第2章04 決別

 ひよりがSetoの肩をべしっと叩く。


「いってぇ! お前本気で叩くんじゃねぇよ!」

「あんたが悪いんでしょ? あたしのことなんだと思ってるわけ?」

「土佐犬」

「ぶち殺す!」  


 またパンチを見舞おうとするひよりと逃げるSeto。おい、俺を壁にしてんじゃねぇ!


「ふふっ、いいですね。これですこれ。どうかこれからも楽しく活動を続けていってください。では私からお伝えするのは次が最後になります」


 俺たちのコントを笑顔で見守ったあと、茜さんが軽く手を合わせて配信画面の中央に向く。


 やがて表情が弛緩したけど、今度は残念そうな様子に変わる。


「まず1点目、我々の活動スタンスについてです。改めてのお伝えにはなりますが、ぶいあどはゲームが好きな女の子達が自由に配信できることをコンセプトにしています。運営としても出来るだけライバーの行動を制限しないように心がけてきました。運営として指導していることは、所謂ガチ恋ムーブと言われるような言動は慎むようにということです。そういった言動はいずれ自分の行動を縛ることになりますから。


ただ、意図せずではありますが、私たち運営側の配慮がかえってそういった雰囲気を助長してしまったのも事実です。ライバーとゲストの方々にいらぬ負担をかけないように、スタジオを別にするように対応していたことが逆に自由を奪っていた。


ですので、この配信をきっかけとして、今後はお招きする方々が問題なければ、ライバー達と同じ場所で楽しい配信をお送りしていくつもりです。Rootsさんに所属する男女のライバーの方々が和気藹々と交流しているように、うちもゲストの方々と同じ空間で楽しみ、楽しんでいただける環境を目指してまいります」


 茜さんは今回の配信をするにあたって、ぶいあどの方針を改めて視聴者に伝え、自分たちも変わるきっかけにしたいと話していた。その最初のゲストとして俺たちに出てもらえないかと。


 俺たちにも攻撃がいくかもしれないと言っていたけど、さっき茜さんが言っていた通り、リージョンファイナルに進めばどうせオフラインになるんだ。どうせ起きるなら早めに済ませといた方がいい。


 ひよりを誘ったときにそういったことも承知の上で誘ったんだ。茜さんの申し出を断る理由には全くならなかった。


「リスクを承知で私の頼みを受け入れてくださったお二人には本当に感謝しています。もちろん、ライバー達の配信を見ていただいている皆さんにもいつも感謝していますが、お互いの適切な距離感を守ってこそ、楽しい配信環境が守られます。


ですので、過度な感情をライバーに抱いている方は、残念ながらうちの方針とは合いません。考えを改めていただくか、それが無理なら、ご覧にならないほうがよろしいかと思います。これまでご視聴いただき、ありがとうございました」


 さっき俺たちが登場したときに雰囲気が変わった層に向けての宣言だろう。ぶいあどは所属しているライバーをアイドルのような売り出し方をしていない。ひよりからも以前聞いてたけど、それを再度表明したわけだ。距離感を間違えた人に改善か決別かを突きつけた。

 

「そして2点目です。これまでは注意喚起に留めていましたが、それではうちに所属するライバーを守ることができないということを痛感しました。なので、こちらも対応を引き上げます。今後、こちらが悪質と判断した暴言・誹謗中傷には毅然と対応いたします。法務部門を強化し、随時開示請求および訴訟を提起しますので、心当たりのある方々はお覚悟を。こちらはもう譲りませんので」


 茜さんの表情から笑顔が消え去り。凍てついた表情は先ほどまでの茜さんとはまるで別人のようで、もう2度と同じ過ちを繰り返してなるものかという決意がありありと伝わってきた。1点目に該当する人らはイエローカードで、2点目に触れた連中はレッドカードってことだ。


 このご時世、匿名だろうが開示請求すれば個人情報はすぐに特定できる。そんなことも深く考えずにラインを越えた奴らに、これから相応の報いが下ることになるんだろうな。


「以上です。長々と失礼しました。私からのお知らせは以上です。どうかこれからも、ぶいあどをどうぞよろしくお願いします。そして、Rising Leoの門出をどうぞ応援してあげてください。ね、ひぃ」

「うん、みんな驚かせちゃってごめんね? でも、あたしはこれからもぶいあどのライバーとして楽しく配信をやっていくし、Rising Leoの一員としても頑張るから! 3人で絶対にプロリーグを抜けて、またRagnarok Cupみたいな熱い試合を届けるから、応援してください! ね、2人とも」

「そうだね。見てくれてる人たちに、3人で全力で頑張る姿をお届けするんで、応援してください。よろしくお願いします」

「お願いしまぁす」


 3人揃ってお辞儀する。そんな俺たちに温かい視線と拍手を茜さんが送ってくれた。


「さて、それじゃあまだ少し時間もあるから楽しい配信にしましょう。3人のことを応援してくれてる子達も待ちくたびれてるだろうから」

「? 茜さんそれって」

「楠ぃ~!」


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ここまでご覧いただきありがとうございます。

直近の数話はすごく悩みながら書いたものです。実際、前話もタイトル含めて若干修正しています。

あくまで、この作品の”ぶいあど”のコンセプトというだけで、実在の団体のコンセプトに肯定・否定をする意図は一切ないことをお伝えしておきます。

Vtuberであれ何であれ、自分が応援している人が去っていくのは寂しいものです。

前向きな理由であればいいですが、悲しい理由ならなおさらです。

そういうことが起きないように、見る側も考えないといけないということが本旨です。

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