第6話 【閑話】眷属長の災難
「……っ、くっ……ぅあっ」
大きな揺れは既に収まっていた。
世界全てが搔き回されるような滅茶苦茶な衝撃に、息も絶え絶えだった。
頭を強く打ったらしい。
己の体の制御がまるで効かない。
手も足も、漏れ出る苦悶の声さえも、まるで自分とは別の誰かのもののように感じた。
ふらつく体を気力だけで持ち上げる。
喉がひどく渇いていた。
水が飲みたい。
神より
どこかも分からぬ獣道をひたすらに
その果て、もはや精も根も尽き果てた頃。
私はついに、小さな湧き水を見つけることが出来た。
夢中になって喉を潤して、ふと、
「……えっ?」
自分のものとは思えない高い声が出た。
揺れる水鏡には、驚愕の表情を浮かべる女がいた。
慌てて己の体を確認すると、肉付きや骨格自体が以前と大きく異なっている。
私の体は、紛れもない女のそれと化していた。
卒倒しそうになるのを何とか
訳も分からずに、とにかく元来た道を戻っていった。
「……一体何だというのだっ!」
鬱蒼とした森の中で独り言ちる。
服がだぶついて歩きにくい。
男と女の体の違いに、ただただ困惑する。
悪態の一つも付きたくなるというものだった。
ひたすら草木が生い茂るこの場所は、戦場となった草原地帯ではない。
一体どこの山中に放り出されたのか、皆目見当もつかなかった。
やがて私は、鈍色に輝く巨大な何かの元へと戻ってきた。
私と共にこの森に飛ばされた、卵の様な楕円の形状のそれ。
どうやら乗り物の類いであるらしいが、こんな鉄の塊のような物は見た事がない。
ただ、とにかく。
今のこの妙な状況は、どう考えてもあの男が原因には違いなかった。
「全くっ……ふざけた真似を」
自身の性の変化もそうだが、この乗り物にせよ、霧の出る筒にせよ、不可思議な事物がありすぎる。
魔術か幻術かは不明だが、とんだペテン師と出会ってしまったものだ。
何か手掛かりはないかと荷物を漁ってみたものの、大した成果は出ない。
結局、あの男についての手掛かりすら掴めなかった。
しかし、奴は明らかに危険だ。
竜帝とその信奉者共を殲滅する際の邪魔になるやもしれない。
すぐに仲間達に報告する必要がある。
「……それにしても一体ここはどこなんだ」
同じような木々が並ぶ景色。
闇雲に進めば、迷うのは必至だ。
小さな湧き水を見つけられたのは、正に奇跡のような出来事だったと言えよう。
たった一人静寂に包まれながら、感謝の祈りを神へと捧げた。
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