第1章15 初戦闘
「いた。S(南)方向の家に1パ(パーティー)いる」
Setoの報告と同時に画面左上に表示されるミニマップに敵の位置を知らせるマークが追加された。
初動の物資回収を終え、移動を開始した俺たちは、この日最初の敵を発見したところだ。
今俺たちが戦っているフィールドは”江戸”。マップの北西に城が聳え立ち、城下街や長屋、商業区画、貧民街、色町といった区画が並んでいる。俺たちは南側に位置する長屋に空挺降下し、そこから中央の城門を目指して進んでいるところだった。
このゲームは開始から一定時間の経過ごとに、安全地帯が次第に収縮していくようになっている。
安全地帯の外にいるプレイヤーには一定のダメージが入るようになり、それは安全地帯の縮小とともに次第に大きくなっていく。
最初のうちは回復が十分に間に合うが、終盤には全快状態からでもわずか6秒で削りきられるほどのダメージになる。プレイヤー達は安全地帯の内部にどんどんと吸い寄せられていき、次第に戦闘が激化するというわけだ。
「どうします?」
「やりますよ。ノンレートなんだから戦闘あるのみです」
「漁夫来ませんか?」
漁夫とは戦闘中に別のパーティが参戦してくること。戦闘で体力が減ったころを見計らって漁夫の利を狙って介入してくることからそう呼ばれている。
誰だってリスクは減らしたいもの。お互い面と向かってせーので撃ち合うより、敵の体力が削れているときに回復の時間を与えずに攻めた方が勝率は格段に上がるからね。
戦いが始まれば当然銃撃音がするわけで、その音を聞いて漁夫が寄ってくる。楠さんが懸念しているのはこのことだ。
ただ、レートポイントがかかっているわけでもないこの試合で、こっそり隠れて順位を上げてもしょうがない。
俺たちの目的は戦闘だ。漁夫が来るならついでに轢き殺すくらいの感覚でいればいい。Setoもどうやら同じ考えらしい。
「そんなの返り討ちだろ。ビビってんすか?」
「ビビってないです! IGLに確認しただけでしょ」
「じゃ、いきましょっか。とりあえず屋根にいるロチシンにフォーカスで」
「はい」
「いきますよ、せ~の」
俺のコールと同時に3人が一斉に銃撃を開始する。狙いとタイミングを合わせることで、瞬間的に与えるダメージを大きくする。
こちらが一方的に敵を認識できているときは、こうすることでダメージトレードを優位に戦闘を始めることができる。
俺たちの銃撃で屋根の上にいたロチシンは驚いたように屋根から飛び降りようとする...が、どうやら遅かったらしい。
「ノック(ダウン)」
「ナイスです」
「一気に詰める。グレ窓から入れて」
ロチシンは俺たちからの斉射を食らって屋根から降りる前にノックダウン状態になった。
こうなると味方から蘇生してもらうか、自己蘇生のアイテムを消費しないと戦闘に復帰できず、碌に移動もとれなくなってしまう。
戦闘開始と同時に数的有利を作り出した俺たちは、勝負を一気に決めるべく脱兎のごとく駆け出した。
Setoが窓から家の中にグレネードを投げ込む。中にいた二人も襲撃を悟って動き出したようだ。グレが投げ込まれたので慌てて外に逃れようとしている。
俺は二人から離れて家の右手から回り込むように移動する。ちょうど家から二人のプレイヤーが飛び出したところだった。逃がすかよ。
「OD切るわ」
任意の地点を指定すると地面から高さ1.5mほどの漆黒のトーテムがせり出し、そこから猛スピードで伸びる鎖が敵に絡みつき拘束する技だ。
トーテムを破壊すれば鎖は千切れるけど、それでも数秒は拘束されることになる。
拘束されるだけでなく、何もしないでいるとトーテムに引きずり込まれていく。そんなものを放てばどうなるか...。
「はい捕まえた」
「逃がさないよ~ん」
鎖に絡めとられた二人は即座にトーテムを破壊しにかかったけど、そうして生まれるのは致命的な隙だ。
そしてそれを逃すような俺たちじゃない。Setoと集中砲火を浴びせ、トーテムを壊して拘束から逃れた二人の体力を一瞬で削り取った。
戦闘時間は最初の斉射から15秒も経ってない。まさに電光石火だ。まぁでもそれで気が抜けるわけじゃないけど。
部隊が壊滅、もしくはノックダウン状態の敵の体力を削りきって確定キルすると、アバターが消滅してボックスが残される。そこには敵が所持していた武器やアイテムが納められていて、それを漁ることで物資を補充することができる。
「楠さん、念のために結界張って」
「は~い、二人とも早すぎ。あたし何もしてないよ」
楠さん操るセイメイのスキルでボックスの周囲に四角錐形の結界を展開。これで安全に物資を補充することができる。
油断してるとすぐに漁夫が来やがるからなぁ。俺と楠さんは手早く補充を終わらせてSetoと交代。幸い漁夫が来ることはなく、この戦闘は終了だ。
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