第2章38 リスナー
「ナ~イス」
口々にお互いを労いながらロビーへと戻る。ひよりのプレイヤーネームの横には、黒地に白の縁取りがなされたエンブレムが燦然と輝いていた。
パンデモニウムの称号のイラストはシーズン毎に代わる。色は変わらないけど様々な空想上の化け物をモチーフにしたイラストが使用されていた。今シーズンはガーゴイルが採用されている。
ひよりはまだ通話に戻ってきていない。多分リザルトでパンデモに替わった称号を見てるんだろう。俺も初めてパンデモになった時は嬉しくてしばらく眺めてたからよく分かる。Setoも黙ってひよりが戻ってくるのを待っていた。
「ごめん、遅くなっちゃった」
「いいよ、おめでとう」
「やったなぁ」
「うん…ほんとに嬉しい」
「ちゃんとスクショ撮った? 今日はこれでやめるからじきにグランデに戻っちゃうだろうし」
「うん、撮ったよ。2494位かぁ。たしかにすぐに戻っちゃうね」
「いいんだよ。明日やりゃすぐだ。毎日やってりゃ安全圏にいくさ」
パンデモのボーダーポイントは刻々と上がっていく。最上位帯でポイントを積み続けられるプレイヤーしか残れない。今日は一瞬かもしれないけど、それでも、掴み取ったという事実がひよりの自信になるだろう。
「うん。あっ、リスナーのみんなも本当ありがとう。うわぁ目で追いきれないよぉ」
「そんなに? ちょっと見に行こ」
「えぇ何これやっば! 早すぎだろ」
ひよりの配信のコメントを覗くと、パンデモ昇格を祝うコメントが殺到していた。多分コメント打った人も自分のがいつ表示されたか分からんだろこれ。でも、こんなにたくさんのコメントが流れるってことは、普段はコメントしない人たちまでひよりを祝ってくれてるってことだよな。
「強くなったとこ見せれてよかったね」
「うん。楽しみながら配信してリスナーのみんなも喜んでくれてる。すごい幸せな気分だなぁ。ちょっと泣けてきちゃった」
堪えきれなかったのか若干涙声になっている。大切な人たちにいいところを見せられて、喜んでくれているのがすごく嬉しいんだろう。心に傷を負ったことがあるからこそ感じる思いもあるはずだ。
「あたしもっともっと頑張るからね! みんなの応援でいつも元気もらってるから。本当にありがとう」
今のひよりとリスナーの関係ってすごいいいなぁ。応援を力に変えてひよりはぐんぐん伸びてるし、それを見てリスナーもより一層背中を押してくれてる。ひよりが大切にしないといけない存在を再認識したことで、最高の相乗効果をもたらしているような気がする。
「H4Y4T0とSetoもありがとう。ここまで連れてきてくれて。あたしだけじゃ絶対ここまで来られなかった」
「いえいえ。火力としてしっかり貢献してくれてるし。それはちゃんと感じれてるんでしょ?」
「うん。おんぶに抱っこにはなってないと思う」
「俺の次にパンデモに上がったってことが証明になってるよ。キャリーなら1人だけポイントが離されてるだろうしな」
稼げる順位ポイントは同じでもキルポに差が出れば当然チーム内でも少なくない差が生まれる。今の俺たちはほとんど差がないってことは、ひよりがキルとアシストでしっかりと貢献できていることの何よりの証拠だ。何なら俺が最後になるのは想定外だ。実は内心少し悔しかったりしなくもない。
「それはそうと、集計してくれてたリスナーによると、キルポ勝負は俺の勝ちということで」
「忘れてたぁあ~!」
「ゴチになりまぁす!」
「くっそ~次こそはぁ!」
火力2人で何かと張り合ってるけど、Setoもひよりを認めているからこそ競争したがるんだ。楽しみながら競いあうのは俺としても望ましいからぜひって感じだし。
「さて、今日はいつもより長めになったし、もう俺らは終わるから、ひよりはリスナーと話しておいでよ」
「えっ、いいの?」
「めでたい日だしな。行って来いよ」
「ありがと。じゃあまた明日ね」
「「お疲れ~」」
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