第1章11 ひより視点 格の違い

楠 日和視点


「それじゃあお疲れ様でした~。また明日配信するね」


 締めの挨拶を終えて配信を閉じる。喋りっぱなしの喉にエナドリで潤いを与え、3時間弱の初めてのコラボを振り返った。


「……すごかったなぁ」


 口をついて出るのはそんなありきたりな感想。でも、実際に一緒にプレイしてみて、改めてこのゲームの最上位の人達の凄みを感じることができた。


 とにかくフィジカルがとんでもない。部隊を壊滅させたところに漁夫の利を狙った敵が襲ってきても、あっさり返り討ちにしちゃう。


 もちろんノンレートだから実力が大きく離れた人たちもいるだろうけど、本来の有利不利をいとも簡単にひっくり返すのは見ていてすごく爽快だった。


 あれがこのゲームの頂点で戦う人たちなんだ。あたしはついていくのでやっとっていうか、ついていくことすら出来てなかったと思う。


 マップの進み方に一切の迷いがなくて、ちょっと物資を漁ったりして気を逸らそうものならいつの間にか二人は動き出していて、あたしが追いつくのを待っていた。


 とにかく動きに一切無駄がなくて、めちゃくちゃ早い。それでいて一瞬の間にあたしが気づいていないだけでものすごい量の思考や判断があったんだと思う。


 結果はどの試合もH4Y4T0さんが言ってた作戦?どおりの蹂躙劇だったし。2人が通った後には誰も残らない。あるのは倒した敵のボックスだけ。


 ほんと、倒された人たちからしたらとんだ災難だよね。まぁプロとマッチしたってのは嬉しい悲鳴かもしれないけど。


 でも、そのシンプルな作戦のなかでも、H4Y4T0さんとSetoさんの間にはまさに阿吽の呼吸って感じの連携が随所に垣間見れた。H4Y4T0さんが指示するのとほぼ同時にSetoさんが動いてることが何回あっただろう。


 2人の息ぴったりの連携を見て、これがチームなんだなっていうのを理解させられた。


 正直、あまりの差に打ちのめされてる。どれだけの努力をしたらあんな動きができるのか見当もつかない。


 そもそも、どれだけ努力しても届かない領域なのかもしれない。パンデモニウムっていうのはもともと才能がある人にしか至れない領域なんじゃないか…。


 違う。才能とか、天才とか、そんな言葉で片付けちゃいけない。あれは彼らが努力で勝ち取ったもの。


 あのフィジカルも、大会を制する圧倒的なオーダー能力も、彼らが血の滲むような努力と時間を捧げて掴み取ったもの。それを天才の一言で片づけるのは失礼だよね。


「だから、あたしだって…」


 努力で至れるのなら、誰にだってチャンスはある。圧倒的な格の違いに打ちのめされた。けど、それと同時に強烈に


 積み重ねてきた時間が違う。練習の質が違う。賭けてきた思いが違う。格の違いは十分すぎるくらいに痛感させられた。だけど、打ちのめされたはずの心に、チリチリと何かが小さく爆ぜているような感覚が確かにあった。


 最近は感じることがなくなっていたTBが好きっていう気持ち。また初めてプレイしたあの時のように。右も左も分からないひどいプレイしか出来なかったけど楽しくて仕方がなかったあの頃のように。


 あたしもそこに至りたいって。あとはやるか、やらないかだけだ。忙しい、時間がない、やらない理由はいくらでも転がってる。


 だけど、弥勒さんが作ってくれたこの機会を、中途半端に終わらせていいの? 自分たちのチーム事情もあるのにあたしなんかに時間を割いてくれてる2人に応えなくて終わっていいの? 


 そんなの、いいわけないよね。


「たしか、100キルって言ってたっけ」


 今日のあたしのノンレートでのキル数を確認する。配信のアーカイブからマッチリザルトだけを確認して合計すると5試合して9キル。はは、2人とも1試合であたしよりキル稼いでるし。


 時刻は23時過ぎ…徹夜かなぁ。乾いた笑みが浮かぶけど、明日やろうは馬鹿野郎だ。あたしは自分に喝を入れ、モードを3on3に切り替えた。


 明日の授業は多分起きれないなぁ。

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