第1章09 躾
バララララララっ。今度は楠さんが無理やりコンテナに上がろうとする。今度は高所を取ってやろうとしたのだろう、しかしそんなゴリ押しを許すSetoじゃない。
案の定、コンテナに上がるまでの無防備な隙をついてSetoが1マガジンでノックダウンまで持って行った。
ドォン。と鈍い音が響く。どうやら楠さんが台パンしたようだ。Setoはさっきのよなフィニキャン連打はしないものの、蹲る楠さんの目の前で高速で屈伸しながら煽っている。
「どうしましたぁ? なんかすごい音しましたけどぉ」
「いや、なんでもないですよ? ちょっと手がぶつかっちゃって」
「あぁなるほどぉ~……。弱いっすねぇ~」
「くうっ……コロス」
Setoがエンジンフルスロットルで煽ってる。楠さんもかなり煽り耐性ないなこれ。しれっと殺害予告してるし。
にしてもはたから見てる分には面白いことこのうえない。リスナーも面白がっているのでもうしばらく見守ろう(放置しよう)。
結局次もSetoが勝ち、勝負は決着した…かと思ったが、意地になった楠さんがその後も挑み続け、最終的にB019(10本先取)までいった…全部Setoが勝った。
「もぉ~! マジで悔しい!」
ようやく諦めた楠さんだがひたすらSetoに煽り散らされて大荒れのご様子。こっちは軽く涙が出るくらい笑ったけど。
「H4Y4T0さんも途中から大笑いするし、何なのこのコンビ! クソガキ過ぎ!」
「Seto、お前のせいで俺までクソガキ呼ばわりされてるんだけど」
「わりぃ、俺犬がなんつってんのかは分かんねぇわ」
「…おい、覚えてろよ。マジでやったるからな」
負け犬の遠吠えとさらに追い打ちを食らった楠さん。いよいよ声が平坦になってきてる。公式のプロフみたけど確かこの人お嬢様だったよな!? ガラわりぃなこのお嬢様。しかしSetoはなんのそのだ。
「まぁまぁまぁまぁ、お陰で打ち解けたということで」
「極端すぎませんかねぇ?」
「いいじゃないっすか。おかげで気づいたら普通に話せるようになってるし。ありがとうございますホント」
「納得いかない! ぜんっぜん納得いかない!!」
呻く楠さんだけど、実際Setoがここまで早く打ち解けるのは珍しい。今後は毎回この手を使うか…。そんなSetoのコミュ障対策の今後を考えていると、
「SetoさんもだけどH4Y4T0さんも許せないんですけど!!」
「えっ、俺っすか?」
「そうですよ! ず~っとあたしがボコボコにされるの眺めて大笑いしてたでしょ!」
「いやだって…。おもろいからしょうがないじゃないですか」
「Setoさんは火力担当だからボコボコにされるのは分かりますけど、H4Y4T0さんはIGLですよね?」
「そうですけど、どうしましたか?」
「オーダーがすごいのは分かりますけど、火力はSetoさんには敵わないですよね?」
「……へぇ」
楠さん、言いたいことは分かった。つまり、俺ならワンチャンあると思ったってことだ。たしかに俺はオーダーだし、フィジカルがSetoと同等とは思ってない。
それは認める。ただ、ダイヤ如きが勝てるかもしれないと、そういうわけだ。なるほどなるほど…。
「っはははは。おいH4Y4T0ぉ、言われてんぞ。いいなこの人! めっちゃ面白れぇわ」
Setoのやつ、大笑いしてやがる。まぁたしかに面白い。こんなに負けん気の強い人とは思ってなかった。俺もその負けん気は買いだ。ただ、その思い上がりは正しとかないとなぁ。
「いいよ。ルールはさっきと全く同じ。BO19でやりましょう」
「あ~あ、H4Y4T0を怒らせちゃったな~」
「いやいや、怒ってはないよ。ただいい機会だと思って」
「いい機会?」
「うん、これからコーチングするわけでしょ? 師匠として弟子への最初の躾ってやつですよ。やっすい挑発の代償として、また10回這いつくばってもらいます」
「うっ……」
「ははっ、楠さん。俺よりはマシだけど、ぶっちゃけこいつも煽り耐性ない方っすよ?」
その通り。さっき楠さんがいったことは何も間違っちゃいない。俺もSetoもクソガキで、超がつく負けず嫌いだ。Setoにボコボコにされた後で悪いけど、もう10回ボコボコにさせてもらおう。
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