第1章05 大会への参加要請その2
「お、ひーちゃんおはよう~」
「おはようって、もう夕方前ですよ弥勒さん」
「そうだけどひーちゃんからしたらおはようでしょ」
「まぁそうですけど…、で、どうしたんですか? 緊急事態って書いてましたけど」
「そうそう、今度のデートなんだけd」
イラっとして反射的に通話を切ってしまった。ほらね、やっぱり大したことないじゃん。弥勒さんのアイコンを睨んでいると、弥勒さんから今度は着信が。
「ごめんごめん、推しだからつい」
「ライン越えなんですよ! ほんと一回炎上したらいいのに」
「怖いこと言わないでよ! V界隈って過激派多いんだから」
「だったら言わなきゃいいのに…。で、ほんとに何なんですか?」
「あぁそうだった、用件ね。来月うちが開催するRagnarok Cupに出てくれない?」
「へっ?」
全く予想していなかった内容に思わず呆けた声が出てしまった。だってこれまで視聴者として見てきた大会から声がかかると思ってもみなかったし。
「実は今回初参加のプレイヤーから知り合いがいないから心当たりがないかって聞かれてさ。ひーちゃんを挙げてみたんだよ。そしたらそちらがよければ是非って」
「そう言ってもらえるのはすごい嬉しいけど…ちなみに誰ですか?」
「Sleeping LeoのH4Y4T0だね。Setoも一緒のチームで出る」
「……うえぇぇぇっ?」
思わず叫んじゃった…。だって今一番話題のプレイヤーだったから。18歳以下の日本大会をわずか3戦で制したチームを率いるIGL。大会を見るなかで初めてその存在を知って、優勝してから配信を始めたと知ったときはすぐにチャンネル登録した。
Setoさんの圧倒的な火力も当然すごいけど、あたしが魅せられたのはH4Y4T0さんのオーダーの的確性だった。自分と同世代、ましてや1つ年下で、どうしたらここまで正確な立ち回りができるのか。
参考にできるところは真似しようと配信のアーカイブはこまめに見るようにしていた。尊敬しているし憧れのプレイヤーだ。
「あいつらまだ配信始めたばっかで知り合いも少ないからさ。それに年も若いからなかなか声かけにくいだろうし。ひーちゃんは年も近い上にレート帯もダイヤだから条件としてはぴったりだと思うんだよね」
「そっかぁ。紹介してくれてありがとう弥勒さん。でも…」
嬉しいしこんな機会そうそうあるものじゃない。でも、あたしは即答で提案を受け入れることができなかった。あたしと組むと迷惑がかかってしまう。あたしのところに変な人やアンチが来るのはまだいい。
ただ、最近はコラボした人の配信にも荒らしが行くようになっていた。みんな気にしないよと優しく接してくれてるけど、迷惑をかけているのは間違いないから、最近はコラボをしないようにしてる。
もしH4Y4T0さん達と配信して同じことになったらと思うと、怖くてとてもこのお誘いを受けるわけにはいかない。失礼のないように断ろうと思っていると、
「受けたほうがいい」
「えっ?」
いつになく真剣なトーンであたしの出そうとしていた返事を止める弥勒さん。
「大丈夫だよ。ひーちゃんのことを紹介するうえで、最近の状況も含めて伝えてある。H4Y4T0もSetoもそれらを承知でひーちゃんに誘いをかけてくれてるよ」
「そうなんだ…。でも実際迷惑かけちゃうって思うと,,,」
「H4Y4T0から伝言。配信活動始めたばかりのこちらとしては有難い話なのでぜひお願いします。迷惑なんてないので、だってさ」
「……」
「ひーちゃん、最近TBやってても楽しくないだろうなってのは見てて分かる。でも、このゲームはソロでやるもんじゃない。大会もだけどあいつらはひーちゃんのコーチングについてもOKしてくれてるから、大会のカスタム練習が始まるまで色々教えてもらうといいよ」
弥勒さんの言葉で、暗く沈んでいた心に小さいながら灯りが点ったような感覚を覚える。現状を変えるきっかけになるかもしれない。それに、ここまで言ってもらって断る方が失礼な気もする。あたしは心を靄のように覆うネガティブな感情をなんとか振り払う。
「じゃあ…お言葉に甘えようと思います。そのお誘い、是非受けさせてください」
「お~、よかったぁ。じゃああいつらの連絡先送っとくから、顔合わせ配信の日程とか詰めちゃって。楽しみに待ってるよ」
「分かりました。色々ありがとうございます」
「じゃあね~、お疲れ~」
「お疲れ様で~す」
通話が切れてすぐに、弥勒さんからチャットでH4Y4T0さんとSetoさんの連絡先が届いた。向こうから連絡くるだろうからそれまで待っててとあるので、登録だけ済ませた。
最近はずっと沈みがちだったけど、久々にワクワクしてるのが分かる。連絡を待つ間、弥勒さんからの連絡で途中になっていた、今日の配信のサムネイル画像の準備に戻った。
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