいし、信頼できる客観視点からの意見をもらえるようになって振り返りの質も上がってる気がする。


「僕もムーブ自体は合ってたと思うし、あの場面は後ろを切って進むしかない」

「どのみち俺らは従うんだけどな」

「そうだね。あたしは信じて動くし」

「でも出来る限り有益な情報は伝えたいしね。久遠、サンキュー」


 一旦フィードバックも終わって一息つく。そろそろ休憩しようかと思ったちょうどその時、


 ピンポーン


 インターホンが鳴った。


「悪い、俺んちだ。見てくるわ」


 宅配便とか今日届く予定なかったよな? セールスなら居留守しよ。そんなことを考えながらインターホンを覗くと、


「んなっ!」


 見慣れた顔がインターホンを覗き込んでいた。


「おま、どうしたんだよ美羽!」

「えへへ~、びっくりした? とりあえず入れて~」


 カメラに写っていたのは妹の美羽だった。俺の声ににっこりと笑顔を浮かべて手を振っている。


 訳は分からないけどひとまずオートロックを解く。ドアが開いたのか美羽はすぐにカメラの前から消えた。


 俺はダッシュで防音室に戻って通話に戻る。


「悪い、急な来客だ。キリもよかったし一旦休憩で!」

「えっ、別にいいけどそんなに慌ててどうしたの?」

「詳しくは後で話す」

「おっ邪魔しま~す!」


 しまったぁああぁあ! 防音室のドア閉めてなかった。美羽の声ががつがつに拾われてしまった。


「…はっ? 女の子の声?」

「ちょっと、H4Y4T0今のだr」


 咄嗟に通話をブチ切って難を逃れた。配信入れてなくて本当によかった。今は昼過ぎで普段は夜から配信つけるようにしてたし。


 はぁ~とため息をついて防音室を出ると、美羽がちょうど目の前に立っていた。


「こら、入るな」

「えぇ~あたし防音室って見たことなかったの! どんなのか見せて~」

「お前なぁ、配信付けてたらどうするつもりだったんだよ」

「ちゃんと確認してるもん! それに、連絡しても全然気づかないから」


 ずいっとスマホの画面を見せてくる美羽。それを見るとたしかに俺に何度もコンタクトを取ろうとしてたみたいだ。


「悪い、練習してたから全然気づかなかった」

「まぁあたしもいきなり来ちゃったし、ごめんね?」


 眉をハの字にして見上げてくる美羽。今日は髪を降ろしてるから若干大人びて見えるけど、元が童顔だしこの表情されると何も言えなくなっちまう。


「はぁ~。いいよ、ちょうど通話切ったとこだし」

「ありがと、お兄ちゃん大好き」


 すぐににっこりと笑顔を浮かべる。こいつ、俺が許すの分かっててやってるな。計算づくと分かっても甘やかしちまう俺が悪いんだけどさ。


 物珍しそうにきょろきょろと防音室の中を見回す美羽。


「ねぇねぇ、ほんとに聞こえないの?」

「あぁ、よっぽど大騒ぎしない限りは」

「ちょっとお兄ちゃん中で拍手して?」

「はいよ」


 美羽は外に出て扉を閉める。俺は言われるがままに中で軽く拍手をしてから扉を開けた。


「どうだ?」

「え、何も聞こえなかった。すご~い!」


 防音室の機能にひとしきり感心したあと、美羽は俺のPCを見る。


「あれ、なんかたくさん通知きてるみたいだね」

「ん?」


 言われるがままに画面を見ると、ひよりと久遠から何度もチャットが飛んできていた。


 

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