第2章46 可能性
「ただいま」
久遠が俺たちの通話に戻ってきた。コーチやリザーブメンバーはゲーム内VCに入れるタイミングが決まっている。試合中の助言や他の配信を見てのゴースティング紛いの反則行為を防ぐための措置だ。残念ながらそういう風にしないと出ちゃうからね。何なら前回大会はチーターが参加してて訴訟沙汰にまで発展してる。まぁゴミにはゴミ箱にいってもろて。
「お疲れ。3人の様子はどうだった?」
「うん、緊張してたからとにかくリラックスするように伝えてきた。最初はランドマーク争いだし、そこで解れてくれるといいんだけど」
「そういう久遠も緊張してねぇか?」
「そりゃね。これまでずっと頑張ってるの見てきたから、気持ち入っちゃうよ」
「そうだよね。久遠ずっと付きっ切りだったもんね」
ひよりの言う通り、久遠はこの1ヶ月ちょい、3人に付きっ切りでコーチングしてきた。時には俺にムーブに関しての相談をしてきて、いつもあの子達が強くなれるようにと考えて過ごしてきたはずだ。試合には出ないけど、きっと自分も一緒に戦ってる心境だろう。
「じゃあこれまで3人を見てきたコーチに聞くけど、仕上がりはどう?」
「うん、限られた時間の中で理論値は出せたと思う。みんなの頑張りが凄かったからね」
「最終予選の40チーム、そしてプロリーグに進める可能性はどれくらいあると思う?」
「そうだね…。最終予選が5%、プロリーグ進出は2%以下ってとこじゃないかな」
久遠の提示した数字に俺は全く違和感を覚えなかった。すごく妥当なとこだと思う。この確率を聞いて高いと思うか低いと思うかは人それぞれだけど、俺としてはよくぞここまで可能性を高めたと感じてる。
「奇跡って言うほどじゃない確率だよな。あの構成とこのマップなら確かに久遠の言うくらいの可能性だろうね。元々の実力は記念受験なんだから、そこからほんとに良く伸びた。すごいよ」
「な。元々の実力や中途半端な練習なら可能性なんてゼロだったんだ。よくここまで仕上げたよ」
「ひよりはどう思う?」
「あたしは信じるだけだよ。3人ならきっと勝ち上がって来るって」
「うん、僕もおんなじだね。信じるよ」
コメントでもひよりや久遠につられるように祈るような内容が連投される。俺たちの視聴者も配信を見る中でこのチームに肩入れしてる人が多い、ってかほとんどだな。
やがて、待機画面が切り替わって英霊選択画面へ。3人はこれまでひたすら磨いてきた構成を流れるように選択した。
「さて、ランドマークはどうなるか」
飛行船が予選のマップであるアグラバードの上空を飛び始めた。すでにいくつかの部隊が降下を始めている。3人はどのランドマークを狙うかな?
「降りたぞ!」
Setoの声とともに、3人が一斉に降下を開始する。飛び降りた位置と軌道から、4つほど挙げていた候補のなかから白樺さんが選択したランドマークを推察した。
「”盗賊の根倉”か」
アリババとその仲間がアジトにしていたとされる場所で、洞窟の中に物資と安地を読めるギミックが存在している。マップはやや南西側に位置してるけど端ってほどじゃないから移動も早めに動けばなんとかなる。もし安地が寄れば洞窟の中で籠ることもできるし3人の構成にはうってつけの場所だ。
あとは被るかどうかだけど…。
「1チーム被ったね」
ひよりの言う通り3人のすぐ後ろにも洞窟目掛けて降下してくるチームがいる。俺はすぐに画面を切り替えて被ったチームの編成を確認する。
公式に申請を出せば神視点の映像や該当ラウンドの簡単な選手情報を見ることができる。選手名と昨日時点の到達Tierが分かるからすごく便利だ。
「えっと、全員ダイヤⅢかⅣのチームだな。初動だから何とも言えないけど、先に降りれるし分はありそうだ。さぁどうなるか」
3人は降下を終えるや否やすぐに洞窟の中に駆けこんでいく。洞窟の床に落ちた武器を手に取り、まず柊さんが攻撃に転じた。一番近くにいた素手の相手を難なくノックダウン。これで数的有利を取れたな。確殺は取らずに放置してすぐにカバーに転じる。白樺さんとファイト中のアヌビスの背後を取って2人目もダウン。最後は朝顔さんがタイマンを制して無事に初動を制した。
他に被ったチームはいない。これで無事にこのラウンドは”盗賊の根倉”を確保することに成功だ。負けたチームは残ったランドマークを選んで第1試合を迎えることになる。ここでも被ったらまた初動ファイトだ。
「よかった…」
久遠はほっと力の抜けたような声を出す。まぁまだ練習試合なんだけど、動きを見る感じ緊張でエイムがガバったりしている感じもなかった。きっと今ので落ち着けたはずだ。この試合の目的はランドマーク争いなので、確保できれば試合途中で抜けても問題ない。3人はすぐにマッチを退出し、待機所のチャットで結果を報告した。
無事確保できたのが14チームか。被らなかったとこもあるし大体そんくらいだろうな。10分のインターバルののち第1試合が始まる。久遠は残り5分までコーチとして会話できるので一旦3人に合流。動きを最終確認して戻ってきた。
「緊張解けてた?」
「うん、とにかくファイトで勝てたからみんな元気になってたよ。周りがみんなパンデモに見えてただってさ」
「はは、んなわけ。8000チーム以上いるんだから、最初のうちはパンデモがいる方がレアだろ」
「言われてみればそうだけどあたしは気持ち分かるなぁ。受験のときに周りが自分より頭よく感じちゃうみたいな」
「まぁともかく、無事にランドマークも確保できた。次からがいよいよ本番だ」
「うん、そうだね」
待機所から再び画面が切り替わる。さぁ、予行演習も終わってここからが本当のプロリーグ予選の始まりだ。みんな、頑張れ。
「よし、じゃあみんなも気合入れて応援してくれよ? ”結月 雫久”のプロリーグ予選の始まりだ」
「降りた瞬間な。コメント合わせろよ?」
「久遠もほら、一緒に」
「オッケー。実は楽しみにしてたんだよね」
せっかくの世界大会なんだ。緊張ばっかしててもしょうがない。1年に1度のお祭りなんだよ。盛り上がっていこーぜ! 飛行船がマップを通過し、洞窟の近くに来たタイミングで3人が一斉に飛び降りた。
「「「「ゲームスタートォ!!」」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます