第2章36 ボーダー

「コーチは今日から正式に私たちに配信でも指導してもらうんだけど、実は何日か前から裏で指導は始まってたんだよね」

「別によかったんだけど正式に発表になるまでは一応ね」

「でもすっごい強いんだよ? うちら未だに全く歯が立たないもん」

「うん、すごく憧れますよね」


 既にコーチングが始まっていることも伝えた。あとは久遠の現在の立ち位置についての説明をすればひとまず最低限伝えるべきことはクリアかな。柊さんが上手くそっちに話を持って行ってくれた。


「そいえばさ、コーチはFAになったって聞いたけどこれからはどうなるの? うちらのコーチングしてくれるってことはRising Leoに入るの?」

「う~ん、なんていえばいいかな。入ってるような入ってないような?」

「俺から説明しようか。元々コーチングはRising Leoが茜さんから受けたものだから、ひとまず久遠はRising Leoに一旦預かりって形で籍を置いてもらうことになったんだよね。付きっ切りで見るのが久遠で、俺たちもファイト練習とかは合同でやっていくから」

「いずれうちらと3on3やってくれるんだよね?」

「久遠がオッケーしたらね」

「くっそ~、すぐにコーチに許可もらってやる!」


 これでひとまず説明することは終わりかな。


「あ、そうそう。見てる人で気になってる人がいると思うけど、私がRising Leoに籍を置いたのは結たちのコーチングのためだから。プロリーグに参加するのはあくまで今の3人で、私はリザーブ登録はしてないです」

「あ~そっか、そこの説明抜けてたな。久遠の言う通り、プロリーグは俺とSetoとひよりで挑むよ。そこは今までと変わらない」

「あたしもみんなに負けないように強くなるから応援してね~」


 ひよりのリスナーが心配しないようにきちんと言及してくれた。久遠に感謝しつつ、今度こそ終わりかな。


「じゃあコーチの紹介も終わったし、早速ご指導お願いします」

「「お願いしま~す」」

「うん、じゃあこれまでどおりやっていこう。美月と雫はリダイレクトの練習で、結は3人と混ざってファイト練習で。それが終わったら分かれてレートに行くよ」


 昨日と同じ流れでフィジカル強化のメニューをこなし、それぞれがレート戦に挑むことになった。


「じゃあな、久遠頑張れよ」

「うん、H4Y4T0もね。そろそろなんでしょ?」

「あぁ」


 通話が切れてSetoとひよりの3人になる。


「さて、温まったしいきますかね」

「しゃあ。いよいよだな」

「うん、そうだね」


 Setoは滾っていてひよりはいつもよりも声が固い。それもそのはず、俺たちはレートポイントを順調に盛っていき、ついにパンデモの底との差が1000を切った。つまり、完全にパンデモニウムの称号が射程圏内に入ったってことだ。


 早ければ今日、遅くとも明日には晴れてひよりは2500の末席に座ることになる。


「今の心境を聞いとこうか」

「えっと、なんかここまで順調に来てるからあんまり実感がないかな」

「だから言ったろ? グランデは通過点だって」

「うん、まだまだ足りないけど、それでも手ごたえは感じられてる。それにね、すっごい楽しいの。敵はみんなすごく強くて、プロも混じってる。そんな環境で戦えるのがほんとに楽しい」

「パンデモ帯が楽しいってよ。Seto」

「いいねぇ。順調に戦闘狂になってきたじゃん」


 楽しいよなぁ。分かるよ。このヒリついた空気がたまんないよな。実際、パンデモ帯でもひよりは十分に貢献してくれてるし、この厳しい環境で新キャラの練習にも果敢に挑んでめきめきと力をつけてる。ネガティブで弱気なひよりはもうどこにもいない。堂々と化け物と死闘を演じている。


「おいひより、キル数勝負しようぜ」

「いいね! やろやろ」

「負けたら罰ゲームな」

「えぇ~、先に行ってよそれぇ」

「自信ないならいいぜ?」

「ぐっ…やったらぁ! で、負けたらどうすんのよ」

「まぁキルに固執してH4Y4T0怒らせるのは不味いしな。無難に飯奢るとかにしよーぜ。高すぎるのはなしで」

「オッケー、新作のフラペチーノのために頑張る」

「いやそこはパンデモになるために頑張ってくれよ」


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