第1章32 ひより視点 きっかけ

楠 日和視点


 今日は今までで一番収穫の多い1日だった。やっと…やっとSetoから1本取れた。これまでもあと一歩ってことは何度かあったけど、あいつのお化けみたいなキャラコンで躱されてあと一発がどうしても当て切れていなかった。


 だけど、ようやく0から1になった。まだ全然格は違うけど、それでも、あたしの頑張りが実を結んだことが堪らなく嬉しかった。


 もちろん通算でみればあたしの連敗がストップしただけで、Setoのエイムが下振れてあたしが上振れたに過ぎない。


 でも、2人は決してまぐれとは言わなかった。H4Y4T0は手放しに誉めてくれたし、Setoは本気で悔しがってた。たった1回負けただけでだよ? どんだけ負けず嫌いなのよ。


 でも、そこがSetoの凄いところでもあるんだって思った。あれだけ悔しがるってことは、あの時Setoは一切手を抜いていなかったってことで。

 

 あいつはあいつであたしに絶対負けてたまるか。ていうか負けちゃいけないって気持ちで向かい合ってくれてたんだ。


 たかが1敗にあそこまで拘って悔しがる。恐ろしいくらいの勝ちへの執念だよね。


 それがSetoのプロとしての、そしてH4Y4T0の相棒としてのプライドなんだ。


 普段は口が悪いし、煽ってきてばかりですっごい腹立つけど、こういうところは見習わないといけないなぁ。


 プライド…そう、プライドだ。


 H4Y4T0にとってはIGLが。Setoにとっては火力がプライドを持っている強み。じゃあ、あたしは?


 H4Y4T0があたしに与えた課題。”これならH4Y4T0やSetoにも負けない何か”を見つけること。


 何とか期待に応えたくて必死に考えたけど、全然浮かんでこなかった。だって、2人ともこのゲームの頂点に手を伸ばそうとしてる凄腕のプロゲーマーで、あたしが2人に敵うものなんて何一つなかったから。


 ここ最近ずっと使ってるセイメイだって2人の方が上手く使える。他のキャラなんて言わずもがな。


 H4Y4T0が言ってたとおり、難しすぎてコーチングの間に見つけられないんじゃないかって焦る日々が続いてた。


 でも、今日見つけた。きっかけはSetoとの1on1が終わって、一旦休憩をはさんだ時。早めに戻って手持ち無沙汰だったから、1人で練習してるときにやっているグレ投げの練習をしていると、


「ひよりグレ上手いよね」

「え?」

「いや、セイメイの結界がかなりピンポイントで欲しいところに置いてもらえるようになってきたなぁと思ってたんだけど、グレも上手いなと思って。走り回りながらデコイに当ててるじゃん?」


「あぁこれ? セイメイの結界って式神を投げるモーションでしょ? グレならもっと遠くまで投げられるから、そっちも練習した方が距離感掴んだりするうえでいいかなぁと思って」

「なるほど。面白い練習やってるね」


 H4Y4T0が何の気なしに話しかけてきただけだろうけど、この時あたしは全身が震えるような感覚に襲われていた。見つけた。これだ。きっとこれだ!


 TBには3種類の爆弾がある。1つは今あたしが投げてた普通のグレネード。投擲から4秒後に起爆してダメージを与える。

 

 真上に投げたらちょうど地面に当たるまでが4秒になる。あとは壁などにくっついてから3.5秒後に爆発するスティッキー。着弾と同時に炎をまき散らしながら小規模の爆弾が飛び散る炸裂弾。


 これらの爆弾は試合の中で様々な役割を担う。攻撃はもちろんだけど、移動の阻害やオブジェクトの破壊にも使われる。


 H4Y4T0もSetoも、もちろん上手い。でも、これは今のあたしでもそこそこ使える。


 恐らく2人と一番差が小さくて、それなのに戦局を大きく動かす可能性を秘めている。2人をコーチングの間に超えられるとしたらこれしかない!


 そうと決まれば早速練習しよう。絶対2人を驚かせてやる!

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