第2章14 息抜き
久遠は一人称が”僕”だけど歴とした女の子だ。巷では僕っ娘って言われてるのかな? 兄が2人いて、一緒に遊ぶうちにそうなって習慣づいてしまったらしい。ちゃんとしてるときは普通に私って言ってるけど、スイッチがオフになると素が出てしまうんだとか。
FPSをやるきっかけも、お兄さんたちと同じゲームがやりたかったかららしい。
俺たちと知り合った当初は他人行儀というか敬語でのやり取りだったけど、いつしか慣れて砕けたやり取りになってたな
見た目は栗色のボブカットでパッチリとした二重。童顔だけど身長は女の子からしたら高めで、164cmくらいって言ってたっけ。大会からしばらく経ったから髪は伸びてるかもしれないな。
性格は穏やかだけど朗らかで、3人で組んでた頃は久遠が和やかな雰囲気を作ってくれてもの凄く助かっていた。今はひよりから色々質問責めにあっている。
「久遠さん、Setoがしょっちゅう煽ってきて鬱陶しいんですけど、どう対処してました?」
「えっ、僕はそんなに経験ないなぁ。たまに発破をかけてもらったりはしたけど」
「うえぇえぇ!? なんで? どういうこと?」
「いや、知り合ってすぐに煽ってきたのお前だからな? そうでもなきゃ誰彼構わず煽ったりするかよ。俺はコミュ障だぞ?」
「堂々としたら情けなさが薄まるわけじゃないからね」
そういえば確かにSetoと久遠は打ち解けるまで結構かかったなぁ。最初のうちは俺が2人の通訳みたいになって大変だった。久遠は別に人見知りはしないけど、ガチコミュ障のSetoへの対処が分からなかったらしい。当時は俺もとりあえず煽ればいいってのを知らなかっしね。
「久遠さんは今はKERBEROSにいるんですよね? 調子はどうなんですか?」
「…うん、まぁまぁかな」
「そっかぁ~、他のタイトルでもアジアの強豪だし、そこのメンバーに入るってすごいなぁ」
「まぁ僕のいるとこは元々のメンバーがFAになったから今度の世界大会はプロリーグ予選からだけどね」
「あっ、そうなんだ」
プロリーグに招待チームとして参加することができるのは、元々のチームメンバーが2人以上在籍していることが条件だ。俺とSetoがいるからひよりが新しく加入しても大丈夫だけど、2人以上の入れ替えが発生した場合は招待枠は返上しないといけない。久遠の在籍するチームが予選から戦わないといけないのはこれが理由だ。
プロリーグに先だって、来月からプロリーグ予選が始まる。プロリーグは全40チームのうち、前回大会の結果を元に招待されるのが24チーム、TBCSU-18の優勝チームと準優勝チームの合計26チームが招待枠だ。
久遠の所属してるチームみたいに枠を返上するとこがいくつかあるだろうけど、基本的には残り14枠を争って行われるのがプロリーグ予選。
ここはプロだけでなくアマチュアも大勢参加してくる。参加要件は直近のシーズンでダイヤⅣ以上に到達していればいい。あとは参加費5000円と本人確認を済ませれば誰でも参加可能だ。参加すれば称号とか武器のスキンがもらえたりという特典もあり、前回の世界大会では参加チームの総数がアジアだけで7000を超えた。
参加チームは全5試合のラウンドを行い、上位10~8チームが次のステージに進むという形式でどんどん削られ、最終的に40チームまで絞られる。ちなみにここまでのラウンドの日時は運営から指定され、参加できない場合は即辞退扱いとなってしまう。この絞り込みは2週間程度で行われる弾丸スケジュールになっているので、全ての都合をこの大会に合わせる必要がある。
そうして生き残った40チームが10チーム×4グループに分けられ、プロリーグ進出を賭けて1ヶ月に渡る総当たりが行われる。毎週土日いずれかもしくは両方で6試合ずつ、計36試合の結果から上位14チーム+αがプロリーグに進むんだ。
参加要件自体は緩いけど、記念受験的に参加する層は当然序盤に振るいにかけられ、残るのはガチガチのプロチームばかりだ。
「プロリーグ予選が近づいてきたからファイト練習したいってことだったのか」
「うん…そうだね」
「いいじゃん。お互いどんくらい強くなったか確かめよーぜ」
「あたしも、よかったら混ぜてください」
「じゃあせっかくだし久遠と総当たりでやっていこっか」
久遠はどことなく歯切れが悪いような気がする。まぁ大会が近づいてきて少しナーバスになってるのかもしれない。俺たちとの久々のファイト練習で息抜きになればいいな、この時の俺はそんな風に考えていた。
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