第1章終 目覚めの獅子
「戻りました~」
「う~い」
「さて、そろそろ締めますかね」
「…っ」
俺の言葉にひよりが小さく息を呑む。そう、この配信も、俺たちのコーチングも、これで一旦終了だ。
「ほんと、色々あったなぁ」
「そうか? TBしかしてねぇ気がするけど」
「それもそうか」
「あははは…」
ひよりの笑い声には全く力がこもってない。空元気ってのが丸わかりだ。
「ひより、今までお疲れ様! この一ヶ月、本当によく頑張りました。有終の美を飾れてよかった。卒業です!」
「おめでとう!」
パチパチとSetoが拍手を贈る。
「……」
ひよりは返事を返さない。やがて拍手する空気でもないのを感じてSetoが手を止め、沈黙が場に降りる。
「どうした?」
「寂しいから…」
「ははっ、そうだよな。分るよ。俺もぶっちゃけ寂しい。こんだけずっと配信やってきたんだ。明日からそれがなくなるってのはなんかね」
「うん……グスッ。終わりたくないよぉ……もっと、もっと教わりたかった。もっと強くなって、2人に恩返ししたかった……」
「恩返しならしてもらったよ。大会での大活躍で、師匠の面目躍如だよ。本当に、最高の弟子だったよ」
「うん……。ありがとうございましたぁ……この1ヶ月は、あたしの宝物です……グスッ」
「もう辛い顔でTBはしないですみそう?」
「うん……友達と……リスナーのみんなと頑張る」
「そっか。ならもう大丈夫だね」
「うん……でも、2人はこれから、忙しいだろうけど……たまに一緒にレートやったり、教えてほしい」
ここだな。
「もちろん。確かにこれから忙しくなる。なぁSeto」
「あぁ。もうじきプロリーグ始まるしな」
「そうなんだよ。だけど困ったよなぁ。まだメンバーが見つかってないんだよ」
「ほんとそれな。どっかにいねぇかなぁ。根性あって気合の入った奴は」
「……」
「確かに。あっ、でも最近俺1人いいなって思う人見つけたんだよ」
「奇遇だなぁ俺もだ。で、どんな奴なんだよ」
「……」
「その人、最近までダイヤの底にいたらしいんだけどさ」
「おいおいマジかよ。さすがにダイヤは無理だぞ」
「……」
「そう思うじゃん。でもさ、めっちゃ頑張るんだよ。すげぇ努力家でさぁ。俺が教えたことは何でも実践するし、ちゃんと出来るようになるまでやるんだよ」
「へぇ~、いいなぁ。俺が見つけた奴はさぁ。俺からどんだけボコボコにされようが、へこたれず挑んでくるんだよな」
「……うぅ…」
「そういや一回俺の言うこと聞かずに突っ込んだことあって、キレたらそれ以来完璧に言うこと聞くようになったっけ」
「っはは、懐かしいなぁ。そういやあったな」
「おい」
「やべっ」
「ハハっ……グスッ」
「それからセイメイの使い方もみるみる上達して、爆弾の使いまわしに関しちゃ俺ら以上に上手くなったんだ。1ヶ月だぞ? あり得ないだろ普通」
「おい、逸材じゃねぇか。プロリーグまでもう3か月ないんだろ? そいつ早くスカウトしよーぜ!」
「っ!?」
「てなわけだ。ひより。俺たちを助けてくれないかな? このままじゃプロリーグにエントリーできないんだ」
「……あたしで……いいの?」
「ひよりがいいんだ。なぁSeto」
「あぁ。やろうぜ! プロゲーマー!」
「はは……グスッ……大変なんだろうなぁ」
「あぁ、地獄だな」
「そうだね。でも、きっと楽しい地獄になる。この1ヶ月を見て、ひよりとこれからも勝ちたいって思った。だから、一緒にやらない? 明日も、これからも」
「うっ……ぐすっ、うわぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁぁ」
それからしばらく、ひよりは泣き続けた。配信が終わった後で、二次会後の部分はカットされている。
まぁさすがにね。俺らも配信終わってから言えばよかったけど、これまでぶつかり合ったときとかも配信してたから大丈夫って思っちゃったんだよなぁ。
「落ち着いた?」
「……うん、ごめん、ありがとう」
「そっか、で、どう? 俺らはひよりと世界に挑みたい」
「……うん、やりたい。2人と、もっと強くなって…いっぱい勝ちたい」
「なら決まりだ」
「や~っと揃ったぁ~!」
「はは、そうだね。あっ、もちろんひよりの事務所に許可もらえてからだから、これはあくまでスカウトってことね。ルールとかもあるだろうから無理なら諦めるし」
「まぁ事務所がだめってんならしゃあねぇからなぁ」
「絶対説得する」
「そう? 難しかったら言ってね? 他あた…」
「あたしがいいって言ったじゃん! 他探したりしたら絶対許さないから! 事務所に相談するから大人しく待ってろ! バカぁ!」
ポロン
「切れちゃった」
「おいおい怒らせんなよぉ」
「おいコメント、何が浮気だ。人聞きの悪いこと言うな」
「っははは。てぇてぇプロゲーマー誕生だな」
「ふざけんなぁ!」
1週間後、ひよりの所属するぶいあどからも公式でリリースがなされ、ひよりのTBプロリーグ参加が正式に決まった。
「オラオラどしたぁ! なぁにがエースの座を奪うだぁ? 1000年はえぇよ」
「くっそ、もっかい!」
「何度でもかかってこいよ! いくらやっても結果は同じ…やべ」
「はいざまぁあぁあ! そんなんだからAceに1on2で苦戦するんじゃないんですかぁ~」
「ぶち殺す。こいオラァ!」
「上等じゃあ!」
やってるやってる。今日も平和だ。
まもなく開幕まで3か月を切るプロリーグ。世界大会への切符を賭けた全40チームの潰し合いだ。
ここにはRagnarokも出てくる。前Ragnarok Cupではメンバーがバラバラだったけど今度は3人が揃い踏み。他のチームも猛者揃いの正真正銘の魔窟だ。
そうそう、俺たちのチーム名だけど、少し変わった。
さぁ、待ってろ世界。震え上がらせてやるよ!
第1章 完
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