第2章15 暗転

「しゃあ、勝ち越しぃ!」

「あちゃあ~、慣れてたはずだけど久しぶりに見るとやっぱりとんでもないねSetoは」

「たりめぇだろ。でも久遠もさすがだなぁ。すげぇやりにくかったわ」

「まぁ僕もちゃんと練習してるからね」


 いつかのBO19はさすがに長いので、BO9でやることにした。Setoの言う通り、久遠のフィジカルも見ないうちに相当上がってるな。俺たちが強くなっていくのと同じように、しっかり練習してるのが動きを見て分かる。ちなみに俺とのタイマンは4対5で久遠に軍配が上った。最後あとちょっとだったんだけどなぁ。


「じゃあ楠さん、やろっか」

「は~い、なんか緊張するなぁ。よろしくお願いします」

「うん、よろしくね」


 最後にひよりが前に出る。新旧チームメンバーの激突だ。ひよりは嬉しそうにしてるけど、Setoとのやり取りに比べて若干影が差しているような気がした。2人は所定の位置につき、フレンドリーファイアが有効になったタイミングで一斉に動きだした。


 まずはコンテナを挟んで小刻みに体を出しながらの撃ち合い。お互いに被弾し、先にひよりのバリアが剥がされた。不利になったひよりは形勢を逆転しようとタップストレイフをしながら距離を詰める。そこからのダメージトレードは互角だったけど、先に削られてたひよりが先にダウンした。


「あちゃ~、初戦取られちゃった」

「……」


 負けたひよりが悔しそうにしてるけど、勝った久遠は無言でひよりを見つめたまま立ち尽くしている。ひよりはすぐに復活して元の位置に戻った。


「あれ、久遠さんどうかしました」

「えっ、あぁごめんごめん、ボ~っとしてたよ」


 ひよりの声かけにハッとしたように返事をして、位置につく久遠。それから同じようにファイトを繰り返し、結果は5対2で久遠の勝ちだった。


「うあぁ~負けちゃったぁ。悔しい~」

「……」


 悔しがるひよりと押し黙る久遠。さっきからやっぱ久遠の様子はどこかおかしい。声を掛けようかと思ったけど、違和感を覚えたのは俺だけじゃなかったらしい。


「久遠さん、どうかしましたか?」

「…楠さん、ホントに1ヶ月前はダイヤだったの?」

「そうですよ。H4Y4T0とSetoにコーチングしてもらうようになって、改めてTBにドハマりして、めちゃくちゃ練習しました」

「はは、まぁ配信のアーカイブをちょろっと覗かせてもらったから知ってはいたけどすごいね。1ヶ月でここまで強くなれるもんなんだ」

「師匠がいいからな」

「あんたはあたし相手にストレス発散してただけでしょ」

「何言ってんだ。師匠として厳しく接してただけだ」

「本当は?」

「ちょうどいいサンドバッグあるなぁって」

「おらぁあ!」


 キャラコン全開の鬼ごっこを始める2人。それを眺めながら、ふふっと久遠は小さく笑みを零した。


「騒がしいだろ」

「そうだね。僕はあんな風にSetoとはプロレスやれなかったし」

「まぁキャラが違うしな。でも、久遠のお陰で多少ギスっても冷静に話し合えたりしたし、助かってたよホント」

「そっか、そう言ってもらえると嬉しいよ」


 メンバーが変われば雰囲気も変わる。Rising Leoは元気の有り余ったSetoとひよりを俺が宥めながら纏めるって感じ。Sleeping Leoの頃は、オーダーと火力で尖り切った俺とSetoを久遠が上手く繋げてくれてたって感じだ。あの頃、久遠のお陰でどれほど助けられたか。IGLとして、自分の考えを伝えると同時に、相手にどう伝わるかを常に意識するようになったのは間違いなく久遠のお陰だ。


 だからこそ、今の久遠から感じる違和感がどうしても気になってしまう。ひよりとのファイト中に感じたそれは、ひよりの急成長に驚いただけって風には俺にはどうしても感じられなかった。ただ、俺が違和感の正体を知るために声を掛けるより、久遠の方が一瞬早かった。


「H4Y4T0は、僕がいたことで助かってたんだよね?」

「ん? あぁ。助かってたよ」

「そっか、じゃあさ…」


 久遠が短く切った言葉の続きを告げるのと、追いかけっこに飽きた二人が俺たちのところに帰ってくるのがちょうど被る。いや、きっと久遠はこのタイミングを狙ってたんだろう。


「また、僕と組んでくれない? 一緒に出ようよ。世界大会」

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