第2章24 会議
久遠とひよりの和解も成立し、ようやく激動の時間がひとまず終結した。ひよりも俺たちに賛同してくれて、今は久遠をどう助けるかということに話題が移っている。
「さて、久遠の今の状況を整理したいんだけど、契約関係はどうなってるんだ?」
「えっと、一応期間は1年更新だからまだ全然残ってるけど、確か双方の合意があれば契約を解除できるって条項があったと思う」
「確かじゃまずいな。今探せるか?」
「うん、ちょっと待ってね、え~っと契約書契約書…これか。どこだっけな…あっ、あったよ。やっぱり双方の合意があれば解除できるって」
よかった。それなら問題ないだろう。契約書に記載のない契約解除で選手側が違約金を支払わされるようなケースもたくさんあったから、この辺はきっちり確認しとかないと後々久遠が不利になる。
「よかった。ただ、どこかに抜け穴があるかもしれない。法律に詳しい人にきっちり見てもらいたいんだけど…」
「俺にそんな学のある知り合いはいねぇ」
「あっ、うちの弁護士に聞いてみるってのは?」
「「それだ!」」
ひより冴えてるな。確かにぶいあどなら顧問弁護士とかいるだろうし。てことは、
「茜さんに相談する必要があるな」
「あたしから連絡してみようか?」
「いや、俺がやるよ。元チームメイトのことに関しては俺から話をするのが筋だろうし」
「そっか、分かった」
「H4Y4T0、悪いね。色々と」
「いいって。もう謝るのはなしだからな。せっかく言うならお礼にしてくれ」
「うん…ありがとう」
「おう。んじゃメール送るわ」
俺は茜さんのアドレスを選択してメールの文書を考える。
『いつもお世話になってます。H4Y4T0です。
突然の連絡すみません。
ご相談させていただきたいことがありまして、お時間をいただけないでしょうか
茜さんの都合のいい時に合わせますので、予定のご確認をお願いいたします
出来れば事務所に伺ってお話しさせていただきたいのですが、難しければメールか通話でも構いません。
どうぞよろしくお願いします。』
こんな感じだな。
「お待たせ。送ったから一旦茜さんに関しては返事待ちだ」
「うん。分かった」
「じゃあ次は久遠の現状についてだな。久遠はもう完全にプロを辞めるってことで意思が固まってるのか?」
ここは大事だ。プロを続ける意思がないのに俺たちが他のチームを探したりしても意味がない。
「えっと…正直KERBEROSでの日々が辛くて一杯いっぱいだったから、そこを深く考えられてなかったよ。でも、少なくとも他のチームを探そうって気は起きないね。また同じことになるだけって思っちゃう」
「うちのリザーブに入るってのはどうなんだ? ちゃんと反省した久遠なら、俺はいいと思うぜ?」
「うん、あたしもいいよ。万が一のときのためにどこも大体リザーブ選手は登録するんだし」
俺が切り出そうか思案していたことををSetoがズバッと口にしてくれた。ひよりも否はないみたいだ。あとは久遠の気持ち次第だけど。
「Setoもひよりもありがとう。でも、僕自身が今言った通り気持ちが全く定まってないんだ。こんな状態でチームに加わるなんてことはさすがにできない。もし誰かに不測の事態が起きたとして、使い物になるか分からない人間をリザーブにしても意味がないしね」
「そうか…くそっ」
Setoは悔しげに吐き捨てる。俺も同じ気持ちだ。確かに久遠の考えは甘かったんだろう。でも、全く覚悟してなかったわけじゃない。そんな中でチームに溶け込もうと必死に努力してたはずだ。それなのに、数か月かそこらで見切りをつけて他の選手を引っ張ってくるなんて。
久遠がKERBEROSを検討していると知ったとき、俺は弥勒さんにどんなチームか聞いた。
「あんまり悪く言いたくはないけど、あそこの代表はどの部門でも選手を替えるのが早い。最近は噂が広まってきてるから契約金とか固定給を上げてるみたいだけど、慎重に考えた方がいいだろうな」
聞いた通りだったってわけだ。あの時もっと俺が強く久遠に伝えていれば…。今更どうにもならない後悔が俺の胸中に去来していた。
そんなとき、茜さんからの返信が届く。すぐにメールを開くと明日の午前中なら空いている。もしよければ通話で詳しく時間を決めようと書かれていた。俺は一旦久遠たちとの通話を抜け、すぐに茜さんに通話をかける。数回の効果音ののち、茜さんが気づいてくれた。
「H4Y4T0さん、こんばんは」
「こんばんは茜さん。すみません、急なお願いなのにお時間をいただいて」
「お気になさらないでください。他ならぬH4Y4T0さんからの頼みです。喜んでお伺いしますよ」
茜さんはいつもと変わらず穏やかな様子だった。まだ内容を伝えてないし、説明しないとな。
「ありがとうございます。それで、相談の内容なんですけど」
「それは明日直接伺いますよ。大切なことなのでしょう? 直接H4Y4T0さんから聞かせてください」
「…ありがとうございます」
用件も聞かずに俺に時間を割いてくれるのか。本当に有難い。
「いえいえ。では時間ですけど、明日の11時に事務所の応接室でいかがですか? よろしければそのあと一緒にお昼を食べましょう」
「分かりました。よろしくお願いします」
「はい。では、明日お会いできるのを楽しみにしてますね」
「はい。失礼します」
通話が終わり、俺は茜さんに改めて感謝の気持ちを深くして3人の元へと戻った。
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