第2章44 到達その2

 あれから結は調子を取り戻せた。オーダーでもこれまでよりはっきりと指示を出せるようになったことで、チーム全体としての動きもよくなってる。


「まだ出ないで。後ろは切れてるからゆっくりいくよ」

「分かった」

「はい」


 レートのマップは大会が近づいてきて予選で使われるアグラバードになった。結達は安置際の建物に籠りながら終盤を迎えていた。


 ロビンフッドで安置外までしっかりと警戒を加えて後続がいないことは確認済み。背中の心配をしないでいいから前に出るタイミングを計ってる。


「いくよ! ゆっくり、前の岩に張りつくよ」


 結のコールに2人が付き従う。雫がすぐに岩の左右にステッキを設置してエリアを確保した。いいよ、ちゃんと出来てる。


 残りは4部隊で東西南北にそれぞれ1部隊ずつ。結たちは南側、安置の中心に近めだから次に動きだすのはあとでいい。


「右をこっちに来させたくない。全力で弾くよ」

「了解!」

「はい」


 雫がすぐに敵部隊と中間にある岩の裏手にもステッキを設置した。相手から破壊することはできず、詰めてくると確実に発動する位置。攻防に使えるいい設置だ。


「結さん、私あそこまで行っていいですか?」

「大丈夫。お願いね」

「はい」


 いいね。射線を広げる意識も高い。相手が来る前に確保できたからこれで詰めてきても2つの射線を通せる。迂闊に結たちの方には詰められない。


 安置の収縮が始まって、警戒してたチームは結たちと反対側の北側に詰めていった。次々とODやスキルが切られ戦闘が激化する。キルログにノックダウンが表示されたことで一気に盤面は最終版へ。


「結、左も動いたよ」

「OD撃って!」


 観月が爆撃を発動。今しがた戦闘に介入した西側の部隊目掛けて爆撃が降り注ぐ。結もすぐさまODを切ってバリアを削る。決まったね。


 最後に雫もODの”毒霧爆弾”でダメ押し。バリアを削られ、爆撃と毒ガスのダメージ、さらに視界も悪くなった敵に逆転の目は残されていなかった。


「やった~」

「ナイス~」

「やった~」


 この試合は完璧だったね。特に終盤の立ち回りがすごく良かった。それと、このTriumphで


「上がったぁ~! うちもついにグランデだ~!」

「おめでとう美月!」

「おめでとう~美月先輩!」


 一足早くグランデに到達してた2人に続いて美月も昇格した。一つの目標を達成したことで、3人とも大はしゃぎだ。


「美月、おめでとう。最後のセイメイのOD、すごくいい位置に置いたね」

「へっへ~、ありがとう。遅くなりましたが到着しました」

「雫もすごくよかった。前衛としての動きはもう染みついたみたいだね」

「よかった…」

「それと結」

「うん」

「ナイスオーダー。完璧だった。今のゲームは何もいうことないよ」

「コーチ…ありがとう」


 結は若干涙ぐんでる。3人でひたすら頑張って、プレッシャーを受けながら掴んだ称号。IGLとしての能力もグランデに到達できるだけの域に達したってことだ。喜びもひとしおだろうね。


「この短期間で全員がグランデに到達したのは本当にすごいことだよ。みんなが必死に頑張った結果だ。結はIGLとして、美月と雫は火力として本当に頑張ってる。誇っていい。君たちが成し遂げたのは途轍もないことだよ」


 連携・フィジカル・立ち回り、どれが欠けてもグランデになることは難しい。突出した個はないかもしれない。他の構成は全然かもしれない。でも、この構成なら届いた。


 みんなが感慨に浸っていると、僕にチャットが届いた。


「みんな、お客さんだよ」

「「「おめでとう~」」」


 このゲームが始まる前、ひょっとしたら次のゲームで全員グランデになるかもしれないって連絡しといたんだよね。


「みんなおめでとう! 最後のゲームすごかった! あたし嬉しくてちょっと泣いちゃったよ」

「ひよりぃ、ありがとう」

「せんぱぁい」


 ひよりの声につられて雫も泣き始めちゃった。ひよりに触発されてここまで頑張ってきたから、感じることがあるんだろうね。


「楠」

「美月、おめでとう」

「うん。やっと…やっとここまで来たよ。これで当たれるね」


 グランデになればレートのマッチングも変わる。これから3人が挑むのはパンデモ帯。つまり、H4Y4T0達と同じ舞台に上がったんだ。


「楽しみ。レートでRising Leoとやるのが」

「負けないよ」


 火花バッチバチだねぇ。3人のなかで特にひよりをライバル視してるのが美月だったし。同期で親友。Ragnarok Cupのリベンジをするって燃えてたもんね。


「みんなおめでとう」


 H4Y4T0も改めて3人にお祝いの言葉をかけてくれた。


「ありがとうございます。H4Y4T0さん」

「白樺さん、ナイスオーダーだったよ。見てたけど、俺もあの状況なら全く同じコール出してた。きっと久遠もね。上手くなったね」

「はい…」

「レートで当たるのが楽しみだよ」

「私もです。負けませんから」

「ははっ、叩き潰してあげるよ。またダイヤに落とされても泣かないでね」


 H4Y4T0からあんなこと言われたら自信つくよねぇ。なんか結も美月みたいにメラっちゃった。Setoも声は小さいけど雫と美月を褒めてくれてる。


「久遠」

「ん?」

「お疲れ。あと1週間、仕上げだから頑張れ」

「うん、任せてよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る