第2章02 謝罪
「こんばんは~、H4Y4T0でーす」
「Setoで~す」
茜さんの招きに応じて俺たちもステージに登場。今日の配信には俺たちも招待されていた。せっかくのチームユニフォームの配信なんだから、全員でぜひと茜さんが招いてくれたからだ。
配信画面では3Dアバターの茜さんとひよりの隣に生身の俺とSetoが立っているって構図だ。俺たちもひよりと同じチームのユニフォームを着ているので、いよいよチームとして始動したって感じがする。
俺とSetoは別に顔出ししてないってわけじゃない。TBCSU-18のときはオフラインでの大会で配信されてたし、こないだのRagnarok Cupでも顔出し配信してたしね。
「お二人ともようこそ。男性用のユニフォームもこれでお披露目ですね。すごくお似合いです」
「ありがとうございます。配信で着るくらいしか考えてなかったのにこんなに豪華な機会を用意していただけて感謝してます」
「せっかくですからお二人もユニフォームをみんなに見せてあげてください」
茜さんの進行に従って俺が正面、Setoが振り返ってユニフォームを見せる。俺たち男性用のユニフォームはひよりのと比べて緩めなデザインになっている。シャツも丈が長くなっていて、下はひざ下くらいまでの長さのパンツにデザインしてもらった。ロゴや名前の配置はひよりのと変わらない。
「お二人ともありがとうございます。コメントでもカッコいいとか似合ってるってたくさん書かれてますよ」
「ほんとだ。好評みたいで安心しました」
俺は画面を覗き込み、好意的な反応を示してくれているコメントに反応する。
「さて、これまでも企画配信で大勢のゲストの方々をお招きしてきましたけど、同じステージに上がっていただいたのはお二人が初めてです」
「へぇ~、そうなんですか」
「はい。うちに所属しているのはみんな女の子ですし、ゲームを主軸とした配信をやっていますけど、一応運営上の配慮としてゲストの方々には別スタジオで収録に参加していただいてきました。こうして隣り合って配信をしたことはなかったんです」
そう、配信画面では3Dアバターの茜さんとひよりが立っているけど、俺の目の前には違う光景が広がっていた。
「配信を見て驚いている方々も多くいらっしゃるようですね。ですが、この3人はチームとしてこれからTBの世界大会出場を目指して、まずはアジアのプロリーグを戦います。このプロリーグを勝ち抜けばアジアの頂点を賭けてのリージョンファイナルに進む。リージョンファイナルはオフラインでの配信です。ですから、遅かれ早かれなんですよね。それならこういう機会に皆さんにも慣れてもらった方がいいと判断しました」
隣を見れば、ひよりが若干緊張したような表情を浮かべている。さっきまで大盛り上がりだった視聴者のなかに、俺たちが登場してから明らかに異なる反応を示す人たちも現れたからだ。ただ、傍らに立つ茜さんの表情は変わらずおっとりとした笑みをたたえている。けれど、その笑顔の中に巌のように固い覚悟のような雰囲気を俺は感じていた。
「説明をする前に、まず私はしなければならないことがあります。私はこの子が配信で悩み、苦しんでいるとき、何もしてあげることができませんでした。大丈夫? と声をかけ、無理をした笑顔で大丈夫と答えるこの子の強さに甘えて」
「そんなことない! 茜さんはずっとあたしのこと本気で心配してくれてたの知ってるから。病院に行くとか、活動を一旦休止してゆっくり過ごすとか提案してくれてたのに、それをせずに意地を張って間違った選択をしたあたしが悪いの」
ひよりが庇うように声を上げるけど、茜さんは目を閉じてゆっくりと首を左右に振る。
「自分が選び、一緒に活動すると決めて招いた子を守るのが私の最大の義務。なのにそれが出来なかった。ひぃ、いえひより、本当にごめんなさい」
そう言いながら、茜さんは深々とひよりに頭を下げた。
「茜さん、やめてよ! 何度も謝ってもらったし、あたしはもう大丈夫だから」
「そうね。でも、けじめはきちんとつけないと。ひぃを守ることができず、楽しい気持ちで配信を見ることが出来なかった皆さんにも、改めてお詫びします。本当に、本当に申し訳ありませんでした」
ひよりにしたように、今度は配信を見ている人たちに向けて頭を下げる。先ほどの明るい雰囲気はどこかに消え、俺たちの立つステージの空気は張りつめたものになっていた。
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