第1章16 In Game Leader

 一旦俺たちはさっき倒した奴らが潜んでた家に入って一息つく。


「どう動く?」

「ちょい待ってな」


 Setoが俺にこの後の動きを確認する。どういうルートで安全地帯を目指すのかを判断するのは俺の役目だ。ミニマップを見ながら数秒悩んだ俺は、マップにピンを連打しながらルートを示した。


「このまま城門を抜けて、そのあとはゴクウのODで一気にショトカ(ショートカット)しよう。最終安地は多分このあたりだから…城の天守閣が強いな。でも多分すでに敵がいるから入れない。打ち下ろしされると怠いし...ここだな」


 ピンを最後に打ち込んだのは、マップ北西の城から少し離れた城壁に接した場所。


「オーケー、ここも取られてたらどうする?」

「そんときはファイトだね。どいてもらおう」

「最終安地がこのあたりって何でわかるんですか?」


 俺の提案をすんなり受け入れたSetoとは対照的に、楠さんは不思議そうに尋ねてくる。たしかに、今はまだ最初の安全地帯の収縮が終わったばかり。


 たしかにエリアは若干北側に寄ってはいるものの、まだ東西どちらに寄るかは一見全くわからない。


「まぁあくまで予想だけどね。この寄り方なら大体ピン刺したあたりが最終になること多いんですよ。何でって言われると傾向としか言えないんだけど」

「……それって、安全地帯の収縮を覚えてるってこと?」

「うんまぁ。でも全然外れることもあるからそんときはすいません」

「心配すんなって、こいつで外すなら他のプロも大概外してる」


 楠さんは俺の返答にフリーズしてしまったらしい。まぁ分らんでもないが。


 安全地帯の収縮には傾向がある。それは事実だ。だからこそ、パンデモ帯や競技シーンのプレイヤー達は膨大な試合数の安全地帯の収縮を記憶し、最初の収縮円を見ただけでおおまかに最終安地がどのあたりになるか予測する。


 中にはマップの各所に配置されたギミックを使って次の安地収縮を読み取ることができるキャラもいるけど、今の環境だと刺さってないから積極的にピックしたいわけじゃないんだよね。


 別に覚える必要なくねって思った? あるんだなこれが。これができれば最適な移動ルートを考えることができる。


 収縮が終わってから表示される次の安地を見てから行動を判断しようとしても遅いんだ。強い場所は早い者勝ちだし、さっきまで強かったはずのポジションが安地の収縮によって一気に弱くなってしまうこともある。


 だからこそ、最終安地がどこになるかを予測することで、自分たちがどのように動けば勝てるのかが見えてくる。


 どのタイミングで、どこに陣取るか。その判断が部隊の生死を分けるといっても過言ではない。あとはそのシナリオに沿って動くだけ。もちろんそれだけで勝てりゃ楽でいいけどね。


 当然戦闘がどのタイミングでも起きる可能性はある。最善のルートをまず描いて、それを目指しながら途中で変更を余儀なくされてもいいように別のプランをしっかりと用意する。


 それがIGL(In Game Leader)、オーダーとも言われる司令塔、つまり俺の役目だ。


「まぁ本当はもっと大回りするルートの方が安全なんですけど、それだと戦闘が少なくなりそうなんで。途中で負けてもいいからキルムーブでいきます」

「が、がんばります」

「その意気です。じゃ、早速SetoのODでぶっ飛ばしましょう」

「オーケー、んじゃいくかぁ。」


 Setoが操るゴクウがODを発動する。ゴクウの衣装から細い紐が伸びてセイメイとマーリンに絡みついた。その直後、ゴクウが手に握った如意棒が天目掛けて一直線に伸長し、それに引っ張れて3人も天高くにかっ飛んでいく。


 如意棒が伸長を終えると、同時にゴクウが指笛を鳴らした。すると、今度は3人の真下に小さな雲が現れた。筋斗雲。


 踏みしめられる不思議な雲に着地した3人は自由落下ではなく空中を意のままに飛び回る。正確には次第に高度は下がり続けるので、着地までの10秒ほどの間落下する方向を操作することができるんだ。


 これによって、通常のダッシュでの移動よりも遥かに早く移動することができるし、上空から索敵することで周囲の状況を網羅することもできる。


 機動力と索敵を両立させた強キャラ、それがゴクウだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る