第2章11 入口
「ラスト! 今階段前にいる!」
「ひより!」
「任せて!」
漁夫に次ぐ漁夫で乱戦となり、俺とSetoがノックダウン状態。敵の位置を報告し、それを聞いたひよりが建物の壁をよじ登って2階に踏み込み、階段から1階を警戒する相手の裏を取った。ひよりもバリアは剥がされてたけど背後を取ったことで一気に削り切ったところで最後の1人がボックスへ変わる。
「「ナイス!」」
「やったぁ~!」
レートを3人で回し始めて3日目。順調にレートを上げていった俺たちはダイヤⅠまでTierを上げていた。そして、今のTriumphで更にレートポイントを積み増し、ロビーに戻ったところで全員の称号が変化する。
「ひより、おめでとう」
「やったなぁ」
「うん…」
感慨深そうに呟くひよりの声。きっと、セイメイの上についた称号を眺めているんだろう。俺たちの英霊の上にあるプレイヤーネームの左側に表示された純白のダイヤ称号が、深紅の称号へと変わっていた。
グランデ。
上位訳0.1%~0.2%しか付けることの許されない最上位の称号だ。ダイヤⅢからはプラチナはほとんど混じることなく、ダイヤもしくはグランデがメインのレート戦となる。ここが壁となり、ダイヤⅢとⅣを行き来する層が生まれることになる。ひよりがダイヤⅣから上がれなかったのもこれが要因の1つだ。
ここからはほとんどの部隊が野良ではなくパーティを組んで挑んでくる。練度の上がったチームとその場で組んだ野良部隊だと圧倒的に差が出るし、隙を見せれば一瞬でやられてしまう。上級者の中で鎬を削り、ようやく辿り着ける称号がグランデだ。
ひよりにとっては未到達の領域。感慨深くなるのも当然だろう。けれど、ひよりはただ俺たちに引っ張り上げられたわけじゃない。俺のオーダーを忠実に遂行し、培ったフィジカルで間違いなく火力として貢献出来ていた。
「初めての領域に足を踏み入れた感想は?」
「えっと、何だかこうして称号を見て初めてあ、あたしここまで来たんだって実感してるかな。あれだけ手も足も出なかったダイヤⅢの壁が嘘みたいで、気づいたら到達してたっていうか」
「そりゃそうだろ。フルパな上に俺ら3人で回してんだ。足踏みする方がおかしいだろ」
「うん、そうだね。これで満足してちゃダメだね。あたし達が目指してるのは、もっともっと上だから」
「そういうこと!」
「いいねぇ! 腑抜けたこと言うかと思ったけどその気概なら問題なしだ」
ひよりの言う通り、ここも俺たちにとっては通過点に過ぎない。ここから先、出てくるのはグランデ以上。稀にダイヤパーティが混ざるけど、基本的には餌でしかない。
弱者の生存が許されない蟲毒の中で互いが互いを食らい続け、シーズン終了時に生き残っていた2500人がそのシーズンの化け物としての称号を得ることになる。
「ボーダーは?」
「えっと、今が17000前後だから、ここから5000ポイント盛らないといけないね」
「うわぁ~」
グランデに到達できる規定ポイントは現状12000ポイント。これも割合によって若干ズレていくけど、ここからさらに5000ポイント上げないと現状のパンデモニウムの最下位に届かない。まだシーズン後半が始まって2週間ちょいしか経っていないのにこれだけの開きが出ているあたり、最上位の争いも熾烈を極めてるってことだな。
このグランデになるとレート戦に挑戦するにあたり40ポイントを消費する。Triumphで200ポイント獲得でき、あとはキルポに応じて増えるから大体1勝で200~250ポイント盛れるって感じかな。
パンデモになれば入場料だけで脅威の70ポイント。初動死が連続するとガン萎えです。
「まぁ開幕ダッシュしてる連中も大勢いるだろうし、グランデのボーダーも上がっていきそうだな」
「そうだね。ひより、ここからはプロも大勢混ざってくる。尻込みなんてするなよ。挨拶は大事だからね」
「うん、大丈夫! ちゃんと覚えてもらわないとね! グレで吹っ飛ばしてやる」
「あっははは、そりゃいいや。景気よくドカンとやっちまえ」
「それじゃ行こうか。ここからがこのゲームの本当の最上位帯だ。ひより、俺たちが誘うときに言ったこと覚えてる?」
「えっ?」
Ragnarok Cupが終わって俺とSetoがひよりをスカウトしたとき、ひよりに言ったことは言葉通りの真実だ。ここからはこれまでのように簡単にはいかない。勝った負けたを繰り返し、精神を削りながらひたすら高みを目指して目の前の敵を倒し続ける、苦しく楽しい長旅の始まりだ。
俺は画面の前で笑みが零れるのを隠しきれない。きっとSetoもだろう。久しぶりの魔境。あの日々にまた戻れると思うと楽しみでしょうがない。初めてそこに足を踏み入れるやつに、掛ける言葉はこれしかないよなぁ。
「「地獄へようこそ!」」
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