第1章12 キャラコン

 初コラボ配信の翌日、今日も3人でコーチング配信を行っている。


 昨日俺とSetoで配信後に話し、コーチング方法としてキャラコントロールを伝授することにした。


 キャラコントロールとは、キャラクターの動きに関するテクニックの総称だ。簡単なものから難易度の高いもの、実用的なものからネタ要素の強いものまで多岐にわたる。


 ただ、キャラコンのなかには不規則な動きを可能にし、戦闘時の被弾率を抑えることができる技術がいくつかあるので、フィジカル強化には必須の技能と言える。今日はそれを叩き込むのを配信のお題にすることにした。


「さて、じゃあ今日はキャラコンを教えようと思うんですけど、楠さんはどの程度はできます?」

「えっと、そんなに難しいのはできなくて、実際にレートで使ってるのはレレレとバニホくらい…かな」


 レレレとはレレレ撃ちの略だ。やり方は至ってシンプル。打ちながら左右に移動するだけ。


 ただ突っ立っての射撃や、一定方向への移動だと敵から狙いがつけやすくなってしまいダメージがかさむ。


 それを不規則な左右挙動にすることによってダメージを減らすテクニックだ。とあるキャラクターと動きが似ていることからレレレ撃ちと言われている。


 これに関しては難易度自体はごく簡単。あとは左右に動きながら敵に弾を当てられるだけのエイム力があればいい。


 バニホは、バニーホップの略で、ウサギのようにぴょんぴょん跳ねながら移動することだ。


 TBの仕様では、回復アイテムなどを使用しているときには走ることができず、移動速度が極端に落ちるようになっている。


 でも、バニホを使えばダッシュ時と同じとはいかないまでも、小走りくらいの速度で移動ができるので有用な技術だ。


 なるほど、基本はしっかり押さえているらしい。実際昨日1on1した時もレレレはやってたしエイムも悪くなかった。てことはまず教えるべきはあのキャラコンだ。


「じゃあ、楠さんにはストレイフをマスターしてもらおうと思います」

「...ですよねぇ~」


 俺の宣言を予想していたのか、楠さんが呻くような声を上げる。まぁ気持ちは分かる。これ慣れるまでは難しいんだよなぁ。


 ストレイフは、ジャンプのテクニックの一つであり、上級者が好んで使う技だ。簡単に言えばジャンプ中に軌道が


 垂直に飛んでいたのに次の瞬間に右・後ろ・正面へと軌道が変わるという物理法則を捻じ曲げた軌道が可能となる。


 実はゲームエンジンのバグからくる挙動なんだけど、いつのまにか公式も認める技術になってしまった。


 複雑なキー入力とシビアなタイミングが求められる。難易度は高いけど、身に着ければ弾の回避率がぐんと上昇するので、多くのプレイヤーが必死になって習得を試みている技術だ。


 コントローラー(PAD)では実行ができず、キーマウ勢の専売特許になっているスキルでもある。


不公平って声もあるけど、PADはキーマウと比べてエイムアシストが強く設定されてるから、あいこという認識で落ち着いている。


「Seto~、ちょっとストレイフ見せたげてよ」

「あいよ~」


 そう言ってSetoがストレイフを披露する。不規則に軌道が変化するジャンプを見せてるけど、あいつ色々やってるな。


「楠さん、実は今Setoがやってるのって実はちょっとずつ違うの分かります?」

「え、全部同じストレイフじゃないんですか?」

「違うんです。まぁさすがに全部マスターするのは時間的にも効率的にも避けたいんで、教えるのはリダイレクトかな」


「リダイレクト…」

「俺はタップストレイフって言ってるけどなぁ。まぁ同じもんだしどっちでもいいや」


 Setoの言う通り、今から伝える技術はリダイレクトもしくはタップストレイフと呼ばれている。


 やり方としては、前方向にWキーで移動しながらジャンプ。ジャンプしながら視点移動し、曲がりたい方向に背中を向ける。右に曲がりたいならD⇒A⇒Sの順、左に曲がりたいならS⇒A⇒Dの順にキー入力をすることで軌道が曲がる。


 他のストレイフと違い、相手に照準を合わせたまま、曲がりたい方向に背を向けることで実行可能なので、回避と同時に攻撃にも転用できるのがこのリダイレクトの強みだ。


 特に、近距離のショットガンでの撃ち合いではこれが出来る出来ないでまるで勝率が変わってくる。是非ともマスターしてほしいキャラコンだ。


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