第2章55 託される願い

「うぅ…グスッ」


 4人を見てひよりも涙を流している。正直俺も見ていてくるものがあった。贔屓目抜きにしても、3人は本当によくやったと思う。競技勢ひしめく中、グランデのみのチームが11位に入ったというのは十分凄まじい結果だ。


 でも、3人の目指した場所はもっと先にあった。柊さんは言っていた。ここで終わるつもりなんて全くなかったと。


「えっと…リスナーのみんな、残念だけど…グスッ、負けちゃいました。期待に応えられなくてごめんなさい。応援してくれて、本当にありがとうございました。」

「「ありがとうございました」」

「正直…まだ全く気持ちの整理がつかないので、一旦配信は終わります。アーカイブは編集するかもしれないです」


 白樺さんの配信が終了し、続いて柊さんと朝顔さんの配信も閉じられた。


「さて、俺らの配信も一旦終わろう。最後まで見てくれた皆ありがとね。本当に惜しかった。残念で仕方ないけど、最後まで諦めずに戦った白樺さん達を褒めてあげてほしい」

「最後の試合見て運やまぐれでここまで来たわけじゃねぇってのが分かったよな。みんな、すげぇ強かった」

「うん…本当に、すごく強かった。みんな、応援してくれてありがとう」


 俺たちも配信を終了し、通話だけを繋いだ状態になる。しばらく誰も言葉を発しなかった。次に話すときどう言葉をかけようか、そんなことを考えていると、久遠が通話に加わってきた。


「みんな、3人が挨拶したいって言ってるんだけど、いいかな」

「もちろん」


 まだ何も考えなんて纏まってないけど、もっと心がぐちゃぐちゃのはずの白樺さん達からの求めを断れるはずがない。俺たちはすぐに7人の通話部屋に入った。


「お疲れ様」

「お疲れっす」

「みんな、本当にお疲れ様」


 俺たちの労いの言葉を受け取る3人。俺から何か言葉をかけるべきか迷っていると、白樺さんが先に口を開く。


「H4Y4T0さん、Setoさん、日和。今日も配信で応援してくれて、本当にありがとうございました。自分達の練習もあるのに、私たちにたくさんの時間を割いてくれたことも、本当に感謝しています。」

「「ありがとうございました」」


 3人の声は普段のやり取りや配信で聞くのとは全く違うものだった。泣きはらして涙は一旦引いたみたいだけど、今も鼻をすんすんと鳴らしているし、沈痛な声音から悲しみと悔しさがありありと伝わってくる。


「こちらこそありがとう。本当に素晴らしい戦いを見せてもらいました。白樺さん、最後のコール凄かったよ」

「はい…初めてH4Y4T0さんから一本取れましたかね?」

「悔しいけど認めるよ。白樺さんに初めて負けたって思った」

「そっかぁ…3on3では結局1回も勝てなかったけど、最後の最後に勝ててよかったです」

「柊さんと朝顔さんも、ガチでいいフィジカルでした。今は悔しいだろうけど、胸を張ってください。勝負どこでクラッチできるのはすげぇ事っす。プロリーグで戦えないのはマジで残念だけど、またタイマンやりましょう」

「はは…Setoさんからこんなに喋られたの初めてじゃない? でも、認めてもらえたってことなのかな」

「ありがとうございます。Setoさんがいつも全力で倒しにきてくれたから、強くなれたんだと思います」


 Setoが自分からファイト以外で真剣に話かけてるのは本当に珍しい。それだけこの戦いに思うところがあったし、強くなったと伝えたかったんだろう。


「日和も、本当にありがとう。私たちの目標になってくれて」

「結…」

「Ragnarok Cupで強くなった日和を見たから私たちは頑張れた。練習は大変だったし何度も挫けそうになったけど、その度に日和が心の支えになってくれた。だから、本当にありがとう」

「うちもそうだよ。楠と戦いたいって気持ちがあったからがむしゃらに頑張れた。悔しくてどうにかなりそうだけど、少なくとも、一切手を抜かずにやり切ったってことは胸を張って言える。だから、ありがとね」

「私も、先輩を見て強くなりたいって思えたし、頑張れました。こんなに悔しい気持ちになったのは初めてですごく辛いけど、こんなに生きてて充実してるって思ったのも初めてでした。ありがとうございました」

「みんな…あたしも、あたしもみんなが頑張ってるのを見て負けられないって頑張れた。プロリーグで当たれないのが本当に…本当に残念だけど、みんなと一緒に頑張れて嬉しかったよぉ」


 刺激を与え、与えられた者同士、最高の仲間ライバルだな。大泣きするひよりにつられて3人の引っ込んだ涙もまた顔を出したみたいだ。


「日和…頑張ってね…私たちの分も勝ってね」

「楠、簡単に負けたりしたら…許さないから」

「先輩、頑張ってください」

「うん…絶対、皆の分も勝つから。見てて」

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