第2章54 終戦
「……嘘」
届かなかった。3人の世界大会は、ここで終了だ。
「そんな…こんなの、こんなのってないよ」
ひよりの声が空しく響く。さっきまで勝利の歓喜に酔いしれていたのに、今は深い悲しみが場を支配していた。
「3人の配信を見よう」
「そうだな」
「無理だよ…見れない…」
「見なきゃだめだ」
「っ!……」
ひよりの気持ちは痛いほどよく分かる。俺だって悔しいし悲しい。3人がこれからどうなるかを思うと目を背けたくなる。でも、逆だ。俺たちは目に焼き付けなきゃダメなんだ。
「ひより、残念だけどこれが勝負の世界なんだ。プロリーグで、俺たちが同じことになる可能性だって十分ある」
「……」
「俺らより4人の方がこれからずっと悲しむし傷つくんだよ」
「そうだ。大体、見ないで掛けられる言葉に価値なんてねぇだろ。大事な仲間なら、ちゃんと見ようぜ」
「…うん、ごめん。…ちゃんと見る」
配信に流すのではなく、俺たちはそれぞれサブモニターで3人のチャンネルに飛んだ。
「…ダメだったね」
「うん…」
「…はい」
「見るまで手が震えてたのに、いつの間にか止まっちゃった。なんだろ、感情が迷子になってる感じ」
「うちも。あ~あ、明日から何しよっか。終わるなんて思ってなかったから何にも予定入ってないや」
「…そうですね」
「みんな、お疲れ様」
「コーチ…」
久遠が3人の会話に加わる。俺たちとの通話を離れてからしばらく経っている。会話に入るタイミングを窺ってたんだろうな。
「最後の試合、本当に凄かった。みんな完璧だったよ。結、何あのOD! あんなの教えてないよ! H4Y4T0も思いつかなかったって悔しがってた」
「…はは、そっか。H4Y4T0さんも驚かせられたんだ」
「美月も! 雫も! 最後の1マガでノック取った時鳥肌立ったよ。チートみたいなエイムだった」
「でしょ? うちも自分でびっくりしたもん。…エイムアシストが急に強くなったのかと思うくらいだった」
「……」
すごく明るく最後のシーンを振り返る久遠。でもその明るさは、必死に何かを堪えているのが誰からも明らかで。さっきまで呆然としていた3人の様子も変わってくる。
「本当に…本当に頑張ったね…。…惜しかったなぁ」
消え入るような久遠の声で、限界だった。
「ごめん…ごめんね久遠…グスッ。約束…守れなかった」
「くっそぉ…。ちくしょぉ…」
「ごめんなさぁい…私が…私が! あのときノックダウンされてなければ…うぅっ」
朝顔さんが言ってるのは多分4戦目のことだ。建物に詰めていったとき、ステを張り付けられてダウンしたのを悔やんでいるんだろう。
「違う! うちが! うちが初戦の初動で1on1勝ててれば…」
「うぅん違うよ…私が…もっといいコールが出来ていれば…」
3人はひたすらに自分を責めた。あの時こう動いていれば。あの時こう選択していれば。あの時勝てていれば。どれか一つでも違っていれば、ポイントや結果は違うものになっていただろう。それぞれの脳裏に未来を変えたかもしれない過去の光景が浮かんでいるはずだ。でも、それは3人だけじゃない。
今敗退した10チームにもそれぞれ同じかそれ以上の”たられば”がある。勝ち残ったチームにだってある。これまで敗退していった全てのチームにもあるんだ。
「自分を責める必要はないよ。君たちは、みんな持てる全てを出し尽くしたんだ。それなのに…勝たせてあげられなかった…グスッ。ごめん…ごめんね」
久遠の言う通り、誰も悪くない。もちろん久遠もだ。全員本気だった。それでも届かなかった。
「最後…グスっ、勝ちまでのルートが、頭に勝手に浮かんできたの…。あんなの初めてだったのに…」
「もう一回、グスッ…もう一回やらせてよ…」
「悔しい…。悔しいよぉ…」
「……グスッ」
必死に堪えていた嗚咽が限界を超えて慟哭に変わる。
「「「「うわぁああぁぁぁあぁあぁ!!!!」」」」
みんなちゃんと本気だったから悔しいんだ。中途半端な気持ちなら悔しいなんて思えない。悔しいのも、悲しいのも、胸が張り裂けそうなほど辛いのも、4人がそれだけ本気でこの大会に挑んだことの何よりの証左だ。
俺たちは黙って、号泣する4人の声をいつまでも聞き続けた。
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