第2章33 ファイト練習

久遠と3人が順番にタイマンをやっていく。いくらメンタルが不調って言っても久遠だって競技勢。全員を歯牙にもかけずに全勝した。


「強い…」

「くっそ~」

「うぅ~」


 俺とSetoがひよりに実力差を分からせたのと同じだな。久遠は事情もあるからよりきちんと3人に示す必要がある。キャラコン全開で本気も本気で捻じ伏せたな。3人とも、久遠の実力を身を以て感じられたはずだ。あとはコミュニケーションをとって信頼関係を築いていけるかどうか。その辺はそんなに心配してないけどね。


「リダイレクト…タップストレイフは全員マスターしてもらいます。出来る出来ないで被弾率がまるで違います。心配いりません。これからしっかりやれば間に合います」


 こっぴどくやられて沈んだ様子の3人だったけど、久遠の励ましで持ち直したみたいだ。こーいうとこはさすがだな。元々俺がひよりに指導したときのやり方は久遠を参考にしたってか真似した感じだしね。


「それじゃあ、みんな練習に移りましょう。白樺さんはすでにマスターしてるらしいのでH4Y4T0たちに交じってファイト練習を。柊さんと朝顔さんは私がリダイレクトをレクチャーします」

「「「はーい」」」


 久遠の指示でグループが湧けられた。俺たちのほうに白樺さんがやってくる。


「今日もよろしくお願いします」

「うん、久遠はどう? 強かったでしょ」

「はい、手も足も出なかったです。でも、そんな強い人があたしたちに付きっ切りで指導してくれるなんてすごく有難いです。H4Y4T0さん達も協力してくれてるし」

「ファイト練習は俺たちにとっても有難いから。いずれは3on3をやるつもりだから頑張って」

「はい。いっぱい練習します!」


 それから白樺さんを俺たち3人が順繰りに相手をした。白樺さんもタップストレイフは出来るけど、その間のエイムがまだまだ甘い。被弾率を下げつつ高い火力を出してこそだ。ひよりも危なげなく全勝していた。


「ひよりほんとに強くなったねぇ。目で追うので精一杯で全然狙いを定められないよ」

「ありがと。でもまだ甘いからあたしももっともっと頑張らないと」

「負けてられないね。見てて、追いつくから」

「あたしだって負けないよ」


 お互いに刺激を受け合っているんだろう。ひよりにとってもこの合同でのファイト練習はすごく重要な意味を持つはずだ。


「うん、それじゃあそろそろ終わろうか。2人は個人練習でリダイレクトの練度をあげていってください」

「は~い」

「はい」


 ずっと久遠から指導を受けていた2人はくたくたな様子で返事をする。慣れないことをやると疲れるしね。ここから無意識レベルまで高めていかないと本番で使い物にはならない。俺たちも、ひよりも通った道だ。頑張れば超えられるさ。


「久遠さんはまだ正式にFAになってからでないと配信上でのコーチングは出来ないですか?」

「申し訳ないけどそうなりますね。ただ数日中には正式発表になると思いますけど」

「じゃあそれまでは配信外で見てもらう感じですね」

「はい、すみません」


 別にKERBEROSの代表は好きにしていいって言ってたらしいけど、手順をきちんと踏んだほうが無難だろうと俺たちは判断した。茜さんも同意してくれたし。


「いえ、全然気にしないでください。えっと、それでなんですけど、久遠さんがよければ親睦を深めたいなと思ってて」

「うちもうちも! 色んな話聞きたいし仲良くなりたい!」

「わ、私も」


 確かに、まだみんな慣れてないだろうしなぁ。久遠も一人称が”私”のままだし。俺たちもそこそこかかったけど、早いうちになじめた方がやりやすそうだよな。


 ん? ということは。


「親睦を深めるって言うと…」

「そんなの決まってるでしょ」

「「ですよねぇ~」」

「えっ、えっ?」


 俺とSetoのげんなりした反応に訳が分からずおどおどする久遠。これぶいあどのしきたりかなんかなのか? まぁたしかに面白かったけど、ひよりにキレ散らかされた印象しか残ってない。


「久遠、頑張れよ」

「画面共有頼むわ」

「一体何するっていうのさ。僕、ホラーとか絶対無理だからね?」


 そういや久遠はお化けとか怖いのはとにかく苦手だったな。ビビりまくる久遠を見るのはそれはそれで面白そうだけど。


「大丈夫ですよ。みんなで楽しく料理するゲームです」

「そうそう。わちゃわちゃ楽しいからすぐ打ち解けられるんじゃないかなぁって」

「それにしてはH4Y4T0達の反応が微妙だったような」

「それはこの2人がポンコツだっただけだから。多分久遠なら大丈夫だよ」


 さらっと失礼なこと言われたけど、久遠にも同じ目に合わせたいからぐっと堪える。

 久遠、せいぜいパニくるといいさ。

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