第2章28 黒と緑のダークマター

 5人で連れだって歩くこと数分。飲食店が並ぶエリアにあった中華料理店に入る。テーブル席に座るのかと思いきや、奥の方に誘われて個室へ。見ると、円形のクルクル回る例のテーブルが鎮座していた。


 茜さん・久遠・俺・ひより・Setoがぐるっと囲むように席につく。俺はほとんど経験のない高そうな雰囲気に内心で結構緊張していた。


「緊張なさらないでくださいね? あくまで人の目を気にしないでお話しできるように個室にしただけですから。ここ、すごく値段もリーズナブルで美味しいんですよ? ね、ひぃ」

「安いかどうかはさておき、ここほんと美味しいよね。茜さんがよく連れてきてくれるんだぁ」

「へぇ~そうなんだ」

「ひとまずコースでいいですか? お会計は経費ってやつなのでご心配なく」


 そこまで言われてしまってはどうしようもない。大人しくご馳走になろう。言われるがままに全員コースで食べることにした。前菜がそれぞれ運ばれ、クラゲの酢の物と野菜の甘酢漬けが運ばれる。食べてみるとどっちも超美味い!


「美味い!」

「な! めっちゃ美味いな」

「うん、すごく美味しい」

「でしょう? ちなみに皮蛋ピータンも単品で頼んでるのでよろしければ。見た目はアレですがイケますよ?」


 例のテーブルを茜さんがクルクル回して俺たちに勧めてきたのは…えぇ。なんだこいつは…。コーヒーゼリーのようなものの内側に黒と緑を割ったような中身が入ってる。卵に似てるけどこんなの見たことないぞ。


「ひよりは見た目で嫌がって食べてくれないんです。アヒルの卵を発酵させたものなんですが、よければどうぞ」


 一瞬、俺たち4人の間で視線が交錯する。あ、ひより、真っ先に視線を逸らして一抜けしやがったな。Setoと久遠は俺に頼む!って視線送ってくるし…。こいつら覚えてろよ!


「い、いただきます」


 俺は取り皿を手に1/8にカットされたピータンを一つ移す。見た目はガチグロい。これは食い物なのか? でも茜さんの好意を無にするわけにはいかない。ええい、ままよ! 意を決して口に運ぶ。


「……美味い! え、美味い!」

「でしょう? さすがH4Y4T0さんです」


 白身は固めのゼリーみたいで歯切れのよい食感。黄身は普通のゆで卵よりも若干クリーミーで、それでいて卵特有の硫黄臭が抑えられてるのか? かかったソースと白髪ネギと相性抜群で、見た目のグロさからは想像できないほど美味かった。


「お前らも食べてみろよ。ほんとガチで美味いよこれ」

「う、うん」


 俺の反応を見て多少安心したのか、久遠も手を伸ばして一つよそう。ちなみに俺は追加で3つほど取った。久遠は目をつむってパクリ。恐る恐る噛んでから、目をぱちくりとさせた。


「本当だ。美味しい」

「だろ? Setoもほら!」


 テーブルを回してSetoにも回し、え~という表情を浮かべたSetoも諦めた様子で口に運ぶ。


「ガチか。見た目で損してるなこれ。美味いわ」

「それな」


 残るは1人。


「さすがは皆さんです。ひぃは食べないようなのでみんなで食べましょう。お子様にこの美味しさは分かりません」

「ぐっ…」 


 茜さんが煽りを繰り出した。効果はバツグンだ。


「そうですね。どっかの誰かさんは人に散々好き嫌いするなとか偉そうに言ってましたけど、耳を貸す必要はなさそうです」

「た、食べるよ! 前はお腹いっぱいだっただけだし」

「今前菜だよな?」

「Setoうるさい!」


 俺とSetoにも乗っかられて顔を赤くしたひよりがテーブルをぐるぐる回してやけくそ気味に皮蛋を取り皿へ。


「うっ…」


 改めてその見た目にたじろぐが、4人から包囲され逃げ場はない。覚悟を決めたのか、久遠と同じく目をつむって勢いよく口に運んだ。


「…何これ、普通に美味しい」

「だよな」

「はい、よくできました」


 見た目から予想できない味わいにきょとんとした様子のひより。でも実際普通に運ばれてきても絶対食べない自信あるから気持ちは分かる。


「H4Y4T0が最初に食べてくれなかったら僕も無理だったかも」

「さすがはIGLだ」

「おい、IGLは毒見役じゃねぇっての」

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