第1章74 初動=クライマックス
「初動被せ?」
カスタム期間中、俺がひよりに初動の動きについてレクチャーしていたときのことだ。
「そう。大会が終盤になった時、俺らがポイントでリードしてた場合、逆転を狙うチームが初動で俺らのランドマークに被せて降りてくる可能性がある。その時の動きを確認しとこう」
ポイントで後れをとるチームが、一発逆転を狙うとして、リードするチームが生き残ってしまっては意味がない。
だから初動で被せて潰す。アイテムも碌に拾えてない状態での戦闘になるから、先に武器を拾えたもん勝ちの”運ゲー”を仕掛けて50%を取りに来る戦術だ。
もちろん負ければその時点でゲームオーバー。逆転の目は完全に消える、ハイリスクハイリターンなやり方だ。
俺が説明している間、ひよりは黙って聞いているけど返事の声は不満げだ。
「でもそれやっぱ卑怯じゃない?」
「「卑怯じゃない(ねぇ)」」
俺とSetoの声が綺麗に被った。気持ちは分からんでもない。ていうかよく分かる。
5割のギャンブル仕掛けられるなんてたまったもんじゃないからね。
「ひより、野球で変化球投げるのは卑怯?」
「え? いや、卑怯じゃないよ?」
「じゃあ、サッカーで試合終盤にキーパーが攻撃に加わるのは?」
「う~ん…」
「バレーのフェイントは?」
「……」
俺の言いたいことは伝わったかな。
「正々堂々ってのはたしかに気持ちいいけど、それを相手に押し付けちゃダメなんだよ。ましてや勝負の世界ではね」
「うん」
「これは受け売りなんだけど、もし勝負ごとにおいて相手のことを卑怯だって思うときがあったら、あっ、今自分意識低いなって思えってさ」
「意識が低い?」
「そう。だって相手はそれだけ勝ちたいってことなんだよ。勝つためにあらゆる手を尽くす。努力して、研究して、それでもダメなら運にも縋る。そこまで勝ちへの執念を持ってるってこと。それを卑怯って感じるってことは、自分は相手より勝ちに執着出来てないんだって見つめなおしなさいってね」
「そっかぁ。確かにルール違反してるわけじゃないもんね」
「そう。チーターやゴースティングみたいなゴミ共とは全く違う。それだけ真摯に、真剣に勝ちに来てるってことなんだよ。」
「そゆこと。せこいなんて思うな。むしろ褒めろ。よく来たなって。それを弾き返して勝つから嬉しいんだ」
「うん、そうだね。執念を持って勝ちに行く」
「それでいい。もし必要と判断すれば俺も躊躇なくやるからね」
「うん、何が何でも勝とう!」
ファイナルゲームの降下中。俺はいつもよりも念入りに背後に視点を移して警戒をしていた。すると、俺らの背後にピッタリとついてくるチームが1つ。やっぱりな。
「やっぱ来たぞ。被せられた。練習通りに!」
「はっは~、いいじゃんいいじゃん、初っ端からクライマックスだ」
「相手は…泥Cのトコだ」
「…美月!」
そっか、あそこには柊さんがいたんだっけ。ひよりは今何を考えてるだろう。でも、心構えは叩き込んだ。あとは練習通りに動くだけだ。
「気合入れろ。最後に最下位なんてご免だからな!」
「たりめぇだぁ!」
「絶対負けない!」
眼下に俺たちが被せられたときに降りると打ち合わせた地点が見えてくる。ウズメ淵の中央。
3件の建物が三角形状に配置された場所。俺たちはそれぞれが目標の建物に飛び込んだ。
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