第1章06 ご挨拶

 弥勒さんから連絡があり、楠さんからもよろしくお願いしますと返事をもらえたらしい。俺は送られた連絡先を追加し、挨拶と日程調整の連絡を準備していた。


「はじめまして、H4Y4T0といいます。弥勒さんから連絡先を教えてもらいました。Ragnarok Cupにメンバーとして参加してくださってありがとうございます。優勝目指して頑張りましょう…こんなもんか」


 シンプルな文章にして送信。いつものルーティンをこなしていると、やがて返信が届いた。


「はじめまして。メッセありがとうございます。楠 日和です。こちらこそ招待ありがとうございます。こないだの大会を見てから、チャンネル登録して色々勉強させてもらっていたので、弥勒さんから話をもらったときはホントにびっくりしました。色々ご迷惑をおかけすると思うのですが、精一杯がんばるのでよろしくお願いします」


 へぇ、チャンネル登録してくれてたのか。関わりがないと思っていた界隈の人にも見てもらえていると思うと素直に嬉しい。挨拶は済んだので、いよいよ本題。


「お返事ありがとうございます。大会の情報解禁や練習カスタムまでまだ1か月ありますけど、それまで楠さんのコーチングを弥勒さんから頼まれてます。顔合わせも踏まえてSetoと3人で配信をしたいのですが、直近で空いてる日はありますか? こちらは基本19時前後から配信をほぼ毎日してるので、楠さんの都合に合わせる方がやりやすいと思います」


 送信してから数分で返事が届いた。結構マメに連絡はチェックする人なのかな。


「コーチングのお話も本当にありがとうございます。私も収録やコラボ以外はほぼ毎日TBの配信をしているので、明日とかでも大丈夫です」


 日程の調整もやりやすそうだ。明日も俺とSetoはいつも通り配信の予定だったし問題ない。初回のコラボ配信は明日19時からということになった。Setoにも一言挨拶をと言っていたが、それは配信の時にと止めておく。練習に夢中で気づかない可能性のほうが高いしな。あとはあいつの軽い紹介と取説を伝えてやり取りを終えた。


「よし、ナイス~」

「GG(Good Game)~」


 今日もいつもどおりSetoとレート配信だ。3時間くらい回して結構ポイントも盛れた。Triumphも取れたし時間もきりがいいのでそろそろ締めに入ろう。


「じゃあそろそろ終わりますかぁ」

「そだなぁ。今日も結構盛れたしいいんじゃね?」

「そうだ、みんなに告知なんだけど、明日はコラボ配信で~す」


 忘れないうちに明日の告知を挟んでおく。コメントでも楽しみという声や相手がだれか知りたがっているようだ。


「そうだった。誰か言ってもいいんだっけ?」

「うん、コラボのお相手は、Vtuberの楠 日和さんで~す」

「よいしょ~」


 Setoの気のない合いの手を受けつつコメントの反応を見る。知らないという人もいたが、半分くらいのコメントは楠さんを認知しているようだ。


「結構知ってる人多いな。まぁ軽く説明しとくと、TBをよく配信してるVtuberさんだね。大手の事務所のぶいあど所属だったかな」

「俺Vtuberさんと絡んだことねぇから怖えよマジでぇ」


 Setoは実はかなりの人見知りだ。俺とは気心が知れているから砕けまくった口調だけど、慣れない相手がいるときは基本喋らない。ミュートしてんの?って不安になることが多々ある。実際していることも多々ある。


「お前いい加減コミュ障治せよ」

「うるせぇコミュ障じゃねぇ! 控え目で奥ゆかしいだけだ」

「じゃあ明日はお前に回してもらうからな」

「頼んだIGL」

「コミュニケーションのオーダーは別料金だよ」


 オーダーになんでも任せようとすんじゃねぇ! しばらくSetoとコントを繰り広げて配信を閉じた。コメントをしてくれるリスナーも概ね好意的な反応を示してくれている。ただ、中にはちらほらコラボを不安視するものや、あまり楠さんに好意的でなさそうなコメントも見て取れた。


 明日の配信は楽しいものにしたいし、楠さんにも楽しんでもらいたい。コーチングを引き受けた以上、強くなってもらうのも俺のミッションなわけで。少しでも予習しようと、俺は眠るまでの数時間、楠さんの配信の切り抜き動画やアーカイブを眺めて過ごした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る