間章02 恋バナ

 とある日のこと。


「なぁ、悪いんだけど明後日練習休んでいいか?」


 いつものように訓練場でそれぞれエイムやキャラコンの練習に励み、ちょっと休憩するかってタイミングでSetoが切り出してきた。


「んぁ? 別にいいけど」

「そっか。んじゃ悪ぃけどよろしく」

「あれか?」

「あぁ」

「羨ましいねぇ」


 俺とSetoと久遠は勝手知ったるって感じでやり取りしてるけど、それがなんなのか分からないのが1人いる。


「ねぇねぇ、あれって何?」

「……なんでもねぇよ。ちょっと予定が入ったから伝えただけだ」

「それは分かるけど、3人だけ通じ合ってる感じじゃん。あたしだけ仲間外れにしないでよ」

「……」


 そりゃひよりからしたら気になるか。俺たちも別に隠すつもりもないし隠すほどのことでもないけどSetoは一向にひよりに教える気配がない。本人が言わないなら言わない方がいいのか? とか考えてたけど、


「ふふっ、Setoは月に1回彼女さんのいうことを何でも聞く日があるんだよ」

「えぇ~何それ!」


 久遠からあっさりバラされてしまった。ひよりは恋愛話と知って急激にテンションが上がってる。


「久遠、お前言うんじゃねぇよ」

「Setoがさっさと言わないからじゃん。ひよりだけ知らないってのは可哀そうだよ」

「Seto! 詳しく聞かせてよ」

「…こうなると思ったから言いたくなかったんだよ」

「ならひよりがいないときに言えばよかったのに」

「チーム練習抜けるんだから全員いるときのがいいだろ」

「そこまで律儀に考えてるなら猶更さっさと言えばいいのに」


 俄然食いついたひよりにSetoはうんざりとした様子でため息をつく。前にSetoに彼女がいるって初めて聞いたときもすげぇリアクションしてたしな。意外とかそういうわけじゃなくてシンプルにこの手の話が好きなんだろうな。


「で? 明後日の予定は決まってるの?」

「…出かける」

「どこに!?」

「なんでそこまで言わなきゃいけねぇんだよ」

「いいじゃん別に教えてくれても!」

「…千葉のテーマパークだよ」

「きゃあああああ!」


 ひよりはテンションぶち上げで机をバンバン叩いてる。いつもの除夜の鐘のような腹に響く音じゃなくて、手のひらで机をたたいてる感じか? もうなんか音で聞き分けられるようになってきた。


「いいなぁ~。彼女さんが行きたいって言ったの?」

「そうだよ。俺から言うわけねぇだろ」

「耳つけるの?」

「……」

「つけるんか~い!」


 こいつ酒でも飲んでんのか? ってくらい大盛り上がりだな。そんなひよりにSetoはげんなりした態度を隠そうとしない。


「お前なぁ、からかってくんじゃねぇよ」

「からかってなんかないよ! いいなぁ~と思って。月に1回って言ってたけど、何かそういうルールでもあるの?」

「そうでもしねぇと俺がTBばっかやるからだってさ。あながち違わねぇし、まぁ色々助けてもらってるから、その」

「その?」

「日ごろの感謝の印だよ」

「きゃあああああ! あぁ、マウスが!」


 机叩きすぎてマウス落ちてんじゃねぇか。


「ふふ、Setoは彼女さんのこと大事にしてるもんねぇ」

「ね! 優しいとこあるじゃん!」

「うるせぇ。もうこれ以上は言わねぇからな」

「いいなぁ~。しばらく行ってないしあたしも行きたいなぁ~」

「僕も全然だなぁ。高校の友達と卒業前に行って以来だね」


 ひよりも久遠も羨ましそうだ。やっぱ女の子はあそこ好きなんだなぁ。俺はあんまり映画とかも見てないからピンと来ないんだよなぁ。行ったことはあるし楽しかったけど自分から行きたいなぁとはSetoと同じようにならない。


「Setoって彼女さんと付き合って長いんだっけ?」

「まぁ幼馴染からそのままって感じだしな。付き合いだしてからは今年で5年目だったと思う」

「純愛だぁ…。眩しすぎる」

「そんなんじゃねぇっての」


 でも実際すごいよなぁ。幼稚園からの付き合いで、そのままずっと一緒にいるって漫画の主人公みたいだ。


「他に気になる子とか出来たりしなかったの?」

「出来ねぇっての…殺されるわ」


 後半はやけに実感籠ってるな。もう逃れられないって諦めの境地に至っているかのようだ。


「束縛激しいとか?」

「別に今はそーいうわけでもねぇけど、ガキの頃はずっと俺んちに遊び来てたからなぁ」

「まぁでもSetoも大切にしてる感じするし、羨ましぃなぁ~」

「そういえば、H4Y4T0のそういう話ってあんまり聞いた事ないな」

「俺?」


 唐突に久遠から話を向けられた。そう言われてみればあんまりその手の話はしたことなかったな。

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