第1章17 突然の危機

 降下中、眼下に広がる長屋エリアに敵の存在を示すアイコンが表示された。敵も上空の俺たちに気づいたようでこちら目掛けて打ってくる。


 キルムーブをしかけるとはいえ、降下中こちらは銃撃できないし、着地の際に若干の隙が生まれてしまうことを考えるとこいつらと戦闘するのは悪手だ。


「こいつらは無視して突っ切る」

「はい」

「OK~」


そのまま敵をやり過ごして着地し、飛行前にピンを刺した地点に向けて移動を再開した。


「楠さん、こっちこっち。そっちはマズい」

「へ? どうかしました?」

「そっちは射線を切れないから、移動するなら俺らのルートが安全だよ」


 楠さんの通っていたルートは西側からの射線は建物で切れるものの、それ以外の方向からの射線が通っている。つまり、狙い放題撃ち放題だ。


 俺とSetoは楠さんの通ろうとしていた長屋の一本隣の道を進んでおり、そちらは左右を壁で囲まれているため、警戒するのは前と後ろだけでいい。


 射線管理。簡単なようで難しく、差がつく部分だ。自分が相手を狙えるということは、翻って相手も自分を狙えるということ。


 移動中に自分がどこから狙われるのかを把握し、出来るだけ狙われる角度が少なくなるように移動するのが被弾を抑えて安全に立ち回ることに繋がる。


 楠さんも別に全く出来ていないわけじゃない。要はプロとアマチュアの立ち回りの差だ。俺と楠さんではマップの把握具合の質も全然違う。


 ノンレートだし、今は近くに敵はいないと分かっているけど、いないから無警戒にしていいって訳じゃない。


 今出来ないことは大事な時にも出来ないし、どんな時でも常に最善を目指してこそプレイの質も上がるんだ。


 こうした移動中のコーチングもはさみつつ、やがて俺がゴクウのODで飛ぶ前にピンを刺した地点が見えてきた。


 城が間近に聳え立ち、天守閣を見ると3人のプレイヤーが忙しなく動き回りながら周囲を索敵している。


「やっぱ天守閣は取られてんなぁ」

「ですね」

「まぁそりゃね。最初の降下で何パ(パーティ)か降りてただろうし。予想通りだね」


「予想通りで言やぁピンのとこもやっぱいんなぁ」

「いるね、どかすよ。あ、楠さんは俺が言うまでスキルとODは温存してね」

「分かりました」

「最初はさっきと同じ。1人離れてるアマテラスを狙うよ」


 簡単な確認ののち、俺たちは戦端を切った。まずはさっきと同じようにフォーカスを合わせて斉射。

 今回俺たちが狙ったアマテラスは回復に特化したキャラだ。それなのに味方からやや離れたところにいたので、甘えたムーブを咎めるように狙い打ちした。


 今回はノックダウンこそ取れなかったが、バリアを剥がしてあと僅かのところまでは削れた。


「くっそ、激ロー!」


 Setoの言うローとは、あとちょっとで倒せる状態のことだ。ゲーム中、出来るだけ短い言葉で報告することが大事なので界隈ではこうしたワードが多くある。


 激ローとなればほんとにあと1発か2発あたればノックダウンできるとこまで削ったってわけだ。


 たまらずアマテラスは後方の窪みに身を隠す。他の敵も慌ててアマテラスの方に近づいてきていた。


「二人ともアマ(テラス)隠れたとこにグレ! そんまま近づいてる二人を狙って」


 アマテラスは隠れたところでスキルを使って体力回復しようとしている。それを黙ってさせるわけもない。


 俺たちの投げたグレが爆発し、ダメージを負ったアマテラスはノックダウンとなった。


 近づこうとしていた残り2人はアマテラスとの間にグレを投げられたことで立ち往生し、蘇生のために近づくことができない。


 俺たちが接近するのを見て、アマテラスの蘇生を早々に諦めた二人はジグザグに走って銃弾を避けながら守っていた地点を俺たちに明け渡した。


 Setoがノックダウン状態のアマテラスにすぐさま止めを刺したところで、俺は周囲を警戒する。その目に映ったのは、逃走する敵に追いすがる楠さんの姿だった。


「楠さん、だめ! 戻って!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る