第2章34 親睦会後

「つ、疲れた…」


 俺たちがレートを回して一旦ロビーに帰ってきたところで、久遠が通話に入ってきた。その感じ、さぞ楽しめたみたいだな。


「お疲れ。面白かったろ」

「面白かったよ? 面白かったけどさぁ、てんてこまいでくたくただよ。最初は簡単だなって思ったのに、海苔巻きから一気に難しくなるじゃんあれ!」

「分かる! あんときは苦労したわぁ~」

「あんたはただ魚切り刻んでただけでしょ。何偉そうに」

「はい職業差別。ちょっと呟いてくるわ」

「偏向報道でしょ!」


 こいつらほんとよく一瞬で言い合いに発展するな。まぁじゃれてるだけだからいいけどさ。


「それで、3人とは打ち解けた?」

「うん、遊んでるなかでたくさん話したからだいぶ慣れたかな。敬語とかは大分取れたかも」

「同士朝顔さんは?」

「ど、同士?」

「あぁ、こいつこないだ配信で朝顔さんに妙にシンパシー感じたみたいでさ。全然喋ってないけど」

「あぁそういうこと。たしかに人見知りしちゃうみたいだけど、女の子どうしだし割とすんなり話せたよ」

「美月は聞かなくても大丈夫だよね」

「あはは、そうだね。美月がとにかく明るく話題を振ってくれるから助かったよ。ムードメーカーって感じだね。結は物腰が柔らかいし、みんなすごくいい子だなって思った。上手くやっていけるといいなぁ」


 久遠は別に人見知りする性格でもないし、あのゲームで上手く打ち解けられたみたいだ。テンパる久遠が見れなかったのは少し残念だけど。


「TB以外のゲームなんてやったのどれだけぶりだろう。楽しかったなぁ」

「それな。俺らもたまには息抜きであぁいうゲームの配信とかもやってみようかって話してるんだよ」

「ゲームはあたしが選ぶからね!」

「お前が選ぶと日頃の鬱憤晴らそうとするだろ」

「まさかまさか。みんなで楽しく遊べるゲームを選ぶよ?」

「声のトーンが上がってるぞ」

「電話に出るおばさんがやるやつな」

「…覚悟しとけよお前ら」


 俺たちの茶番を見て久遠も可笑しそうに笑っている。TBを起動するだけで手が震えてたって言ってたけど、ここ最近は少し軽くなってきてるらしい。まだなくなったわけじゃないけど。


 俺は別に久遠が必ず競技に戻る必要はないと思ってる。今回のコーチングで、久遠の考えや気持ちがどうなるか次第だ。


「H4Y4T0はさ、あの子達のキャラ構成って何か考えてる?」

「ん~、そうだなぁ。マップがどこになるかにもよるからなんとも言えないけど、コンセプトはあるかな。久遠も考えてるんだろ? 聞かせてよ」

「うん。まずキルムーブは難しいと思う。どれだけやる気があるって言ってもさすがにプロチーム相手に安定して勝てるフィジカルってなると厳しいかな。だから、先入りして籠るムーブが一番勝ち進むなら可能性があると思う」

「おんなじ意見だな」


 俺の返答に久遠はほっと安心したように吐息を漏らす。どれだけ成長を見込んでも、ファイトを繰り返してキルポを稼ぐキルムーブはこのチームでは無謀だ。とにかく生存を重視して、拾えるキルポを拾って積み上げていくのが現実的だと俺も思っていた。


「となるとギミックが使えるキャラを1体は入れて、移動を早くするのがいいかなぁ。H4Y4T0達がRagnarok Cupで使った構成ってどう?」

「それも候補の一つだなと思ってる。ただなぁ、どうしても索敵キャラ入れると構成としてのパワーは落ちるからどうしたもんかなぁって考えてる」

「みんなの成長次第ではあるけど、パーティとしての練度とか考えたらそこまで待ってられないしねぇ」

「ギミックを使うキャラを抜いて安地読みの精度で勝負するってのも手だとは思うけどね」

「それ結の負担がえげつないことにならない?」

「ん~、聞いてみるしかないんじゃね? それをするしないでも構成案多分変わってくるし」

「そうだよねぇ。安地全く読めないは話にならないからどのみち教えはするんだもんね」


 俺たちがRagnarok Cupで採用したアルセーヌとロビンフッドで爆速移動ってのは有力な候補だなとは思ってるんだけど、アルセーヌが戦闘向けのODじゃないからファイト時に困るんだよなぁ。俺たちはSetoのバ火力でそれを補ってたけど、白樺さん達のチームにそれを求めるのは酷だ。


 あと、IGLの白樺さんにはアンチ読みをどの程度の精度まで教え込むか。これもなかなか難しい。第1収縮の円を見た段階でおおまかな最終円の位置を予測できるようになるには相当の研究がいる。フィジカルも鍛え上げてレートで立ち回りも教え込んで、そのうえ安地の傾向学習までとなるとさすがに白樺さんがもたないかもしれないと思っていた。


「まぁ公式の発表を待とう。もうじき発表になるはずだし」

「そうだね。ひとまずは他の部分をひたすら練習してもらうことにするよ」


 コーチとして真剣に3人のことを考えている久遠。また1人で抱え込み過ぎないように、俺たちも出来るフォローはしないとな。

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