第1章73 餞

「同点! 同点です! 先ほどの1位と2位が横一線で最終局面を迎えます。なお、ポイントが同点の場合は順位点が高いチームが上位となります」

「熱いですねぇ。さっきの試合、”Aceと忠実な下僕”は18キルですか。やっぱり大爆発してきましたねぇ」


「混み合う西側を制したことでキルポを量産しましたね。さすがは魔王といわんばかりの理解不能のキャラコンをこれでもかと見せつけてくれました」


「対して”おひるね日和”は圧倒的な安定感ですよね。ここまで全てのゲームでトップ5を逃してないです。H4Y4T0のIGLを武器にこれまで話題性も抜群の動きを見せてくれてます。この大会終わっても目が離せないですよ」


「本当にそうですよね。今日初めて見た方のなかでも心を鷲掴みにされた方が大勢いらっしゃると思います。そういえば、さっきのゲームでもし”おひるね日和”が普通に戦ってたら3ポイント差の2位になってたことになりますね」


「確かに! そう考えるとやっぱりあれはH4Y4T0君のファインプレーですね。この3ポイントが今の順位、そして最後の結果にも影響を与えるかもしれません」


「いやぁ~、今日何回鳥肌たったか分からないです…。さて、大本命はこちらの2チームですが、他のチームはいかがでしょうか」


「そうですねぇ。他のチームはTriumphプラス大量キルが必須で、なおかつトップ2チームがポイントを持たずに壊滅するっていう条件になると思います。自力だけでは厳しいですね」


「たしかに。どちらか一方が上位に残っても終戦の可能性が大なわけですね」

「はい。現実的に可能性があるとすれば…30ポイントを超えてる7位の”へいらっしゃい!”までかなぁ。奇跡を信じて頑張ってほしいです」


「ありがとうございます。あっ、そういえば先ほど20位になった”最下位とったら即終了”ですが、全員配信画面が真っ暗になったとの情報が入りました」

「あはは。公約を守ったんですね。せめてこっちの視点で覗いてみましょう」



「次でラストだね」

「そうだなぁ~」

「うん…あっという間だったね」


 さっきまでの盛り上がりとは打って変わって、穏やかな空気が流れる。いや、嵐の前の静けさの方が正しいのかもしれない。

 

 頭に浮かぶのはこの数時間の記憶、だけではなく、ひよりと初めて配信した日まで遡る。


 ひよりが言ったあっという間も、きっとこの1ヶ月のことを指しているだろう。色んなことがあった。


 けど、それがほんの昨日の出来事のようで。師匠と弟子の関係もあと僅かな時間で終わる。


 まさかこんなに寂しいと思うなんて夢にも思わなかった。


 弟子の頑張りは見ている人にしっかり伝わっただろうか。


 ここまでで十分? いや、まだ足りない。誰もが納得する結果で、ぐうの音も出ないほどの結果で示す。


 それがここまで立派に育った弟子への最後のはなむけだ。


 ここまで来た。あとは勝つだけだ。待機所のカウントダウンが終わり、英霊選択画面へと遷移する。


「H4Y4T0、Seto」

「ん?」

「どしたぁ」

「…ありがとう。勝とうね」


 こいつ…。狙ってやってんのか? ざけんなよ。あぁ、俺って案外単純なんだなぁ。また乗せられた。いいさ、とことん乗ってやるよ。今日はだ。


「死んでも勝つぞぉ!!」

「しゃあぁぁぁぁぁ!!」

「おぉ~!!」



「さぁ、レインさん。ラストですよ」

「早いなぁ。ほんとにもっと見たいですけど仕方がないですね。最後まで楽しませてもらいましょう」


「そうですね。さぁ宴もたけなわとなりました。栄光を勝ち取るのは気鋭の超新星か、地獄を統べる魔王か、それとも我こそはと名乗りを上げる剛の者か。見届けましょう。第3回 Ragnarok Cup ver Triumph Bullet ”本気ガチ”。ファイナルゲーム、スタートです」

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