第1章07 邂逅と脊髄

 そして翌日。いよいよ初コラボの時間だ。昨日の配信でも告知したし、楠さんも自身の配信やSNSで告知してくれている。視聴者もいつもより2割くらい増えていた。楠さんのリスナーが覗いてくれてんのかな?

 

 それぞれで配信を始め、こちらの準備はできたので楠さんにチャットを送る。すぐに楠さんからも準備OKと返事があった。


「んじゃ、昨日伝えてたけど今日はVtuberさんと初めてのコラボで~す」

「うぇ~い」

「じゃあ準備はできてるって返事きたし、いつでも入ってもらって大丈夫です~」


 ピコンという通知音とともに、楠さんのアイコンが表示された。


「こんばんは~、楠日和です。聞こえてますか?」

「こんばんは。H4Y4T0です。大丈夫です、聞こえてますよ」

「あ、よかったです。Setoさんもこんばんは、楠です~」

「こんばんは~、Setoで~す」

「声ちっさ!!」


 ダメだ、案の定コミュ障が発動してやがる。普段の半分ほどのボリュームしか出てねぇ。コメントでも同じようなコメントがすごい勢いで流れて行ってる。俺らのリスナーはSetoのコミュ障を知ってるから面白がってるけど、あちらさんのリスナーさんは知らない人も多いだろう。早めに説明しとかないとまずい。


「あ~、すいません。うちのSetoは結構人見知りなんで、しばらくこんな感じだと思います。なんとか頑張って動かすんで」

「いえ、全然大丈夫です。H4Y4T0さんから聞いてましたし。配信見てるときはすごく喋ってるからホントに人見知りなんだってめっちゃびっくりしてます」


「慣れればあんな感じなんですけどね。まぁちょっと泳がせましょう。それより、俺らの配信見てくれてるんですね。日程調整のときにも軽く聞いたんですけど嬉しいです」

「いや~、あの大会見てからSleeping Leoのファンになっちゃって。こうしてコラボしてもらえてすごく嬉しいです」


 俺と楠さんで話を進めていく。楠さんがそんなに人見知りしない性格でほんとに助かった。さすがに人見知り2人を抱えての配信は俺の胃がもたない。


「一応今回のコラボのきっかけというか経緯を軽く説明しとくと、楠さんがコーチングのできるプレイヤーを探してて、弥勒さんからの紹介で俺たちに声がかかったって感じっすね」

「そうですね。あ、弥勒さんも見てるみたい」


 Ragnarok Cupの情報はまだ解禁されていないので、このあたりは事前に楠さんと話を合わせるようにしていた。弥勒さんも顔を出してるみたいだし、そろそろ会話パートは終わってもいい頃かな。ただうちのポンコツがまだ全然会話に混ざってこない。いきなりだがここがタイミングだろう。


「じゃあそろそろコーチングしていこうかなぁと思うんですけど、Setoさ~ん、起きてますか~?」

「んぁ? いるいる」

「いやぁ、楠さんどう思います? うちの火力担当」


 俺が楠さんにパスを出す。昨日の打合せ終わりに送ったメッセで、Setoのコミュ障が発動したときにお願いしておいたことがある。楠さん、察してくれ!


「そうですねぇ。大会とか配信とかでものすごく強い人って思ってたんですけど…なんか弱そうに感じちゃいますね」

「あ? やんの?」


 はい釣れた。Setoはとにかく煽れば脊髄反射で乗ってくる。さっきまであんなに声が小さかったのに、楠さんに煽られた瞬間に普段の声量に戻ってるし。


「いや~、なんか恥ずかしがり屋さんみたいだし、無理しないでいいですよ」

 楠さんが追撃をかます。この人いい性格してるかもしれん。


「やんのかって。俺は全然いいっすよ? やめたほうがいいと思いますけど」

「まぁやめといた方がいいですよね。ダイヤのあたしにもし負けちゃったらSetoさん泣いちゃいそうだし」

「やんのかってだから。ぶち殺すよ?」


 あかん、おもろすぎる。ミュートして聞いてたけど楠さん煽りスキルたっけぇ。Setoが面白いくらいに乗せられてるし。リスナーも大盛り上がりだ。いい感じに空気も温まってきたし、そろそろ会話に混ざるか。。


「よし、じゃあ射撃場で白黒つけよう。楠さんとSetoの1on1ってことで」

「いいですよぉ」

「しゃあ」

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