第2章52 覚醒

「っしゃあ!」

「よく返したぁ!」


 俺とSetoは攻撃を跳ね返して見事キルポを得たのを見て吠えていた。対して久遠とひよりは何も喋らない、ってか喋れないくらい入り込んでるって感じか。


「キルポ3取れたのはデカすぎる」

「だな。安地は?」

「次で外れるけど建物出てすぐが安地の際だから余裕ある。塀に張り付けば射線も切れるし、ポジションはかなりいいよ」


 イケるかもってのはフラグだからすんでのところで飲み込んだ。でも、本当にいいとこ取れた。予想よりも安地が拠点に寄ってくれたし、今邪魔な部隊を倒せたお陰で次の収縮で背後は勝手に切れてくれる。


 朝顔さんがSRから武器をARアサルトライフルに持ち替えて終盤に向けての換装もちゃんと出来てる。ここからは終盤戦だ。


 第4収縮が始まって次第に拠点にしていた建物もダメージエリアに呑まれていく。3人は建物を出て塀に張り付いて射線を完全に切った状態で待機した。


 収縮中の戦闘で2部隊減って残りは7部隊。白樺さんがロビンフッドのスキルで次の取るべきポジションを必死に探していた。


 いつしかアグラバードの陽は沈み、あたりは月明りが照らす夜になっている。今日序盤で倒され続けた3人にとっては初めて迎えた終盤だ。


「下を弾かねぇとな」

「だね。絶対に上がらせるわけにはいかない」


 現在、安地はちょうど時計の9時から3時を一直線にぶった切ったように3~4mほど切り立っている。下側に4チーム、上側に3チームが位置取っていて、3人は上側の右にポジションを取っていた。高台の他の2チームとは塀で射線が切れているし、すでに塀の際に朝顔さんがステッキを刺して対策も済ませてる。


 あとは下にいるチームをいかに弾くかだ。ただ、塀を越えてしまえば下からの射線を切るものがない。今のうちに下で足の引っ張り合いが起きてくれないとちょっとまずいかな。と、ここで白樺さんが驚きの行動に出た。


 下側で挟まれる形となっている2チームがかかるようにロビンフッドのODを打ち込んだんだ。下ではポジション争いで小競り合いが続いてたけど、そこに唐突に打ち込まれる”霊鳥爆散”。バリアが削れたことで戦局が動き、両端で挟んでいたチームが一気に詰めに動き出した。


「マジか! すげぇ!」


 俺は白樺さんの意図を理解して血が沸騰するような興奮を隠しきれずに叫んでいた。


「え、H4Y4T0どういうこと?」

「自分達の都合のいいように局面を動かしたんだ。見ろよ! 3人と一番近くにいた下のチームも詰めに行ったから右側が一気に空いた。白樺さんのODで安地の右半分には3人しかいなくなったんだよ!」

「…ほんとだ」

「狙ってやったんだとしたらやべぇな」

「狙ってやったに決まってる! じゃなきゃ最終局面を前にロビンフッドのODを切るわけない! くっそ…俺も考えつかなかった」

「結…」


 久々に聞こえてきた久遠の声は掠れて震えている。白樺さんの成長に思いが込み上げてきてるんだろう。俺も興奮が収まらない。ここにきて白樺さんのIGLとしての能力が覚醒したんだ。


 チームの指揮を執るだけじゃなくて、相手の動きすらも操ってみせた。盤面を完全に把握して、敵の状況・思考・心理を理解してないと出来ることじゃない。今この舞台を演出しているのは間違いなく白樺さんだ。ということは、彼女には幕引きまで見えているに違いない。


 挟まれたチームが壊滅し、残った2チームも潰し合う。間もなく収縮が始まろうかというタイミングで、3人も動き出した。


 塀を乗り越えて左へと侵攻し、挟まれる形のチームに一斉にグレを投げ込む。結界で防がれるけど、そのタイミングで奥側のチームのロビンフッドがその結界を吹き飛ばしてくれた。


「敵のODまで織り込み済みかよ」

「結…すごい…」


 Setoとひよりも感嘆の声を漏らす。そうだ、今のも白樺さんが誘発した。さらにマーリンのODまで切ってくれたことで挟まれたチームは身動きが取れない。2チームのクロスで為す術なく壊滅し、柊さんが1キルを取った。


 残った1チームが回復の時間を与えまいと一気に詰めてくるけど、ここで朝顔さんが今まで大事に取っておいたモリアーティのODを発動する。周囲が毒霧に包まれ、敵はこちらに狙いをつけることができない。ダメージを避けて霧から抜けようと下がる相手の背中に、3人が襲い掛かる。


「うえぇえ、強すぎ!」

1ワンマガかよ!」


 朝顔さんと柊さんが1マガジンでアヌビスとロビンフッドのノックダウンを取った。吸い付くようなエイムで一発も体を外さなかった。この最終局面で2人のフィジカルもこれまでで最高に冴え渡っている。


 たまらずセイメイは高台から飛び降りて逃れる。追撃かと思いきや、ここでは確実に残されたダウン中のアヌビスとロビンフッドの確キルを取ってから体力を回復させた。


「っははは、ここで冷静かよ」


 下での戦闘が終わったところに突然降り立ったセイメイ。倒れたゴクウを蘇生中のカーミラをダウンさせたけど、残るマーリンにあえなく倒された。気づけば残っているのは2部隊。今の戦闘で生き残っているのはマーリンしか残されていない。


 フルヘルスの状態で3人が幕を閉じるために距離を詰める。白樺さんの放った弾丸がスローモーションでマーリンの眉間に吸い込まれ、3人の勝利を告げる”Triumph”のエフェクトが画面を彩った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る