第1章13 コメデモニウム

「楠さん、このリダイレクトには弾避け以外にも利点があるんですよ」

「他にも…ですか?」

「そう、ジャンプの途中で射撃することでヘッショの確立も上がるんです」


「あ、なるほど! ジャンプしてる分相手より上を取れてるから」

「そういうこと、1.5倍の補正がかかるヘッドショットをショットガンで食らわせられればめっちゃ強いですよね」


「なるほど…。リダイレクトの大事さがよく分かりました」

「よし、じゃあこれからはリダイレクトの練習も組み込んでください。実践で反射的にできるようにならないと意味はないですから。地道に反復あるのみです」

「はい!」


 それからしばらく、俺とSetoで実際にリダイレクトを見せながらしばらく反復練習をした。


 まずは射撃場で成功率を上げる。次にリダイレクト中の射撃練習、そこからようやく実践でも投入できるかどうかだ。


 楠さんも俺たちのアドバイスを聞きながら黙々と失敗を繰り返す。一人での練習中にちょっとずつ上手くなってもらおう。


「さて、ずっと射撃場ってのも微妙だし、そろそろアンレート潜りますか」

「しゃあやるかぁ」

「は~い」

「あ、そういやさ、俺ちょっと言いたいことあるんだわ」


「ん? どした?」

「いやさ~、こないだの顔合わせ配信のアーカイブ見たんだけどさ。ちょっと楠さんのとこやべーんだわ。コメデモどもが」

「「あ~…」」


 確かに俺も気になってた。楠さん視点の確認のために配信のアーカイブを覗いたら、コメント欄であそこはこうした方がよかった。


 今のとこで回復は…とか、結構指示的なコメントが目立つんだよなぁ。こういうコメントで物知り顔にあれこれ指示出しなどをしてくる連中は“コメデモニウム”と界隈で呼ばれて煙たがられている。


 コメントを打つ当人としては本人のことを思っての発言なこともあるんだけど、正直いってウザいことこの上ない。


 配信者に与える不快感としては場合によってはアンチコメよりひどかったりもする。


「言ってもどうせ湧いてくるんだろうけどさ、言っといたほうがいいよなぁって」

「Setoの言う通りだね。まぁコメデモさんたちは心配しないでいいよ。コーチは俺らで間に合ってるし。それでもしゃしゃりたいなら今シーズンの最高到達Tierと大会実績書いたうえでコメントしてね」


「ははっ、それいいな。俺らよりもつえぇ奴なら好きにコメントしていいや」

「いやいるわけないでしょ…」


 楠さんは苦笑気味だ。


「まぁコメデモが言わなくても気になるところがあったらズバズバ言うし、楠さんも気にする余裕はすぐなくなると思うけどね」

「……。実は姫プに憧れてたりするんですよねぇ~」


「弱い姫なんて肉盾以外の価値ねぇよ」

「ひどすぎ」

「まぁ戦場で暴れまわるお転婆姫になってもらいますか。そういう姫プなら大歓迎なんで」

「ハハハ、オテヤワラカニ」


 こんな感じで視聴者に厄介なことをしないよう釘を刺しつつ、今日もノンレートに潜っていく。


 昨日は顔合わせや雰囲気づくりに費やしたのでコーチングらしいことは特にしていない。今日からがいよいよコーチング本番ってわけだ。


「楠さん、使い慣れてるキャラってどんなのですか?」

「えっと、レートでよく使うのはゴクウとマーリンかなぁ。他のキャラもやりますけど、基本的にはこの二人を使ってるからそんなに慣れてる感じではないです」

「なるほど、じゃあ俺らとやるときは別のキャラやってもらうとしても問題はないですかね?」

「そりゃもちろん。教えてもらう立場だし、言われたキャラにしますよ」


 楠さんの返答からは戸惑いや躊躇いといった雰囲気は感じ取れない。出来ればお願いしたいキャラと楠さんのよく使うキャラが被っていれば都合がよかったけど、残念ながらそうはならなかった。


「ゴクウはSetoにやらせたいんですよね。火力担当のこいつに機動力は持たせたいんで」

「あ~、たしかにそうですよね。じゃああたしはどのキャラピックしたらいいですか?」


 現在、このゲームでは15体のキャラクター(英霊)が実装されている。キャラ毎にそれぞれ個性的なスキルと必殺技であるOver Drive(通称:OD)が設定されていて、その構成次第で様々なシナジーを生み出せる。

 

 こまめに能力の調整もなされているから、シーズン毎に流行の構成も変わってくる。リリース当初は強いとされていても、調整によってピック率が激減したキャラもいるしその逆も然りだ。


 そんなキャラの中で、俺が楠さんに使ってもらいたい候補にしていたのは2体だ。


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