第2章42 限界
それから2週間。3人は毎日凄まじい練習時間・量をこなして必死に努力を続けている。連携も日増しに良くなっていて、レートでもその効果が着実に表れてきていた。
フィジカル面がそこそこになってきたので、数日からファイト練習にH4Y4T0達との3on3を組み入れている。さすがに全く歯が立たないけど、連戦できるから効率がいいしね。
ただ、ちょうどそのあたりから結の調子が落ちてきているように感じる。今はまだお昼前だから配信まではかなり時間がある。チャットを送るとすぐに結から返事が届いた。
「もしもし、お疲れ様。ごめんね急に」
「お疲れ様。気にしないで、昨日のレートを見返してちょうど休憩とってたとこだから」
「そっか」
「うん、どうしたの?」
「結さ、IGLで悩んでるんじゃない?」
「……」
変にオブラートに包んでもしょうがないからはっきりと切り込んだ。最近の結からは余裕のなさが見受けられる。精神的に一番負担がかかるIGLという役割が原因だろうとは思ってたけどやっぱりね。
「結の今感じてることを僕に教えてよ」
「…ちょっと前から3on3の練習始めたでしょ?」
「うん」
「あれが出来るようになったのは、久遠が私たちのフィジカルが上がったことを認めてくれたからだってはじめはすごく嬉しかったの。一つ次のステップに進めたって」
「うん」
「もちろんボコボコにされるのは覚悟してたんだけど、改めてH4Y4T0さんの凄さを目の当たりにしてね」
「あぁ、なるほどね」
分かる。分かるよその気持ち。僕もずっと思ってきたことだ。
「まるでこっちの心を見透かされてるみたいに動かれて押しつぶされちゃうと、どうしてもフィジカルだけじゃなくてIGLとしての未熟さを突きつけられちゃってるように感じちゃって…」
IGLの精神的な負担に苛まれてる。他の2人と違って結はオーダーも出さないといけない。H4Y4T0と対峙すると二重の意味で負かされるからきついよね。
「レートで負けた時にふと考えちゃうんだ。今の場面でH4Y4T0さんならどう行動してたんだろう、あたしの指示のせいで勝てたはずのゲームを落としてるんじゃないかって…」
「うん」
「普段なら気にしないんだけど、コメントにイライラしちゃうことも最近増えてて…。正直ちょっとしんどい」
結から零れる弱気な言葉。むしろよくここまで我慢してきたと思う。チームで一番プレッシャーがかかる役割なのに、ひたすら僕のコーチングに食らいついてきてた。しっかり者の結だから、雰囲気にも気を遣って抱え込んでただろうし。
「結、その気持ちすっごくよく分かるよ」
「久遠…」
「あのチームってSetoの火力が目立つんだけど、一番化け物なのはH4Y4T0だからね。だっておかしくない? Setoと比べても遜色ないフィジカルしながらIGLが本職って、冗談じゃないよね」
そう、あのチームで一番の化け物はH4Y4T0だ。Setoとひよりが伸び伸びと火力としての役割に徹していられるのは、H4Y4T0がIGLとしての役割を一身に引き受けているから。
2人は報告をH4Y4T0に届ければそれを元に指示がもらえる。思考へのリソースを極限まで削っているからこそ2人がより活きる。そのうえ、H4Y4T0自身も局面をひっくり返せるだけのフィジカルを持ってるんだから手が付けられないよホント。
「Sleeping Leoに入ってすぐの頃、僕はH4Y4T0にすごく劣等感を抱いてた。僕もIGLはよくやってたからそれなりに自信はあったけど、粉々にされたよ」
「私と同じ…」
僕も結と同じ気持ちになってた時期があった。H4Y4T0を見ていると、いざ自分がオーダーを出す役目になったときにあの自信に満ちたコールがちらつくんだよね。でも、必要なのは自分と比べて打ちひしがれることじゃない。
「だからこそ、僕はH4Y4T0に毎日質問しまくった。強くなる一番の近道だと思ってね。僕が今こうして君たちにコーチング出来てるのは、その時に学んで練習したからだよ。だから、結も心配しなくていい。僕も通ってきたし、きっとH4Y4T0だって通ってきた道なんだ。君は最短距離で実力を着実に伸ばしてる。今君が感じている悩みも、IGLとしての能力が高まってきたからこそ感じるんだ。じゃなきゃ悩むことすら出来ないからね」
「上手くなれてる…」
「そうだよ。保障する。必ず間に合う、間に合わせるからあと少し頑張ろう。美月も雫も、君に負担をかけてしまう分、自分たちが火力で助けるんだっていつも言ってるよね」
「うん…最近は負け越すようになっちゃった」
コーチング当初は結がフィジカルでも頭一つ抜けてたけど、今では美月と雫の方が勝るようになっていた。互いが互いのために出来ることをやる。3人はチームとしてしっかり前に進めてる。
「結、IGLをするうえで一番大事なことってなんだと思う?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます