第2章32 顔合せ

 集合時間になりボイチャに7人のアイコンが追加される。ひとまず全員招待して訓練場に集合して白樺さん達に久遠を紹介した。簡単な自己紹介を交わしたけど、やっぱり3人とも久遠のことは知っていたらしい。俺たちの優勝した大会を見たって言ってたし、女性プレイヤーということですごく嬉しそうだ。


 事前に茜さんから久遠の事情については話してもらっていたので、経緯などについては3人とも深く聞かないようにしてくれているらしい。


「久遠さんは配信はつけないって聞いたんですけど、私たちの配信中に通話してもらうのは問題ないですか?」

「大丈夫です。試合毎に振り返ったりする必要もあるし、都度伝えたほうがフィードバックする側としてもやりやすいと思うので」

「分かりました。今回、オーダーは私が担当するのでそちらの指導もよろしくお願いします」


 このチームは白樺さんがIGLを担うことになっている。3人の最高レートは白樺さんがグランデで他の2人がダイヤⅡ。実際に見た感想として理解度も高いし妥当な選択だと思う。


「はい。プレッシャーがかかると思いますけど、疑問に思うことがあれば何でも聞いてください。H4Y4T0から白樺さんのスタイルについては確認しているので、それに合わせて教えていこうと思います」

「ありがとうございます」

「柊さんと朝顔さんも、気になったことがあればすぐに聞いてくださいね」

「はいは~い!」

「よ、よろしくお願いします」

「H4Y4T0達と相談して、フィジカル面についてはRising Leoと合同でファイト練習を引き続きやっていきます。キャラコンについてはSetoの右に出る物はいないので、どんどん吸収してください」

「しゃす」


 こいつまだ慣れてないのかよ。まぁ俺以外みんな女の子だしひよりの時みたいにはいかないか。


「皆さんのやる気と姿勢は素晴らしいとH4Y4T0から聞いてます。ここでお聞きしておきたいのは、皆さんが何を目指してプロリーグ予選に挑むのかということです。思い出作りですか? 配信が盛り上がればいいですか?」


 久遠の言葉に3人の雰囲気が張り詰めた気がした。


「実力が足りないのはわかっています。けど、」

「前置きは結構です」

「…! 勝ちたいです。プロリーグまで行きたいです」

「あたしも! 中途半端な気持ちじゃない! 楠と同じ舞台に立ちたい!」

「わ、私も!」


 パンデモが1人もいないチーム構成。それでプロリーグを目指すというのがどれだけ分不相応な願いか、それは彼女達自身が痛いほど分かっている。でも、願ってしまったんじゃしょうがない。久遠は聞いたんだ。地獄を見る覚悟はあるのかと。3人はそれに答えた。


 久遠は先ほどまでの厳しい雰囲気を解いて、優しく語り掛ける。


「分かりました。では私も全身全霊で皆さんを指導するとお約束します。とても辛く、厳しい道のりになりますが、一緒に頑張りましょう」

「「「よろしくお願いします!」」」


 こうして師弟の契りは結ばれた。


「さて、では改めてこのチームの方針についてお話ししていこうと思います。皆さんに求められるのは最短距離かつ最高効率です。全てを網羅していくことはできません。限界までそぎ落として特化することが重要になります」


 久遠の言う通り、実力が足りない以上全ての底上げをしていては間に合わない。限界まで細く鋭く研ぎ澄まし、一点突破するしか道はないというのが俺と久遠の共通認識だった。


「キャラピックはオールラウンダーではなくスペシャリストを目指してください。プロリーグ予選の概要が発表され次第、僕とH4Y4T0で構成を考えますので、それまではひたすらフィジカル強化です」


 久遠の説明に3人は力強く反応を返す。足りないことは百も承知なんだ。満遍なくと言われるより、こっちの方が遥かに納得できるだろう。


「白樺さんのIGLとしての能力も培わないといけないので、レート戦にひたすら取り組んでもらいます。ファイト練習はRising Leoと合同でやるのが一番ですから、ノンレートや3on3をする必要はありません。1戦毎にフィードバックしますので、毎試合課題の改善を意識してください」


 ここまで語って久遠は言葉を切った。まず雰囲気を引き締め、そこからこの後の方針を説明する。道筋をはっきりと示されたことで、3人のモチベーションはこれまで以上に高まったみたいだ。


「それでは早速、フィジカル練習に移りましょう。皆さんの実力を見せてください。全力でお相手します」

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