第1章08 タイマン

 こうして3人で射撃場に移動した。射撃場はすべての武器やアイテムが拾えるようになっており、的やbotを使ってエイム練習やキャラコンの練習をする場だ。


 俺もSetoも必ず籠って練習するようにしてる。射撃場には対人戦が練習できるようにフィールドが準備されていおり、長方形のフィールドに高さ2.5m四方の立方体型のコンテナが左右対称に設置されている。戦うにあたって、まずはルールの確認だ。


「キャラはなんでもいいけどそうだな…。パッシブで自己蘇生できるしカーミラで。スキルとオーバードライブの使用はなし。バリアは赤。武器は…楠さんの得意武器ってなんですか?」

「えっと…、ショットガンならディザスターで、中距離ならテンペスタとか烈火とかを使ってますかね」

「なるほど、じゃあこのシーズンの強武器は押さえてると。そうだな…まずはテンペスタでやろう。アタッチメントはフルで。Setoもいいよな?」

「OK~」


 テンペスタはアサルトライフル(AR)のなかでは比較的反動が小さく、縦反動のみなので扱いやすい銃だ。その分一発あたりのダメージは他のARより劣るが、DPSが出しやすく好んで使うプレイヤーが多い。2人が準備を終えてフィールド中央の2連コンテナを挟んで対峙する。


「俺がFF(フレンドリーファイア)を有効にしたらスタートね。BO5(3本先取)で」

「は~い」

「……」


 Setoも返事はないけど準備はよさそうだ。俺は頃合いを見て射撃場の設定からFFを有効に切り替えた


 2人の画面でも設定変更が表示され、すぐに動き出す。お互いが向かいあうコンテナには小さな階段がついていて、銃を持ったまま上半身が出せるようになっている。お互いに駆け上がり、手に持つテンペスタの銃口が火を噴いた。


 バラララララッ。2つの銃声が交差する。一瞬の交戦だが、この段階で楠さんのバリアが完全に剝がされた。バリアとは、使用するキャラの体力を保護するもの防弾チョッキのようなものだ。TBではこのバリアをまず削って剥がし、体力を削り切ることで敵をノックダウン状態にすることができる。


 ノックダウン状態の敵にさらにダメージを与えるか、敵チームを全員ノックダウン状態にすることで確殺となりキルポイントを獲得となる。


 バリアは白⇒青⇒紫・金⇒赤の順に耐久値が高く設定されており、敵に与えたダメージの数値の蓄積によって進化する仕様だ。金バリアはマップで拾うことでのみ手に入り、いくらダメージを与えても赤に進化はしない。


 ただし、回復アイテム使用時の回復量が高くなるようになっている。白バリアが耐久値50で設定されており、以降は25ずつ耐久値が増えていくため、赤バリアは耐久値125だ。


 ここまで育つと1マガジンでノックダウンまで持っていくことはかなり難しくなる。当然エイム力やキャラコンなどが求められ、それらを合わせたフィジカルの強さが上位帯では必須になってくる。


「ヤバっ!」


 たまらず楠さんが階段から飛び降りてコンテナ陰に身を隠す。それを見るやSetoがコンテナに乗って一気に距離を詰めた。FPSは高所を取った方が有利だ。上からの打ち下ろしはダメージが倍増するヘッドショットになる確率が高くなり、ダメージトレードで有利になりやすい。Setoはそのままコンテナ上から容赦なく銃撃を浴びせ、たちまち楠さんはノックダウンを取られてしまった。


「くそ~、負けたぁ~…えっ!?」


 この勝負はSetoの勝ち。今回選択したカーミラのパッシブアビリティで自己蘇生して再戦と思っていたが、Setoが楠さんに近寄ってフィニッシャーを無言で連打し始めた。


 フィニッシャーとはノックダウン状態の敵を確殺する際の演出のことで、キャラ毎に様々なバージョンが用意されている。通常の確殺とは違い、5秒間くらいの専用の演出でかっこよくキルすることができるのだ。

 

 ノックダウン状態になった場合、ノックダウンバリアというアイテムを拾っておくと、ダウン状態の視界の前面に円形のバリアが形成され、銃弾を防ぐことができる。


 膝をついた状態でしか動けないので、素早い挙動はできないけど、ある程度の耐久があるため確殺までの時間を稼ぐことができる。そうして粘っている間に味方がカバーしたり、蘇生したりして戦況をひっくり返すこともある。


 フィニッシャーはそのノックダウンバリアを無効にしつつ確殺ができるという点で優れている。5秒間の演出中は周囲の確認ができないという危険性があるので使いどころが難しくはあるけどね。


 Setoはそんなフィニッシャーを途中でキャンセルしては繰り返すという通称“フィニキャン”を今目の前で実行中だ。無言で。


 はたから見ていると、Setoの操るカーミラが、跪いた楠さんの操るカーミラの首筋をめった刺しにするという狂気の映像が繰り広げられていた。レート戦でやれば間違いなく煽り行為認定される。


「ちょっとぉ、やめてよ! プロがこんな害悪行為していいんですか?」

「……」

「いや、無言で首刺されるの怖いんで! ごめんなさい、煽ってごめんなさい~!!」

「Seto、そろそろストップ」


 Setoに発砲してフィニシャーをキャンセルさせる。正直見てて爆笑した。確かにフィニッシャーは煽り行為とTB界隈では認識されているので、マナ悪行為ではあるんだけど、こうして知り合い間のじゃれ合いとして見る分にはめちゃくちゃ面白い。Setoもレート戦など他のプレイヤーとのマッチでは当然そんなことはしないしね。


 俺のストップでSetoも大人しくなり、楠さんも自己蘇生が終わった。


「……」

「ナイス~」

「……」


 黙る楠さんと煽るSeto。さっきと立場が逆転してる。俺は笑いをこらえるのに必死だ。


「H4Y4T0さん?」

「はい……フフっ」

「次やりましょう」


 あ~これ怒っちゃってますね。静かな声音ながら殺意の波動を感じる。いったんFFを無効設定にし、2人が再びコンテナを挟んだのを確認し、仕切り直しだ。


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